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78:フランスの夜明け

フランスにおける主人公の改革がいよいよ本格的にスタートしますので初投稿です

☆ ☆ ☆


1771年4月11日


ヴェルサイユ宮殿 鏡の間


今日は記念すべき日だ。

俺は今日、ルイ16世に転生して一年目を迎える。

いよいよルイ16世主導による改革がスタートして半年近くが経過した。

転生者として、一応は国王として頑張っているつもりだ。

革命で死にたくないからね。

愛しのアントワネットと一緒に改革進めるのは楽しい。

居室でリラックスをしていると、召使い長が迎えにやって来てくれた。


「国王陛下、王妃様、そろそろ式典が始まりますので鏡の間までお越しください」

「分かった、ではいこうかアントワネット」

「はい、オーギュスト様!」


俺とアントワネットは立ち上がり、鏡の間に向かって歩く。

廊下で行き交う人々は俺とアントワネットが通り過ぎるまで頭を下げている。

今日の式典はフランスにとって重要な一日となるだろう。

そうしたこともあってか、今日は結構緊張している。

転生前でよく会社幹部の前でプロジェクターを使った説明を行うような気分。

ちょっとでもダメな所があればツッコミが入ってしまう……そんなささやかなプレッシャーを感じながら式典に挑むんだ。

頑張るぞ、俺!


「国王陛下が鏡の間にお入りになられます!!!!」


フランス王国の国旗を掲げた守衛と敬礼を行う憲兵隊の兵士達。

鏡の間に集まっていた人々が俺を見て一斉に頭を下げる。

中央に敷いている赤い絨毯を歩きながら、この宮殿も随分と様変わりしたものだと感じるようになる。


見慣れた顔から見知らぬ人まで様々な人達がいる……。

パリで生まれた人もいればニースで生まれた人もいる。

貴族出身の者もいれば平民出身の者もいる。

あと少数ではあるが、女性の姿も見受けられる。

今、この場にいる人々は改革に賛同した改革派の人々だ。


その数、おおよそ200人。

彼らは身分・出身を問わず改革に賛同し、フランスをより良い国にしようと願っている者たちでもある。

その願いを叶えるべく、勉学や指導力、観察力に長けている人達を改革派として参列させることにしたのだ。


トップに立つ者として、人の顔は見なければならない。

特に、科学・農業分野は人類史において飛躍的に発展する分野でもある。

前時代的な宗教中心の政治体制ではなく、国力増強を図った日本の明治政府を参考に10年、20年後の未来に向けたプロセスを進める時なんだ。

国王として治安情勢の安定している今でこそ、すべき事なんだ!


転生した直後はルイ15世がいて口うるさい叔母達もたくさんいた。

……が、今はもういない。

4000人という膨大な使用人も3000人以下になり、宮殿内は静かになってきている。

そんな中で俺は『改革式典』を開催する事を宣言する。


「これより、改革式典の開催を執り行う!全員、顔をあげよ!」


俺の声に合わせて大勢の人と目線が合う。

目、目、目……。

人々の目を見ると、熱意に溢れていた。

殺気のような視線を感じることもない。

改革を共に行う喜びと希望を胸に秘めてこの場に臨んでいる。

今回ばかりはおふざけは無しだ。

真面目モードといこうじゃないか。


「諸君、改めておはよう。今朝は春真っ盛りの陽気で清々しい朝だった。このような気持ちのいい朝を毎日迎え入れたいものだ……今日共に、改革を志す諸君と一緒に朝を迎えたことが私にとって何よりの喜びである!」


これは本心だ。

改革に賛同し、かつ各分野のスペシャリストや技術者、研究者などが一斉に出席する機会なんて滅多にない。

恐らくこれが最初の大規模な会合となるだろう。

そうした意味合いでも、こうして参加してくれたことが何より嬉しい。


「今まで……フランス王国というのは改革をしにくい土地柄であった……それは国王である私が認めなければならない問題でもある。既存の権力体制に甘えて税収問題や家産社会を受け継いだ封建制の限界が近づいている。ここでフランス王国としては大規模に、かつ国民の大多数をもって改革に挑みたい。つまり、ここにいる200人の同志だけではなく……2()0()0()0()()()()()()と共に、改革を行うのだ。歴史的に見ても大規模かつスケールの大きい公共事業となるだろう」

「「「おおお……」」」


発言をすると、所々でどよめきが挙がった。

そうなんだよね、政治を回していると国民というものを附属している()として捉えがちになってしまう。

だが、数字では1人としてカウントしていても実際には生きている、心臓を動かしている生命でもあるのだ。

その数が増えれば増えるほど彼らを預けている国王としての使命と責務は極めて重大である。


人の命の上で立つという事。

ここにいる人達は改革を行う上で重要な役割を担うのは事実だが、さらに俺や彼らを支えるのは大多数の国民である。

すれ違いやアクシデントが発生すれば、直ちに問題に取り組まないと全体が機能不全に陥る。

改革派に所属する人達には出身や身分関係なく、既存の問題に取り組むのだ。

ひと息、呼吸を整えて話を続ける。


「隣にいる人を見よ、前にいる人を見よ、後ろにいる人を見よ、生まれも、職種も、身分も、性別も異なるが、改革の為に行動を共にする事を誓った人達である。今日、ここにいる200人は正式に改革アドバイザー並びに改革責任者として任命する!それぞれ服に責任者としての勲章を授ける。私が直接一人一人に授けるのでどうか受け取って欲しい」

「「「おおおおおお!!!!」」」


会場で歓声が沸き起こる。

使用人たちが持ってきた勲章を参加者に渡す。

金ではないが、銀で出来ていて『改革指導者章』と文字が彫られたものだ。


本当の事を言えばこれはバッジなのだが……。

まだこの時代にはバッジという言葉が定義されていないので、勲章といえば重みも感じられるのと何より責任感が沸き起こるだろう。

直に勲章を受け取ることなんて滅多にないこの時代にとって、勲章とはある種のステータスでもあるのだ。


1人、また1人と勲章を渡していく。

200個分の勲章配りは割と時間がかかる。

……が、卒業証書授与式で卒業証書を渡す校長先生の身になってみればこのくらいどうという事はない。


むしろ改革を行う人々の顔を間近で見ることができる。

学者・教授・研究者・貴族・農業従事者・起業家・銀行家・聖職者……。

みんな業種も職種も身分もバラバラだ。

だが、この場においては『改革』を一緒に行う人達である。

その事を忘れないように彼らの顔をしっかりと見て、そしてこの目に焼き付ける。

勲章を渡し終えてから、最後に一つだけ全員に肝に銘じておく事を話した。


「最後に私はこの式典で予め言っておくが……もしこれから行う改革に関する事で、失敗やミスをしてしまっている事が分かったら、その時点で上司や私に報告しなさい。仕事では小さいミスや失敗はつきものだ。私だってインクを溢したりしてしまって書類をダメにしたことがある。だが、ミスや失敗を隠そうとすることはより大きな失敗やリスクを産み出す……失敗に対して嘘や隠蔽を行えば国民が改革を”信頼”しなくなる……つまり”改革そのものが崩壊”するのだ」


どんなに優れた案件や商品があっても”信頼性”が無ければ全くと言っていい程理解されない。

この人は頼れる。

この商品なら大丈夫。

そうした積み重ねてきた信用が信頼となって安定を生み出す。


「……積み重ねてきた物を壊すのは一瞬で済む。だが、壊れた物を修復するには膨大な時間と手間が掛かる。諸君、嘘と隠蔽だけは絶対にしてはならない。これだけは肝に銘じて欲しい」


彼らは最後まで話を聞いてくれていた。

中には頷いている者もいる。

やはり思い当たることがあるのだろう。

さて、堅苦しい話はここまで、これからが式典の本番だ。


「では、これよりアポロンの泉水にてそれぞれ討論を行う。諸君、奮って参加して頂きたい」

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