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90:TANK-TypeB

もし、本小説を読んでいて不快に感じた方は静かにブラウザバックして頂いて構いませんので初投稿です。

★ ☆ ★


オーギュスト様はとってもシャイな方です。

私がちょっと抱き着いただけで顔を真っ赤にしてしまって慌てている様子を見ていると、とっても面白いと思う反面、彼からもっとアプローチが欲しいと感じる事もあります。


”アントワネット!今日は新しく出来たアンギャン・レ・バンの温泉に行くよ!”


休日を丸々一日使って温泉に浸かりに行くとオーギュスト様は宣言しました。

私も休日の予定が空いていたので温泉に行くことにしたのです。

温泉ですよ!温泉!

オーストリアでは天然の温泉がいくつもありますが、ここフランスでは入浴という風習が無いのでヴェルサイユ宮殿のバスタブで浸かっている毎日でした。


「本当に温泉が出来たのですか?」


私がそう尋ねるとオーギュスト様はそうだよと答えて言いました。


「うん、パリの近くに出来たんだ!あと2時間ぐらいしたら出発するけど……いいかい?」

「ええ!勿論ですわ!早速準備しておきますわね!」


そう、オーギュスト様は私へのサプライズの為に直前まで温泉の事を言わなかったのです!

嬉しいと思う反面、急でもあったので少々驚きました。

フランスの温泉施設……。

どんな場所かワクワクしていました。


天然の温泉に入れるということもあってか、私は張り切って厨房でサンドイッチを山ほど作ってしまったのです。

なぜこんなにたくさん作ったのか自分でも疑問に思います。

ですが、オーギュスト様が言うには馬車で1時間以上掛かる場所に温泉施設が建てられたという事で、移動中の軽食なども考えてサンドイッチを作りました。


オーギュスト様の大好きな生ハムにドレッシングで味付けしたサンドイッチを何枚も重ねるように作りあげました。

手持ちの籠はあっという間にサンドイッチで一杯になってしまいます。

それでも出発の時間までにオーギュスト様が喜ぶようなサンドイッチを作って場を盛り上げたい。

その想いが一杯だったのです。


オーギュスト様と私の二人だけの旅行。

恐らく初めてではないでしょうか?

護衛の人達がついてきているとはいえ、それでも今回はランバル公妃はお休みを頂いておりますし、ハウザー氏も国土管理局でお仕事があるので、私達二人だけの旅となります。

日帰りとはいえ、オーギュスト様と一緒に旅ができるのです!

それはとても嬉しい事でもあります。


馬車の中でオーギュスト様と会話を楽しんだ後、一緒にサンドイッチを食べたりして時間を過ごしました。

そんな移動中のささやかなひと時が終わった後に待っていたのは、温泉の心地よさでした。

硫黄泉という少し臭いが強い温泉でしたが、それでも入ってみればこの温泉の良さが分かります。


アンギャン・レ・バン……。

この温泉のある場所の名称なのだそうです。

オーギュスト様によれば、この建物を含めて殆どを現地の人達が建設に加わったのだそうです。

曰く、この辺りの人達の収入源にもなる上に、観光地として活用できるようになれば、雇用がもっと拡大するからなのだそうです。


さすがオーギュスト様です。

そうしたところまでお考えでいらっしゃったとは……。

いつもオーギュスト様は一歩、二歩を先を見据えて手を打ち込んでくる人です。

分かっている課題があれば、その課題の問題点と改善点などを挙げてから問題解決のための道筋を立てるのが非常に上手なのです。


私と一緒にお勉強をしている時もそうでした。

わからない事があれば、その問題に対して分かっている事と分からない事を二分してから問題解決に向けて進むのです。

以前、ウィーンにいた時にお母様がお雇いになられていた家庭教師の方々は問題の答えだけを求めておりました。


その時、私には分からなかったのです。

何故、このような答えになってしまうのかと。

答えにたどり着くまでの道のりが記されていなかったのです。

私はそれ以来、勉強に打ち込めずに何とかフランス語を覚えた程度でした。


しかし、オーギュスト様と一緒に勉強するようになってからは、勉強がみるみるうちに頭の中に入ってくるようになったのです。

恐らく私のやり方が間違っていたのでしょう。

それでもオーギュスト様はお叱りになるどころか、その逆で褒めてくれたのです。

オーギュスト様が先生だったら、私はずっとオーストリアにいたかもしれません。


あら、お風呂の話からそれてしまいましたわ。

オーギュスト様と一緒にお風呂に入るのは初めてです。

お互いに服を着ているので恥ずかしくはありませんわ。

裸同士だったら、お互いに恥ずかしい感じになってしまいますが、白地の服を身につけた状態でお風呂に入れば、そうした羞恥心は殆どありません。


お湯に浸かっていて分かった事があります。

それはオーギュスト様が温泉を通じて目指している物です。

オーギュスト様は、この温泉を温泉療法施設として一般庶民にも解放して使えるようにすると仰っておりました。


裸で入るのではなく服を着た状態で入り、お湯で浸かって入浴するので混浴という形でも大丈夫だろうという判断だそうです。

何よりも、フランスの方々が温泉に入るようにする為に営業を開始してから1か月間はマナーや入浴作法を学ばせるために抽選で選ばれた人が入れるようにするとの事です。


既に募集が3000人を超えているらしく、その中から700人ほどを選んで作法を学ばせるようです。

入浴する際に禁止事項などを説明するそうですが、やはり文字だけでは文字が読めない人達にも理解がしにくいとの事でイラストも付けて説明をするように指示を出すとの事です。

いつでも頼りになる御方であると同時に、オーギュスト様が私の夫である事も事実です。


なので……私は思い切ってオーギュスト様にアプローチを試みたのです。

妻である私の務めを果たすように……お母様から言われている事です。

ですが、アプローチは残念ながら失敗に終わってしまいました。

やはり、オーギュスト様は何処までも信念を貫こうとするお人です。


私が18歳になった時に、妻として……愛している女性として誓いを交わすと。

そう仰っておりました。

その信念が変わっていない事に私は心に打ち震えつつも、その動揺を必死に隠しました。

温泉を出てサウナに入った後に、まだまだ私に物足りないところがないか見つめ直し反省しながら、オーギュスト様と一緒に水風呂できれいさっぱり汗を洗い流したのでした。


お風呂から出た後でオーギュスト様からサプライズがありました。

なんと私の大好きな牛乳を出してくれたのです!

しかも瓶を地下水で冷やしているので、いつもとは違う味になっておりました!

ここまで味が違うだなんて……。

オーギュスト様はこの牛乳を名産品として販売する予定を立てているようです。


のどごしがよくて……ここまで美味しい牛乳は初めてです!

さらに、ショコラ入りの牛乳に至っては、甘さを引き立たせるために砂糖を入れているとの事です。

甘いショコラと牛乳がマッチしてとっても美味しい味ですの!

温泉に来て良かった。

私は温泉でオーギュスト様と一緒に身体を休めることにしましたの。

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