83:強い鋼の意志
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1771年4月12日
フランス パリ
『ヴェルサイユ宮殿にて改革式典が行われる!身分を問わず様々な人々が集まり、王国の将来に関わる問題に取り組む』
『国王陛下もご参加、総勢200名による改革派の式典は質素ながらも、かつて行われたどの式典よりも決意と意欲に満ちあふれている』
『新聞各社に開かれた討論、まさに国民に対して開かれた意義のある討論である』
ヴェルサイユ宮殿で改革式典が行われてから1日が経過した。
新聞のトップに式典についてきめ細やかに描かれている。
各新聞社は腕利きの画家を雇い、その様子を鮮明に記録した。
式典内容が質素だったものの、それ以上に有意義な内容であったと各社の担当した記者たちは太鼓判を押して称賛するほどであった。
かの改革式典の様子は画家や新聞記者によって詳細に国民に伝えられた。
改革派と一つに纏められているが、彼らの職種や身分は様々だ。
平民、聖職者、貴族などの三身分階級だけではない。
プロテスタント系もいればユダヤ人もいる。
さらに改革にはプロイセン王国出身の者なども招かれており、多種多様であった。
国王陛下であるオーギュストは参加した者たちを「改革責任者」という役職に就かせて、フランス各地で大規模な改革をゆっくりではあるが、着実に実行していくことを宣言したのだ。
ブルボンの改革……。
いつしかそんな呼び名が付けられていたが、ここに来ていよいよ国民の大多数がブルボンの改革について大々的に実行に移されることに歓迎の意を示していたのだ。
特に、パリでは啓蒙思想などに影響を受けている学生や活動家などがカフェに籠ってオーギュスト主導の改革の内容について議論を交わしていた。
勿論、カフェだけに先に料理と飲み物を注文してからの討論が始まる。
今日、この店にやって来たのは常連客であり、現在パリで弁護士を目指している情熱に溢れた若い青年であった。
「いらっしゃいませ!今日もこちらで討論会ですか?ピエールさん?」
「おうとも、少々奥の座席を借りるがよろしいかな?」
「勿論ですわ!では、お連れのお客様は今日は3名ですか?」
「ああ、皆にカフェ・オレと春野菜のサラダを頼む」
「かしこまりました。では席についてお待ちください」
ピエールと名乗る青年は同じ弁護士の道を目指す仲間たちと共にカフェの一角を借りて討論会を行う。
その討論会の内容を整理した上で勉学のレポートの一部として提出する予定なのだ。
そんなピエールの本名はピエール・ヴェルニヨと言う。
史実ではフランス革命において共和派・ジロンド派で演説などが得意な事を受けて雄弁家として名をはせた人物でもある。
とはいっても、改革が実行に移されている現時点では革命家としての思想には感化されておらず、むしろオーギュストの指導力に感激して如何にして改革に加わることが出来るか考えている程であった。
特に、彼らが驚いていたのはオーギュストの年齢である。
カフェ・オレと料理が到着するまでの間、ピエール達は国王陛下の年齢の話から始めた。
「それにしてもこれだけの改革の内容を思い付くとは……国王陛下は今年おいくつなのだ?」
「聞いて驚くなよ。陛下は今年で16歳だ……」
「16歳……嘘だろ?俺より10歳も若いではないか!!!16歳でこれだけの改革を思い付いたというのか!!!」
「ああ、しかも噂で聞いた話によれば、この改革は前国王陛下であるルイ15世ではなくて現国王陛下が半年前から既に練っていたものだそうだ」
「なんだと……その話が本当なら陛下は物凄く頭がいいのではないか?!」
そう、まだオーギュストは16歳なのだ。
16歳の少年が思いつくような改革内容ではない。
彼の後ろに強力なバックがいるのではないかと囁かれていたほどだ。
だが、これほどまでに国民に対して開明的な国王はかつて存在していなかった。
パリの新聞社を招待し改革式典の様子を記した上で、その内容を国民に伝えるようにと指示を出したオーギュストの事を、大勢の国民が注視していた。
また、カフェでは改革の主要メンバーの多くが平民出身者を取り入れていることに驚きの声が上がった。
「それにしても国王陛下はすごいなぁ!貴族・聖職者だけでなく平民も大々的に取り入れて改革の主要メンバーに入れるとはな……」
「財務総監にジャック・ネッケルさんを起用する御方だぞ。平民でも有能な者はドンドン取り入れると布告を出していたじゃないか!」
「それでも驚くよ!」
「驚くのはまだ早いぞ。何と言ってもフランス科学アカデミーからも改革派が参加して国王陛下と会談したそうだぞ。国王陛下はかなり科学技術について精通しているようだ。科学技術を普及させるために予算を倍にしたそうだぞ」
「それはフランス科学アカデミーだけか?」
「いや、文学・数学・科学・農業・医学……ほぼすべての分野に予算を倍額で投資を始めたらしい……」
「……陛下は本気で改革を行おうとしているのかな?」
これまでの国王とは違い、オーギュストの特筆すべき点は大規模な行事などを行っていない事だろう。
今回国王になってから初めて式典を開いたものの、その催しは質素だったという。
また、それまで貧民の食べ物だと馬鹿にされていたジャガイモを使った料理を食べたり、国民にジャガイモの栽培を普及させるために美味しいレシピなども全国の新聞に記載している程で、これまでの国王と違い国民に対してオープンであり、平民の多くがオーギュストを支持している。
ピエールもオーギュストの改革が本気であるならば、この改革は必ず成功するのではないかと期待を寄せている。
「国王陛下がこのまま改革を継続できれば大いに国は繁栄するぞ!」
「ああ、どんな感じに発展していくのか楽しみだな!」
「お待たせしました!カフェ・オレと春野菜サラダです!」
「おっ、待ってました!!!」
「さて、討論は一旦止めてカフェ・オレとサラダを頂こうじゃないか!」
「ああ、まずは食べてからだな!」
ピエール達の討論は一旦ストップとなる。
まずは腹ごしらえをしてからだ。
ピエール達は30分ほど時間を掛けてカフェ・オレと春野菜サラダを食べてから閉店までカフェで改革について語りあう。
他の人達も合わさって、いつしか改革を支持する者たちが改革派としてカフェで討論を行うことが日常的になりつつあった。