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第14話「都市国家-5」

「見えた」

 翌朝。

 私はアスクレオさんたちと別れ、昨日教わった通りの道を進んだ。

 そうして昼ごろに少々ヒトをつまみ食いし、小さな川を一つ越え、丘を登り切ったところで森が終わる。


「凄い……」

 私は目の前に広がる光景に驚きの色を隠せなかった。

 タケマッソ村のものとは比較にならない程大きい畑に、森の木々と変わらないような高さの石の壁。

 その石の壁に取り付けられた門を出入りするのは無数の人々と馬車。

 そして、壁の向こう側には三日月型の湖が微かに見えていた。

 これが都市国家マダレム・ダーイ。

 多くのヒトが集まり、作り上げた地。


「と、行かなきゃ……」

 何時までも呆然として居られない。

 私はそう考えて、ゆっくりとマダレム・ダーイの門へと向かう。

 同時に、改めて自分に対して言い聞かせる。

 私は妖魔では無くヒトだと。

 口の中を子細に観察されなければ、ばれる事は無いと。


「ん?そこの君」

「っ!?」 

 そうして、自分としては特におかしなところも緊張した所も無く、マダレム・ダーイの門に近づいた時だった。

 槍を手に持ち、全身を革の鎧で覆われ、兜の上には青く染められた鳥の羽が飾られている男性が私に声を掛けて来て、私は思わず身を強張らせる。


「見慣れない顔だな。それにその反応……ちょっとこっちへ」

「は、はい……」

 此処で逃げ出しても騒ぎを大きくし、怪しまれ、妖魔だと言う事がばれる可能性が増すだけだ。

 私はそう自分に言い聞かせ、その男性の手招きに応じる形で、門の脇に造られた小さな屋根の下へと入っていく。


「そう緊張しなくてもいい。幾つか確認したい事が有るだけだから。ああ、とりあえずそこに座って」

「し、失礼します」

 そして、そこに置かれていた木製の椅子の一つに腰掛ける。

 大丈夫。

 男性の反応からして、私が妖魔だとはばれていない。

 ただ挙動不審だっただけだ。


「さてと、君は今までにマダレム・ダーイに来たことは?」

「無いです」

「都市国家自体も初めて?」

「はい」

 私は男性の質問に素直に答える。

 誤魔化す意味もないし、呼び止められた時点で答えられる質問には素直に答えておいた方が、後腐れも無くて良い。


「なるほど……分かった。それじゃあ、今からもう幾つかの質問をするから、素直に答える様に。ああ、分からない質問は分からないで構わない」

「分かりました」

 それにだ。

 上手くいけば、この会話からヒトの社会に関して新たに情報を得られるかもしれない。

 それは今後の為にも是非とも得ておくべき情報だ。


「まず名前は?」

「ソフィアです」

「年齢は?」

「17……かな?すみません。数えてないので、正確には」

「いや構わない。出身地は?」

「アムプル山脈の奥地です」

「ふむ……マダレム・ダーイに来た目的は?」

「都市国家を見たいと思って旅をしていて、最初に着いたのがマダレム・ダーイだった。と言う所です」

「つまりは旅人……まあ、観光も含むと言う事でいいのかな」

「はい。それでいいと思います」

 男性は羊皮紙にサラサラと何かを描いていく。

 うーん、私は文字が読めないから、さっきから男性が何を書いているのか分からない。

 妙な事は書かれていないと思うけど……やっぱり文字についても何れは学んで読める様にしておいた方が良いかもしれない。


「同行者とかは?」

「居ないです」

「一人と……つまり、腕は立つと?」

「えーと、基準が分からないので何とも言えませんが、野盗やゴブリンぐらいなら問題ないです」

「少なくとも一般人クラスでは無い……と。ああそうだ、アムプル山脈の方から来たと言うが、具体的にはどの道を?」

「あっちの方の道ですね」

 男性の質問に私は門の外……自分がやってきた方角にある道を指差す。

 と、私の言葉に男性は若干目を細める。

 え?私は何か妙な事を言ったの?


「昨日の夜。野営地で誰かに会わなかったかな?」

「アスクレオさんには会いました」

「その事を証明出来る物は何か?」

「えーと、紹介状と言う物なら貰いましたけど」

「見せて」

「どうぞ」

 私は荷物の中からアスクレオさんから受け取った紹介状を取り出し、男性に渡す。

 すると私から紹介状を受け取った男性は丹念かつ注意深く紹介状を読み込んでいく。


「ふむ、分かった」

 やがて紹介状を読み終わったのか、男性は紹介状を私に返すと同時に、ほおを緩ませる。


「歓迎しよう。ソフィア君。マダレム・ダーイにようこそ」

「あ、ありがとうございます」

 そして、握手と同時に私は歓迎の言葉を受ける事となった。

 う、うーん、問題が無かったのは嬉しいんだけど、細かい部分が分からなかったから、そこはかとない不安が付きまとう。


「歓迎ついでに良い事を教えておこう」

「?」

 まあ、この件についてはこれ以上気にしても仕方がない。

 今はマダレム・ダーイがどういう所なのかを良く調べなければならない。


「『大地の探究者』に用事があるのなら、北にある丘を目指すと良い。アスクレオ商店に用があるのなら、マダレム・ダーイの中心地に向かえば直ぐに分かるだろう」

「ふむふむ」

「宿については……異様に安い宿は止めておいた方が良い。街の治安を守る衛視としては心苦しいが、値段が安い店はそれだけ裏に安い訳があるからだ。それから……何か有ったら、兜に青い羽根を付けた人間を頼ると良い。それはこの街を守る衛視の目印だからな」

「ありがとうございます」

「では、君がマダレム・ダーイを好きになれる事を祈っているよ」

 そして、私は椅子から立ち上がる際に男性……衛視さんから渡されたその情報を頭の中で反芻しながら、街の中心部に向けて歩き始めた。

 さて、まずはアスクレオ商店かな。

マダレム・ダーイ到着です

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