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79:アポロンの討論

今年は大晦日まで仕事が入っているので冬の同人誌即売会に行けないので初投稿です…(涙)

場所を鏡の間からアポロンの泉水に移る。

快晴ということもあって外は非常に温かい。

そんなぽかぽか陽気の中でディスカッションを行うというのも中々斬新だ。

アポロンの泉水の周辺にはずらりと椅子とテーブルが並べられている。


長方形のテーブル1つに対して椅子が5つあり、テーブルの上にには白紙と筆、インク、時間を知らせるための小型の時計、さらに各自が討論を行う際に喉が渇くと思うのでマグカップと大きめのティーポットが用意されている。


使用人らがマグカップに紅茶を注ぎ終えたのを確認してから俺は三回ほど手を叩いて全員にこちらを向くように指示する。


「では、全員自由に席についてくれ。これはあくまでも討論であり個人の意見を述べる場でもある。遠慮せず自由に一時間討論を行ってほしい」


使用人たちが用意してくれた椅子とテーブルに各々が座り始める。

これから行うのは5人1組になってある問題について討論を行う。

時間は1時間ジャスト。

それぞれ専門分野が異なる相手同士で極力組んでもらい、1時間という時間の中で討論を行って自分達の結論を述べるというものだ。


早い話が就職試験等でよく実施されているグループディスカッションだな。

俺の会社でも一次面接では重役との面接試験とグループディスカッションがセットで行われていた。

せっかくの機会なので、こうして異なる部門などを集めて討論をしてもらい、どのような結果になるのか見てみたいんだ。


5人1組で1セット……。

つまり200人程いるから40組ものグループが出来上がることになる。

これには身分や職種関係なく行われるので、現在の改革派の意見というものがどんな感じになるのか平均値という物を示すのに丁度いいだろう。


「全員席に着いたか……では、これより出題する問題に対して1時間、討論に励んでもらいたい。今の時刻は?」


傍にいた召使い長の時間の確認を行う。

懐中時計を素早く手に取って確認して報告を行う。


「はっ、只今午前10時55分であります」

「では、午前11時より正午までディスカッションを行う。ここでは身分や階級など関係無い。討論を行ってどの様に問題を解決するか各自の行動を私が見る。もう一度確認のために言うが、遠慮せずに自分の意見をしっかり述べるように」


5分ほど時間が空く。

時間が空いている間に使用人に指示をして討論に使われる問題の書かれた紙を配るように命じた。

テーブルに一枚ずつ紙が配られる。

これらの紙に書かれているのは、議題解決型の問題だ。


『Q.大規模な火山噴火に伴う気候変動によって王国内で数年間作物が不作となった際に、起こりうる問題は何か?また、王国が取るべき解決策を述べよ』


そう、これは12年後に起こるであろうラキ火山が噴火した場合を想定した際に最も重大かつ早急に対応しなければならない案件で、かつ食料確保が必須となる。

ラキ火山が噴火しなければフランス革命は発生しなかったとまで言われるぐらいに歴史的には重要な分岐点を作った自然災害でもある。

フランスだけではなく、ヨーロッパや日本でも平均気温が下がって小麦や稲が不作となって飢饉をもたらした恐るべき災害だ。


この災害が現在起こったと仮定した上でのディスカッション。

言わば軍事教養として行われている机上演習にも通用しているんじゃないかな。

議論するにはちょうどいいお題という訳だ。

それぞれどんな討論を励むようになるのか気になるところだ。

そろそろ午前11時だ。

俺はディスカッションの開始を告げた。


「では、これよりディスカッションを開始する!!!……さて、俺たちもディスカッションを行うとしよう」

「はい!オーギュスト様!」


無論、国王である俺も参加する。

ある程度は対策などは練ってはいるが、もしかしたら対策に穴があるかもしれない。

再確認を行うことも重要な事だ。

俺だけただ突っ立っていても面白くないので、アントワネットと一緒にディスカッションを行う事にした。


今回ディスカッションを行うのはランバル公妃やハウザー氏ではなく、改革に賛同してくれたフランス科学アカデミーの一般会員のグループとの討論となったのだ。

俺は目の前に座っている三人の人達に固くせずに討論を行うように優しく言った。

でないと固まるからね。

国家元首と討論するなんて早々ない機会だからね。


「では、一旦楽にしてくれ。この場では国王である私や王妃もディスカッショングループの一員として参加している。その事を踏まえた上で討論を行う。よろしいかな?」

「は、はい!」

「よろしくお願いいたします……!」

「では、まずは自己紹介をしてもらいたい。名前を覚えたいからね。貴方の名は?」

「……!あっ、私の番でしたね……失礼いたしました。エティエンヌ・ベズーです陛下。以後、お見知りおきを」

「私は……エティエンヌ・シャルル・ド・ロメニーです。い、以後よろしくお願いいたします」

「ジャン・シルヴァン・バイイです。何卒宜しくお願い致します」


目の前にいる人は三人ともフランス史において名をはせた人物である。

前者二人については何となくは知っている。

ベズー氏は数学者として複雑な数式の証明を説いた人で、ロメニー氏は聖職者である。

確かロメニー氏は史実ではルイ16世の宰相にもなった人だ。

でもその時にはフランス経済は……お察しの財政破綻状態だったので殆ど何も出来ずに辞任したハズ。

しかもその後に周囲から反革命分子扱いされたことを受けて逮捕されて精神的に滅入ってしまい獄中で無念のまま服毒自殺を遂げるという悲劇の人だ。


特にビックリしたのが最後に自己紹介してくれたジャン・シルヴァン・バイイ氏だ。

彼は、天文学者としてもそこそこ名の知れた人であり、最も有名になったのはフランス革命直前にテニスコートの誓いで国民議会が結束して中央で誓いの文面を読み上げている人でもある。

よく歴史の教科書を開くとテニスコートの誓いというイラストがあると思うけど、その真ん中で宣誓して挙手をしている人だ。


まさかその人とこうして対面するとは思ってもみなかった。

自己紹介をした際に思わずビックリして紅茶をむせてしまいそうになったのは口が裂けても言えない……。

こうして改革に加わっている時点で、何かの運命かもしれない。

自己紹介を済ませた後、俺たちは早速討論を行う事にしたのであった。

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