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89:アサルト

お風呂編はこの話を含めて3話で終わります。

それまでお付き合いを頂きたいので初投稿です。

感想お待ちしております。

お風呂を十分に堪能した後、俺たち二人は別室に設けられたサウナに入る。

やはり欧州といえばサウナだよね。

特に北欧を中心にサウナが大人気だ。


この時代では温泉よりサウナに入る人の方が多いようだ。

あのムシムシとした空間で汗をかくのが健康に良いそうだ。

俺個人としてはサウナもありだけど、何よりもアントワネットがサウナに入ってから水風呂で〆ましょうと勧めてきたのは意外だった。


「オーギュスト様、是非とも最後はサウナに入って行きませんか?」

「サウナかい?俺は構わないけどアントワネットはサウナに入りたいのかい?」

「はい!サウナに入って汗を流してから水風呂に入って気持ち良くフィニッシュを迎えたいのです!」

「サウナねぇ……。うむ、確かに火照った身体を水風呂で鎮めるのもいいね!その提案に乗った!」


そんなウッキウキの上機嫌のアントワネットに付き添うようにサウナ風呂に入室した。

実のところ、温泉療法施設だけにサウナ風呂も必要だと周りの人から言われたのだ。

というのも、ヨーロッパではサウナのような蒸し風呂のほうが伝統的であり、オーストリアや日本のように湯に浸かってお風呂に入るという事のほうが珍しいらしい。

その理由には水質の問題などもあるらしいが、詳しいことまでは分からん。全然分からん!


特に北欧のフィンランドでは実に西暦1000年頃からこうしたサウナでリラックスするのが伝統的らしい。

なので温泉よりもサウナ風呂のほうが普及しているようで、このサウナ風呂もプロイセン王国出身のサウナ風呂技師が設計したものだという。


実のところ、俺はあまりサウナに関しては知識が無いからね。

下手に知識がないのに設計をするのはマズイ。

なので詳しく知っている人に任せたほうが無難な作業だ。

このサウナ風呂に関しては、完全に設計を委託したものだ。


(サウナに入ったのはいいんだけど……サウナのやり方ってどうすればいいんだ?俺、サウナ風呂でトラウマがあってから入っていないんだった……)


俺はサウナに関してはド素人もいいところだ。

何せ銭湯に行ってもサウナには入らずに入浴だけで済ませてしまっていた者だからだ。

それには心に刻まれてしまったトラウマがある。

話せば長い……。

そう、もう記憶の片隅に残っている古い話さ……。


今でも忘れられない高校生時代の修学旅行……。

京都のホテルに宿泊した際に、偶々サウナ風呂も併設していた入浴施設があったんだ。

俺はそこでサウナ風呂を楽しんでいたんだが……。

一つだけ大きな事故を起こしてしまったんだ。

それは、熱く熱せられた石が置かれている場所に手を思いっきり突っ込んでしまい、火傷を負ってしまったことだ。


理由は単純だ。

サウナ風呂でのぼせて立ち眩みを起こして、そのまま利き手である右手で壁を掴もうとして……。

熱せられた石の中に手を突っ込んでしまった。

その時の痛みは今だに覚えている。

石をどけようにもうまい具合にハマってしまい、取り出すのに30秒以上掛かった。


取り出した際に、手は焼けただれていて激痛を我慢しながらシャワーの冷水で徹底的に冷やして引率の先生に付き添われて京都の病院で治療を受けたんだ。

火傷をしたところは幸いにも大事には至らなかったが、暫くは箸を持てなくて苦労した。

特にその後の修学旅行で京都の清水寺や稲荷大社に行った際にもお茶はともかく、お菓子や料理を慣れない左手で必死に食べるという事になり、結果的にサウナ風呂に入るのをためらうようになってしまったんだ。


火傷が治っても、銭湯のサウナ風呂にはどうしても入ることが出来なかった。

しかし今、こうしてアントワネットと一緒に入っている。

トラウマと向き合うのはかなり勇気がいるが、それでもアントワネットと一緒なら大丈夫だ。

落ち着いてやれば問題ない。


現にアントワネットと一緒に入れているじゃないか。

アントワネットはリラックスした様子でくつろいでいる。

この蒸した空間でアントワネットの匂いが蒸して混ざり合っていると考えると、それはそれで官能小説のような見出しになってしまうな。

いかんいかん。危ない、危ない……。

こっちに集中せねば……。


アントワネットが焼け石に水を掛けると水蒸気がプシャーと音を立てて弾け飛ぶ。

蒸した空気がサウナ中に広がっていく。

実に身体がポカポカを通り越してムシムシと暑くなってくるね。


「いや~……やはりサウナ風呂は暑い上に結構汗をかくね……」

「ええ、でもこうして汗を流すことも健康に良いそうですよ。主治医の方々が言ってましたわ」

「そうだねぇ……血行を促進するみたいだし、血の巡りが良くなるみたいだから身体にはいいかもね」


アントワネットとサウナ風呂を十分に楽しんだ後に、二人そろって〆の水風呂に入る。

火照った身体にひんやりとした水が実に気持ちいい!!!

あぁ~極楽だなぁ~と思いながら、今日はここに来て良かったとつくづく実感する。

ヴェルサイユ宮殿に公衆浴場が建設されれば、そちらも利用するつもりだが、やはりこうした天然の温泉を利用したお風呂も最高だ。


「本当に……気持ちの良いお風呂でしたわ……」

「そうだねぇ……最後のサウナ風呂も中々いい感じだよ」

「そうですわね、オーギュスト様がこうして温泉療法施設を作ってくださったお陰ですわ」

「ふふふ、まだまだこの施設には隠し玉があるんだよアントワネット」

「あら?!そうなのですか?!」

「ああ、お風呂から上がって服に着替えてからのお楽しみさ……」


そう、俺はこの瞬間をずっと待っていた。

お風呂上りの一杯。

それは中身が日本人である俺として欠かせない行為である。

この温泉療法施設を建設するにあたって、アンギャン・レ・バンの地下水を何かに応用できないか検討した所、ある発想を思い付いたんだ。

それは、地下水を利用して冷やした牛乳を提供できないかというものだ。


硝子の瓶に入れた牛乳にしっかりと栓を締めてから瓶を詰め込んだケースを地下水で2時間以上冷やす。

冷蔵庫ではなく、自然の力で冷やした牛乳だ。

アントワネットがショコラを気に行っているという事もあって、ココア入りの牛乳も既に準備させているのだ。

ふふふ、これぞお風呂上りのお楽しみ……!

俺からのサプライズはまだまだ続くのであった。

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