92:オーストリアからの訪問
お待たせしました。
500万PVを超えたので初投稿です。
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1771年7月10日
『アンギャン・レ・バンでの入浴療法が人気!国王陛下もご満喫の温泉に迫る!』
『ジャガイモ料理コンテスト、第二回目の開催日決定!』
『労働者の賃金上昇率が15パーセントを超える。経済状況も好景気に突入か?』
朝食を食べ終えてから各新聞社の新聞を読むのが日課となっているルイ16世である。
どの新聞社も平穏な一面記事を掲載している。
そう。
このぐらい平和な状態が一番いいのだ。
暗いニュースよりも明るいニュースのほうが好きだ。
誰だってそう思うだろう。
「今日も平穏な日々になるだろうなぁ~上下水道の整備も始まったことだし、これからが勝負どころってやつかもしれないな」
ここ最近は大きな出来事は起こっていない。
強いて言えば、パリの街中では大規模な上下水道の整備工事が東区画から進められており、10年間かけてパリ中の上下水道の整備を進めようと計画が進んでいる。
糞尿垂れ流しの状態はいい加減に改善させないといけないからね。
上下水道が完成するまでの間に、俺は国王権限で新しい職業を作ることにしたんだ。
名付けて「国営回収処理業者」……実際には糞尿を回収して処理する業者なのだが、糞尿という文字を付けてしまうと、それはそれでいけないと思い国営回収処理業者という名前に変更したんだ。
現在のパリの状況を見ていればこうした業者が必要なんだ。
数階建ての建物の窓から投げ捨てられる糞尿が日常茶飯事になっているパリ市内。
普通に臭いとか最悪レベルだぜ?
やはりこれは改善しなければならないと思ったんだよね。
汚い話になってしまうが、どうしても糞尿というものは人間から必ず出てしまうもの。
処分するにも手間がかかる。
でも、罰金制度を導入しても中々改善が見込めなかったので、その糞尿を買い取ってしまうのはどうだろうかと思ったんだ。
江戸時代、農家を中心に便所に溜まっていた糞尿を買い取るシステムが構築されていたんだ。
そうした糞尿を発酵させて下肥と呼ばれる肥料に変えることで、無駄をなくすという事をしていたんだ。
勿論、こうした下肥は発酵させるまでに数年ほど時間が掛かるし、何よりも発酵が不十分だと作物が根腐してしまう上に、寄生虫などがそのまま作物の中に取り込まれてしまうという恐ろしい事態を引き起こすリスクが出てきているんだ。
(下肥文化がある日本いえど、流石に大根とか地面の中で育つ野菜は漬物にするか十分に熱してから食べたみたいだな……)
そうした事情を踏まえた上で、糞尿処理用として各地に発酵施設を作って、下肥が出来上がるまでの3年間は汚水集積場を設けた上で、パリ市民には糞尿を買い取るシステムを試験導入したんだ。
アパート一軒につき、3リーブル程だ。
週に2回、回収業者がアパートに訪れて一室ごとに糞尿の入った桶からそうしたブツを回収するというものだ。
使用する道具や身につける作業着も国が支給し、糞尿を取り扱うので感染症などになるリスクもあるので危険手当ても勿論つけさせる。
早朝6時から昼過ぎまでに糞尿を回収してから、午後4時頃までパリ郊外の集積場まで運んでから発酵を行うというものだ。
この仕事を行うのは、捨て子だったり職にあぶれてしまったホームレス状態だった人達を雇用して行っている。
もっと清潔で安全な仕事をさせてやりたい気持ちもあるが、公示人がこうした仕事でも住む家と衣類そして食事を与えると宣伝した結果、積極的に参加を希望したらしい。
報告書を見てみると、パリ市内では数百名以上の捨て子がおり、このうち85パーセントがこの仕事を紹介すると働くことを自らの意志で希望したと書かれている。
国の事業だし、なおかつ衣食住の提供が相当魅力的だったようだ。
給料も衣食住から引かれるものを除いても、危険手当付きで日給1リーブルと大人の労働者の日給とほぼ同額だ。
「彼らは殆どがホームレス状態だった子供たちか……いわゆるストリートチルドレンってやつか……ふむ、彼らで文字が読める子はいるか?」
「おりますが、数えるほどしかおりません……殆どが文字の読み書きを教わる前から捨て子になった者達でございます」
「なら、文字の読み書きができるように教育も1時間ほど付け加えたほうがいいかもしれないな。計算や読み書きができる子供を班のリーダーとし、教育も週2日間は行うようにさせよう。他の仕事をやりたい時に役立つだろうからな」
「かしこまりました」
報告書を持ってきた行政人に、彼らが文字の読み書きをできるように指示を出した上で、勉学と仕事を両立できるようにスケジュールを組むようにお願いした。
このシステムを導入したおかげもあってか、路上で糞尿を投げ捨てる行為が大幅に減ったようだ。
試験運用でさらに目に見える結果が出るのであれば、今年中にもパリ中で糞尿を回収するように指示を出すつもりだ。
さて、こうしている間にもビックイベントが迫っている。
俺はこれからとある御方を出迎えないといけない。
6月にオーストリア大使から、アントワネットのお兄さんであるヨーゼフ2世がフランスに赴いて俺とアントワネットと謁見したいと申し出てきたんだ。
何でも改革の事で話があるということだ。
おぉう……俺、改革で何かしてしまったか?
とにかく、ヨーゼフ2世は今日のお昼過ぎにこのヴェルサイユ宮殿にやってくる予定になっているんだ。
新聞を読み終えてから、俺は閣僚と共にヨーゼフ2世を出迎える最終的な準備を進めるのであった。