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93:国賓

初投稿だったと思いたいので初投稿です

すごく……緊張する。

うん、何と言ってもアントワネットのお兄さんであり、俺から見れば義理の兄に当たる人だ。

ここだけなら親戚になった人なのだが、実はヨーゼフ2世は神聖ローマ帝国の皇帝でもあるのだ。

オーストリア公国と神聖ローマ帝国は合作状態にあるので、女大公でありアントワネットのお母さんであるマリア・テレジア陛下と一緒に国を支えているのだ。


まぁ、ややこしい話ではあるが、ヨーゼフ2世が神聖ローマ帝国の皇帝であり、オーストリア大公国のトップであるテレジア女大公は皇帝を補佐するアドバイザーのような役割を渡しているのだ。

うん、これでもだいぶ噛み砕いて話したぞ。

事実上国のトップに立っている人なんだよね。

ヨーゼフ2世って。

義理のお兄さんに当たる人が急にフランスに赴くことが決まったのは先月の半ばだった。


= 回想 =


「改革の件で話がしたいと?」


オーストリア大使であるアルジャントー伯爵からヨーゼフ2世直筆サイン入りの親書を受け取ったんだ。

内容は、改革についてじっくりと語りたいので7月の半ばまでにお話ができませんか?というものであった。

アルジャントー伯爵が事の経緯を説明する。


「ええ、皇帝陛下もそう望んでおられます。ルイ16世陛下の改革が進んでいる事でアドバイスを貰いたいと……現在オーストリア領内でもマリア・テレジア女大公陛下による改革が進んでおりますが、国内の保守勢力によって改革が行き詰っているのです。何卒、ルイ16世陛下の手腕と改革のアドバイスを頂きたいとおしゃっておりました」

「アドバイス……ですか、なるほど……では来月の10日頃に会談の予約を入れておきましょう。少し早いですがそれでもいいでしょうか?」

「ええ!大丈夫でございます!あとはこちらで調整致します故、またお伺い致します。お忙しい中ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。女大公陛下からの手紙のおかげで身体の健康に気を遣うようになりましたから、私でよければ会談を受け付けますよ」


アルジャントー伯爵がオーストリアに会談了承の手紙を出してから直ぐに返信が来て、7月10日に会談を行う事で了承を得たというものであった。

しかも、その返信が来た際には既にヨーゼフ2世が出発準備に入ったのだという。

準備早すぎやしませんかねぇ……義兄さん。


☆ ☆ ☆


アントワネットに経緯を話すと、納得するようにうなづいていた。

どうやら思い当たる節があるようだ。

現在小トリアノン宮殿で今日のリハーサルを軽く行っているが、それでもヨーゼフ2世がどんな人なのか改めて聞く必要がある。

なので、リハーサルの休憩中にアントワネットにヨーゼフ2世がどんな人なのか尋ねてみた。


「ヨーゼフお兄様はいつも行動が素早いお人ですよ~割とフレンドリーというか、思い立ったら直ぐに行動を行う人ですよ」

「やはり……行動力のある御方だねぇ~」

「オーギュスト様と気が合うかもしれませんわ!オーストリアで改革をしたいと常に仰っていましたから」


改革で気が合う……。

ヨーゼフ2世は史実では「人民皇帝」と呼ばれる程に、農奴解放政策や宗教寛容令を出すなど先進的で開放政策を実施した人でもある。

但し、その大半は改革反対派によって思うようにいかなかった。


実のところ、今俺がやっている「ブルボンの改革」というのがヨーロッパでも最も改革的で、かつ開明な政治を行っていることもあってか、史実でヨーゼフ2世が実施していたような内容をやっているようなものだ。

恐らくヨーゼフ2世としても、今やっている改革をオーストリアでも活かしたいと思ってフランスに赴くつもりなのだろう。


「ヨーゼフ2世陛下がフランスに赴くのは、恐らくオーストリアでもブルボンの改革のような大規模な政治・経済改革を行おうとしているからだと存じます」

「改革か……オーストリアでも改革が始まっているみたいだし、うまく行けばフランス・オーストリアの国力が増大するチャンスだもんね。ハウザー氏はオーストリアの経済状況を鑑みてどう思う?」

「はっ、オーストリアの経済状況はフランス同様に上昇傾向にあります。ただ……」

「ただ?」

「政治に関して些か不安な事があります。マリア・テレジア女大公陛下とヨーゼフ2世陛下との事なのですが……」

「私の事は大丈夫よ、ハウザー氏続けてください」

「はっ、最近テレジア女大公陛下とヨーゼフ2世陛下の間で意見の隔たりがあり、意見の衝突が見られるとの事です」


ハウザー氏によれば、ここ最近テレジア女大公陛下とヨーゼフ2世との間で意見の衝突が目立つようになってきているという情報が入ってきているそうだ。

テレジア女大公は啓蒙思想を支持しており、当時としては開明的な意見を持っていたのだが、ヨーゼフ2世はそれ以上に急進的な政策内容を実行しようとして、意見対立が深くなっているという。


特に、ブルボンの改革が現在の所順調ということもあってか、ヨーゼフ2世は俺の改革を真似てより平民派で急進的な政策内容を打ち出そうとしているらしい。

だとしたら、オーストリアがマズイ状況になるかもしれない。

改革はやったほうが良いのだが、あまりにも急進的だったり舵を切り過ぎれば脱線しかねない。

ヨーゼフ2世とは改革についてしっかりと話すべきだろう。

リハーサルを終えてから、俺たちは国賓としてヨーゼフ2世を出迎えたのであった。

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