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80:気候問題

年末年始も初投稿をしたいので初投稿です

「さて、火山の噴火によって作物が不作となり食料危機が起こったという設定ではあるが……どのような問題が起こるか?思いついたことがあれば手を挙げて言ってくれ。俺が紙に書いておこう」


ディスカッションで重要となる書記は俺がやることにした。

思い思いに言う事が大事だからね。

皆の意見を書き写すのも書記の重要な役割だ。

筆の進み具合は早いほうだと自負している。

まず、気候変動に関連して起こり得る問題について最初に手を挙げたのはアントワネットだ。

流石だぞアントワネット!

というか早い早い!

まだ30秒も経っていないぞ!


「はい、まず治安の悪化が心配されます。特に農村部で作物が不作すると必然的に都市部にはもっと食料が入りにくい状態になります。食料の高騰によって食料の備蓄している場所が襲撃されるかもしれません」

「なるほど……治安の問題か……そうだね、食料が無くなれば飢えて死ぬしか無くなるからな。必死に生きるために奪い合いという状態になるな……」


治安の悪化を懸念するあたり、やはりアントワネットに勉強をさせてよかったと思う。

史実通りなら貴族目線での意見を述べていたかもしれない。

「足りないなら他の場所から輸入すればいいじゃない?」という感じに言ったかもしれない。

しかし、勉強をさせたことで柔軟な考え方を持つことが出来たようだ。

では紙に書いておこう。


大規模な火山噴火に伴う気候変動によって王国内で数年間作物が不作となった際に、起こりうる問題は何か?


・治安の悪化


うん、実際にラキ火山が噴火した翌年には小麦が凶作となり、市場価格が高騰してフランス各地で小麦戦争と呼ばれるぐらいに暴動が多発したんだ。

小麦がないとパンが食べられないからね。

ちなみに、小麦の価格が高騰した原因というのが、ルイ16世が経済の立て直しの一環として作物の自由化を推し進めたチュルゴという自由経済学者の意見を取り入れた直後に起こってしまった事で、自由化の悪い面が突き出てしまったんだよね。

アントワネットの問題の指摘は的を射ている。

流石だアントワネット!


「あの……私からもよろしいでしょうか?」

「おお、バイイ氏か。どうぞ、意見を述べてください」


次に挙手をしたのはバイイ氏であった。

俺とアントワネットに一礼してからバイイ氏は食糧ではなく、天文学者としての視点から問題を提示した。


「火山の噴火とありますが……食料以外にも太陽の光が浴びられない状態が続いて病になる者が多く出るかもしれません。もしくは気候変動によって地震といった他の災害が発生するかもしれません」

「ほう、病の蔓延と地震か……」

「はい、16年前にポルトガル王国の首都リスボンを襲った大地震と()()では5万人以上が犠牲になりました。そうした別災害にも注意すべきかと思います」

「16年前か……なるほど、確かに留意すべき問題だな」


・気候変動に伴う伝染病の流行や別の自然災害のリスク


リスボン大地震はヨーロッパで観測されている自然災害の中では最大規模であったとされる災害だ。

リスボンの大部分が地震によって建物が崩壊し、追い打ちをかけるように津波が襲いかかってきたそうだ。

ポルトガルの経済に甚大な影響が出てしまい、本国ではなく植民地支配による経済状況に頼るようになってしまったのだという。

バイイ氏が津波の事を大波といったのは「津波」という単語がまだ日本以外では普及していないからだ。


俺の記憶では天候不順とラキ火山から噴出した火山灰がヨーロッパ各地に降り注いで太陽光を遮断し、ヨーロッパは数年間の間、夏でも秋ぐらいの肌寒い気温しかなかったという情報しかない。

別の大災害が起こる危険性も視野に入れた方がいいかもしれない。

特に怖いのが伝染病だ。


天候不順による凶作によって不衛生な土壌環境になってしまうと、人間に害を及ぼすネズミなどが家の中に入り込んで伝染病を運んでいくだろう。

さらに言ってしまえば、俺が新聞各社に衛生環境の改善を促しているとはいえだ……。

まだまだフランス国内の衛生的な環境が未熟であるのは明白だ。


劣悪な衛生環境にそうした凶作要素が噛み合えば、たちまちペストやコレラといった病が流行していくだろう。

そうだな、これも対策を練らないといけないな。


「治安の悪化に気候変動に伴う伝染病の流行や別の自然災害のリスクの増大……他に問題はあるか?」

「はい、懸念すべき事があります」

「ロメニー氏か、何かあったかね?」

「はい、食料を巡って周辺国との戦争になる危険性があります。仮に我が国がそうした災害への備えとして食料を備蓄し、国民全員が飢えないようにしたとしましょう。ですがプロイセンや英国で凶作となって食料が不足し、食料を求めて我が国へ侵攻してくることもあるかもしれません」

「戦争か……有り得ない話ではないな。国内で噴出した不満を抑えるべく、口実として攻め入ることも考えられるな……」

「あの……私からもよろしいでしょうか?」

「ベズー氏か、うん、言っても大丈夫だよ」

「ロメニー氏の発言に類似していますが……その逆で食糧不足を口実として国内で民衆が蜂起を起こすかもしれません。他国との戦争よりも内戦になるリスクのほうが遥かに危険です」


・食糧不足を発端とする戦争、もしくは内戦


有り得ない話ではない。

過去に食糧不足が原因で内戦や戦争になった事例がいくつかある。

内戦のほうが多いかな。

思い当たる事例といえば、日本だと大塩平八郎の乱が有名だろう。


天保の飢饉によって日本各地で大規模な凶作が発生したことにより、深刻な食糧不足が発生。

これを憂いだ大坂の奉行所の元役人……大塩平八郎は民衆救済の為に大坂(江戸時代は大阪ではなく大坂という表記であった)で本などを売ってそのお金で救済活動していたのだが、陳情を聞かずに大塩平八郎の自腹を切った救済行為を売名行為だと罵った奉行所や、飢えに苦しんでいる民衆など知らずに米の買い占めを行った豪商にブチ切れた彼は、大坂にて武装蜂起を起こしたのだ。


結果的に武装蜂起は短期間で鎮圧されて失敗に終わったが、この蜂起によって元奉行所の役人が反乱を起こした事で幕府の威信が揺らぎ、さらに各地でも大塩平八郎の乱に触発されて起こった一揆などが頻発するようになる。

こうした結果、幕府の政治基盤が崩れていき大政奉還へと繋がっていった。


そう考えれば戦争、ましてや内戦になれば国の国家体制が崩壊してしまうリスクを大いに孕んでいるといえる。

改めてこうして書記役で皆の問題を纏めているが、中々興味深い。


もう30分が経過してしまったが、これだけ問題点をまとめ上げることが出来た。

さて、これから解決策を見出す為の討論が始まる。

さっきまで書かれていた事を踏まえた上で、問題解決へのステップを踏むとしよう。

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