第100話「エーネミの裏-9」
「あら、全員揃っているのね」
私たちはその後、直ぐにフローライトの部屋に帰還すると、トーコを部屋に残して、私が発見した壁の向こう側の空間の上に何が有るのかを確かめに行った。
で、とりあえずの調査が終わって、戻ってくる頃には今日の探索を終えたのか、シェルナーシュとサブカの二人も部屋に戻って来ていて、アブレアも部屋の中に居た。
うん、これは色々と丁度いい。
「ソフィアか。トーコから聞いたぞ。魔石の加工場らしき場所を見つけたのと、私たちの侵入経路が『闇の刃』にバレたらしいな」
「ええ、それで今、魔石の加工場所と思しき場所の上にどんな建物が在ったのかを確かめてきたところよ。そっちは何かあった?」
「特には何も起きなかった。俺が逃がしたいと思える家族もまだだ」
「そう」
私はサブカの報酬探しの方の進捗具合を確かめつつ、フローライトの座っているベッドの横の床に座り、全員が居る場所の中心点に灯りと羊皮紙を持ってくる。
しかし、侵入経路がバレて、修理される前にサブカがマダレム・エーネミに入って来れて良かった。
いや、もしかしたらサブカが取水口に入るのを見られたせいでバレた可能性もあるけど……そうだとしても別に問題はないか。
「ま、そっちの件については、一週間後までに区切りを付けてくれれば良いわ。どうせこっちの調査にもそれぐらいはかかるでしょうしね。取水口の件についても問題なし。地下水路の中でも警戒して動けばいいだけの話よ」
「そうか」
と言うわけで、私はサブカと取水口の話を打ち切ると共に、全員の視線が羊皮紙に集まる中で、今日の調査によって分かった事を例の会話以外書き出していく。
「なるほど。つまりはそのベルノートとか言う商人の家の地下に、魔石の加工場があるのね」
「ええ、地理関係的にはそうなるわ」
で、一通り書き終わったところで、全員情報を改めていく。
「そのベルノートって商人はどんなヒトなの?」
「詳しくはこれからだけど、どうにもドーラム子飼いの商人みたいで、この屋敷にも本当に時々だけど出入りをしているみたいね」
「商人か……となると、魔石の加工に必要な道具類の入手も容易いか?」
「容易いでしょうね。それどころか、ドーラムの名を出せば、一般には非合法の物であっても、大抵の物は難なくマダレム・エーネミに持ち込めると思うわ」
「警備の方はどうなっていた?」
「外に出ている警備は普通の商人の家よりも多少多い程度だったわ。ただ、家の中については相当な数……それも外に自分たちが居る事を漏らさないような手練ればかりが控えていそうではあったわね」
まず魔石の加工場所と推定される空間の上に建っていたのは、ベルノートと言う名前の商人の家。
この商人の正体は分からないが、ドーラムの子飼いと言う点から察するに、手練れの魔法使い、そうでなくとも人心掌握術や交渉術など、自分より下のヒトを扱う事に長けているヒトでは無いかと思う。
でなければ、魔石の加工場所の上の建物に住んでいる事が許されるとは思えない。
「まあ、ベルノートについてはこれから調べるとして、今日の調査で分かった点の中で、気になる点が一つあるのよね」
「気になる点……ですか?」
ま、この件についてはこれから詳しく調べてみれば分かる事ではある。
場合によっては、そのベルノートとやらを私が丸呑みにして、情報を奪い取ると言う手段もあるわけだし。
それよりもだ。
「フローライト、アブレア。遺産……と言うものに心当たりはあるかしら?」
「遺産?」
「遺産……ですか?」
私の言葉にフローライトとアブレアがお互いの顔を見合わせ、視線を交わす。
その身から漂ってくるのは……迷い?いや、訳が分からない、もしくは此処でも出て来るのか?と言った感じの気配かな?
んー、よく分からない。
「とりあえず、どういう状況で聞いたのかを説明するわ」
私は壁の中から漏れ聞こえてきた会話の内容と、私の推測を話す。
すると……
「そう言う事でしたら……一つ心当たりがあります」
「そうね。ソフィアの推測通りなら、心当たりが一つあるわ」
アブレアとフローライトが口を開く。
「と言うと?」
「私とアブレアは十年前にクソ爺に囚われたのは知っているわよね」
「ええ」
「その時にクソ爺から散々訊かれたのよ。『遺産の場所は何処だ。遺産は何処にある』ってね」
「あの時は酷い目に遭いました。お嬢様も私も遺産なんて知らないのに、その事を素直に言っても信じてもらえず、散々杖で叩かれた覚えがあります。それに今も時折遺産については訊かれますね」
「へぇ……そうなの」
ああうん、とりあえず状況が許す限りむごたらしくドーラムは殺そう。
アブレアの献身ぶりからして、フローライトの事はアブレアが身を挺して守ってくれたのだろうけど、フローライトの心に与えた傷は決して浅くないはずだ。
だから殺す。
最低でもディランに味あわせたのと同じくらいの屈辱を与えて殺す。
絶対にだ。
「私たちが遺産について知っている事はこれぐらいね」
「そうか……。ソフィア、それで遺産とやらについてどう思う?」
「ふふふふふ」
ふふふふふ、でも実際どうやって殺そうかしらね?
生きたまま手足をもぎましょうか、ひたすらに殴りつけてやろうかしら、ああ、そう言う状況に陥る前にドーラムの家族を……
「おうふ!?」
と、そうやって思考を脱線させていたら、何かで後頭部を殴られた。
見ると、シェルナーシュが杖を片手で振り下ろしている姿が。
おまけにサブカとトーコ、アブレアの三人が若干退いた感じでこちらを見ていて、フローライトは……何故か小さく笑い声をあげている。
あれー?どうしてこうなった?
「ソフィア。それで遺産とやらについてはどう思う?」
まあいいか、今はそれよりも優先して考えるべき事、話すべき事が有る。
「そうね。今の話だけでも幾つか確証を持って言える事が有るわ」
そして私は少し頭の中で自分の考えが間違っていないかを確かめた後、遺産とやらについて現状で言える事を話し始めた。
この遺産こそがフローライトが捕えられた当初の理由ですね
追記:2015/05/15/12:00投稿の所を、誤って2015/05/15/09:00投稿にしてしまったようです。
ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。
明日からは12:00になっていますので、ご安心ください。
05/16誤字訂正