87:Sky Shooter
新年も初投稿です。
「これが……アンギャン・レ・バンの露天風呂か……」
「す、すごいですわ!!!」
アンギャンの地元住民がやってくれました。
勿論、良い意味で整備を手伝ってくれたんだと思う。
いやはや、正直俺は図面こそ引いたものの、ここまでやれるとは思ってもみなかった。
そこにあったのは、絶対整備している人の中に俺と同じような日本人転生者が建設に関わっていたんじゃないかと思った程だ。
この露天風呂……かなり日本っぽくなってしまった。
まず、驚いたのは日本の露天風呂のように周囲の自然を意識した作りになっている。
露天風呂に浸かる際に重視する点は何か?
それはやはり景色だろう。
何より雰囲気というものが大事だ。
露天風呂に入ろうとしたら辺り一面工場地帯であったら雰囲気もへったくれもない。
露天風呂を取り囲むように大きな石を設置し、お風呂の床は足を傷つけないようにタイルで舗装されている。
それでいて、殺風景にならないようにとの配慮か、周囲には花まで咲いている。
そして奥には見渡すように池と木々が生い茂っている場所が一望できる!
ここ、とってもいいじゃんか!
外から見た感じだけだと殺風景だが、ここだけは別だ。
どことなく日本風の香りがしてくるぞ!
これでヒノキとかの木材が使用されていたら完全に日本と間違うんじゃないかと思うぐらいだ。
次に温泉についてだ。
硫黄泉ということもあってか、時たま卵を腐らせたようなツーンとした臭いがしてくる。
無論、涙が出るほど臭いが酷いというわけじゃないが、これでもだいぶ泉源から湯で薄めた代物らしい。
まぁ硫黄って名前が付くぐらいだし、こればっかりはしょうがない。
アントワネットもこればかりは少々顔をしかめた。
「なんだか一瞬変な臭いがしましたけど……これは一体?」
「あーそれが硫黄の臭いだよ。大丈夫?」
「ええ、平気ですわ!でも、ちょっとだけ不安になってしまいました」
おっと、ちょっとアントワネットが入りづらい感じになってしまったぞ!
ま、まぁ硫黄泉ベースだしそれはしゃーない。
ここは国王であり、夫である俺が先に入浴の手本を見せながら入るようにゆっくりと促すしかあるまいて!
「そうだね、こういう温泉は珍しいからね。せっかくだし、東洋の島国日本における入浴前の作法というのをここでやってみるかい?」
「日本……ですか?そういえば以前オーギュスト様が日本の茶碗というものが欲しかったんですよね?」
「そうなんだ、欲しかったデザイナーの茶碗は見つかったんだけど、アーティストの画が無かったんだよ……俺は日本という国についてある意味神秘的な可能性を秘めている。それで国が鎖国体制だけど、俺の力で開国させてやりたいなって思っているんだ」
「まぁ……フフフ、オーギュスト様ならきっと出来ますよ……」
国の基盤体制が強靭化できたら日本に開国を迫ろうと思ってます。
一応中身日本人だからね。
日本の物や転生前の日本人としての生活が恋しくなる時がある。
転生当初、この時代なら伊万里焼とかあるだろうし、葛飾北斎先生の『富嶽三十六景』が欲しいと思ってオランダの貿易会社経由で注文したんですよ。
そしたらね。
伊万里焼は届いたんだけど、無かったの……。
葛飾北斎先生の『富嶽三十六景』が……!
そんな馬鹿なと思って頭の中の記憶をフルに回転させて思い出した結果、まだ葛飾北斎先生は画家として活動していなかったんじゃないかと思う。
江戸時代後期辺りに活動していたというおぼろげな記憶を頼りにしていたんだが、恐らくまだ有名になっていない時期か、もしくは画家として活動していないのではという結論に至った。
そんな苦い思いをしつつも、アントワネットとのエンジョイライフを満喫しているのさ。
翌々考えたらそれ単に自慢話しているだけじゃないですかヤダー!
全くもって関係ない話を考えるのは止めよう。
おもっきし話が脱線している。
いかん、危ない危ない危ない……。
1分ほど間をおいて日本式の入浴作法をアントワネットに伝授し始める。
「まず、いきなり湯船に浸かろうとするのはダメだよ。こういった天然の温泉は熱い場合があるからね。だからまず桶を使って湯を汲み上げるんだ」
「お湯を汲み上げるのですか?」
「そうそう、それからこうしてお湯の温度を確認して大丈夫そうだったら肩からこうやって湯を掛けて身体の汚れを落とすんだ」
意外かもしれないが、外国人が日本でやってきて驚く事は入浴の目的だろう。
日本では身体の汚れを清めてから入浴するというのが一般的だが、外国人の場合は身体の汚れを落とすために入浴するという。
なので、外国人の場合は真っ先にお湯に入ってしまうのだ。
そうした事もあってか、現代の銭湯では入浴のルールで先に身体をシャワーで洗ってから入浴してくださいと注意書きがされている程だ。
アントワネットも、この作法を聞いて驚いた顔をしていた。
「お、お湯加減はどんな感じですか?」
「そうだね、ちょうどいいぐらいだよ。アントワネットも触れてみるかい?」
「え、ええ……ではお言葉に甘えて……」
桶に入った湯にアントワネットは恐る恐る手を入れてみる。
ちょうどいい温度だったこもあってか、笑みを浮かべている。
「ちょうどいい温度ですね……これで先程オーギュスト様が行っていた作法をすれば宜しいのですか?」
「そうそう、因みにこの入浴作法は今から200年前ぐらいには確立されていたみたいだよ」
「な、なんだか日本の入浴作法は私が思っていたよりも、綺麗好きなのですね……」
「綺麗好きというのもあるだろうし、何よりも清潔を重視している国民性だからね。穢れを落として湯で身を清める……それが日本の温泉作法みたいだよ。この作法を俺が気に入っているんだ」
「素晴らしいですわね!では私も早速やってみますわ!」
そういってアントワネットは早速俺と同じようにお湯を身体に掛けて身を清める。
身を清めてからいよいよアントワネットと一緒にお風呂に入る。
俺はゆっくりと足先から滑らないように慎重に湯船に浸かり始めたのであった。