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第10話「都市国家-1」

「んー、いい天気ねぇ」

 タケマッソ村の周辺から飛び出して一ヶ月。

 道中でちょくちょくヒトを襲いつつ、私はアムプル山脈を抜け、南の方へとやって来ていた。


「この調子なら、次の村には問題なく着けそうね」

 さて、このアムプル山脈の南だが、ヒトの間ではヘニトグロ地方と呼ばれているそうだ。

 ヘニトグロ地方は森と小さな丘、湖が数え切れないほどあるそうだが、基本はなだらかな丘陵地帯になっている。

 そして、そこかしかに都市国家と言うタケマッソ村や、此処に来るまで寄ってきた町とは比べ物にならない程に大きくなったヒトの集団が存在するそうだ。

 で、そんなヘニトグロ地方に私がやってきたのは、勿論獲物を求めての事である。


「……」

 都市国家はたくさんの人が集まって作られたもの。

 となれば当然、妖魔への対策も十分に整えられているだろう。

 だが、ヒトと言うのは集まれば集まるほど、その能力を高める生物である一方で、内輪で揉め、隙をデカくする生物でもある。

 そう、考えも無く見かけた人を片っ端から食べるような妖魔なら、圧倒的な戦力差でもって叩き潰されるだけだろうが、ヒトの集団に潜み、夜陰に紛れて適度に人を喰らうだけならば、誰が妖魔なのか分からない可能性は十分にある。

 特に私のように獲物を丸呑みにして、血痕も死体も残さないでヒトを始末できる妖魔なら尚更だ。


「それで、私に何か用?」

 さて、そんな目的でもって一人旅を続ける私だが、一つ困ったことが有る。


「へっへっへ……バレてたのか」

 それは、妙に絡まれやすいと言う事。


「気付いてて逃げねえとはなぁ……」

 勿論、妖魔や獣では無くヒトからだ。


「ぐひっ、ぐひひひひ……」

 私が今居る場所は街と街の間に造られた、左右が森で覆われた道である。

 そして今、左右の森からは武器を持った男たちが現れ始めていた。

 男たちの格好は見るからにみすぼらしく、汚いものであり、多少人ならざる者の特徴を付ければ、妖魔だと言っても疑われないような姿。

 所謂、野盗と言うと言う奴だ。

 数は……十人ぐらいかな。


「ま、用と言っても、大したことじゃ……」

 うん、先手必勝。

 流石に十対一でまともにやり合う気はない。


「ね……!?」

 と言う訳で、一番近くに居た男の首筋に麻痺毒の牙を突き刺して動きを止め、右手で男の腰の剣を掴み、左手で男の肩を掴む。


「ふんっ!」

「ギャッ!?」

 そして、他の男に向けて、一番近くにいた男を片手で突き飛ばしつつ抜剣。

 手近な場所に居た男の首筋に剣を叩きつける。


「コイツ!?」

「舐めた真似を!」

「ちっ、粗悪品ね」

 男の首に叩きつけた剣は、男の首の中ほどまで刃が入ったところで折れ曲がり始め、そのまま折れてしまう。

 まあいずれにしても絶命したのは確かなので、私は男の持つ剣に左手を伸ばして強奪する。


「優しくしてりゃあ付け上がりやがって!」

「ぶっ殺して……」

「はっ!」

 そして森の奥からこちらに向けて弓矢を構えていた男に向けて投擲。

 と同時に私自身も向かって来た男二人に向かって跳躍する。


「グッ!?」

「ゲッ!?」

「すぅ……」

 私は男二人の首を掴むと、全力で握りしめる。

 それだけで、どちらの男もマトモな抵抗をする事も出来なくなる。

 そして、そのままの状態で……


「どりゃああぁぁ!」

「「「!?」」」

 男二人を鈍器として振り回し、他の男たちに向けて手当たり次第に叩きつける。

 果敢に私に向かって攻撃を仕掛けようとする人間がいようとも、持っている男が血まみれになって腹辺りから千切れようとも、私の正体に気づいた男がこの場から逃げ出そうとも、構わずに振り回し続ける。

 そう、真正面から向かってくるヒトは叩き潰す。

 貴重な今日の食事になるからだ。

 そう、逃げるヒトは追わない。

 どうせ彼らは野盗であり、私の正体を話す相手もいなければ、信頼もされないからだ。


「ふう……」

 暴れ続けること数分。

 やがて私の周囲には大量の血と肉片がばら撒かれ、私自身も少なくない量の返り血を浴びていた。

 が、私には傷一つ無く、私以外にこの場で動くものはいなかった。

 うん、始末完了だ。


「さてと。この服……どうしようかしら?」

 さて、始末が終わったところで、私は野盗たちの中でも幾らかは見た目が良い人間を選んで血肉を丸呑みしつつ、少々考え込む。


「それに……これだけ襲われると言う事は、私の側に狙われやすい理由があると言う事よね」

 まず服は変えざるを得ない。

 今の服は適当な村娘を食べるついでに奪った物で、洗えばどんな汚れも落ちるような代物ではないのだ。

 だが、服を変えるにしてもどんな服に変えるべきなのか。

 正直、数日に一度襲ってくれるのは、食料の心配をしなくてもいいので、ある意味ではありがたい。

 だが、あまりにも頻繁に襲われると、普通のヒトに見られ、面倒な事態に陥る可能性が増していく一方なのだ。

 ではどうするべきなのか。


「んー……とりあえず、もう少し強そうに見せておけば、襲われる可能性は低く出来るかな」

 私はそう判断すると、男たちの服から、自分の身体のサイズに合いそうな衣服と革の鎧、それに見るからに粗悪品な剣を二本ほど回収して、腰に挿す。

 下の服は血まみれのままだが……うん、いっそのこと、野盗に襲われた際の返り血だと素直に言ってしまえばいいかもしれない。


「さて、行きますか」

 私は腹が十分に満たされ、身に着けている衣服におかしな点が無い事を確認すると、次の村か休憩所を目指して再び歩き出す。

 ああ、早いところ、都市国家とやらを見てみたいものだ。

不意討ち万歳!

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