75:審判の時
ショッキングなシーンがあるので初投稿です。
一時間ほど時間が経過した。
ようやく最終審議が終わって判決が下されようとした。
まず最初にオルレアン元公爵のフィリップ1世の判決についてだ。
死にかけていそうな目をしているルイ・フィリップ1世が証言席に立って判決を聞く準備ができたようだ。
裁判長が判決文を読み上げた。
「被告人、ルイ・フィリップ1世……他国から金塊を受け取っており国の機密情報を渡していた事、また息子のルイ・フィリップ2世が反改革派の先鋒に立って工作活動に勤しんでいたにも関わらず、これを咎めなかったために事態が重くなったことは否定できない。しかし、事件発覚後は積極的に自白を行い領地と爵位……さらに資産の全てを国に返還していることから罪を償おうとする姿勢が見て取れる。よって被告人への判決を下す。ルイ・フィリップ1世を終身刑とする!なお、愛人であるモンテッソン侯爵夫人との面会は月に2回認めるものとする」
判決内容を聞いていたルイ・フィリップ1世はその場で何度も裁判官や俺に頭を下げていた。
ある意味で温情かもしれないが、彼自身はフランスへの忠誠を誓っていた人物だ。
息子の暴走を見抜けなかったという事で終身刑となった。
国外追放処分ではなくそれよりも重い終身刑となった事に俺は驚いたけどね。
それでも月に2回、愛するモンテッソン侯爵夫人に会えるんなら結構幸せなのかもしれない。
自白を積極的に行った事で死刑は回避できたようだ。
死刑を回避出来た事で、延命だけはできて万々歳なのだろう。
オルレアン家の資産はフランスの未来を担うべく研究や設備投資にガンガン使っている。
国土の5%に相当する土地を所有していただけに、その分領地や施設収入もかなりあるんだ。
ちゃんと貴方の資産はしっかり管理した上で使わせていただきますよ。
「では次に……ルイ・フィリップ2世!前に出てきてください!」
さて、いよいよ金塊公爵事件の首謀者であり、俺が最も嫌いな奴の判決が下ろうとしている。
相変わらず俺を睨め付けるように見ている。
本当に何様のつもりなんだか……。
裁判長は粛々とルイ・フィリップ2世に判決を下した。
「被告人、ルイ・フィリップ2世……!現国王陛下への改革に反対して工作活動を行い、領地において反乱を起こそうとした事。また、妻ルイーズ・マリー夫人に対して冷遇的な扱いを行い心理的虐待を働くなど夫として節度が無い極めて無礼な振る舞いをしたり、挙句の果てには裁判において国王陛下を侮辱して審議を混乱に陥れるなど反省の素振りが見られず、情状酌量の余地はない。よって被告人を反逆未遂罪並びに国王陛下を害そうとした罪により、死刑に処するものである」
ルイ・フィリップ2世への死刑判決が確定した。
当たり前だよなぁ?!
これで死刑判決じゃなかったら流石にどうかなと思うところだったよ。
あれだけ自己弁護だけでなく傍聴席にいた人間から非難されるような演説を行ったのだ。
せめて父親のように反省を述べていれば死刑を回避できたかもしれない。
死刑判決が下された途端に、ルイ・フィリップ2世は裁判長を指さして非難した。
「なんと……!そのような馬鹿げた判決がありますか!!!あなた方まで国王陛下に懐柔されているのです!!!皆さん!!!騙されてはいけませんぞ!!!国王陛下はフランスの体制を破壊しようとする悪魔なのです!!!この裁判は無効です!!!私は無罪です!!!」
「被告人!!!大人しくしていなさい!!!」
「私は!!!私は!!!この場で無実を証明してやる!!!汚らわしい執行人の手で殺されるなんてまっぴらごめんだ!!!」
よく見ると手には首飾りとして持っていた十字架のペンダントを握りしめている。
そのペンダントはとても鋭利に出来ていた。
まるでナイフのように……。
ペンダントの鋭利な部分を首に向けて握りしめたルイ・フィリップ2世はこちらを睨みつけている。
ヤバイ、こいつは………。
死ぬ気だ。
「おい!取り押さえろ!自殺する気だぞ!!!」
俺は思わず叫んでルイ・フィリップ2世を止めるように指示を出した。
だが、あまりにも突然の行為で咄嗟に止めるものはいなかった。
ルイ・フィリップ2世はペンダントを思いっきり喉元に突き刺したのだ。
首の動脈に沿うようにペンダントを突き刺す。
「無罪!無罪!わだじば!わだじばぶざぃぃぃぃ!!!!!」
叫びながらペンダントを首の頸動脈に斬りつけている。
何度か切り裂いていくうちに首から血が出始める。
慌てて守衛が取り押さえるも、あっという間に首の頸動脈部分を切裂いた結果、大量の血が証言席に溜まり始める。
「きゃああああああ!!!」
「じ、自殺しやがった!!!」
「誰か!!!医者を呼べ!!!」
法廷の傍聴席では悲鳴と叫び声がこだまする。
裁判官たちも突然ルイ・フィリップ2世が自殺を図ったことで動揺している。
まさか自殺をするとは思ってみなかったようだ。
俺もそうだ。
護衛の人間が俺を取り囲むように守っているのでフィリップ2世が攻撃を仕掛けてきても対処できるようにはしていたんだ。
だけど、あれほど闘争心むき出しの奴が自殺をしようとするだなんて……。
「い、一度法廷を閉会致します!!!す、速やかに退出してください!!!」
法廷は閉会となってしまった。
俺も危険があるかもしれないという事で高等法院から離れることになる。
どのみち高等法院に不備があったから自殺を起こすことが出来てしまったのだ。
これを口実に高等法院を解散させよう。
「国王陛下!すぐに退避してください!」
「分かった!……あいつは最後まで救えない奴だったな……」
ルイ・フィリップ2世がどのような思いで自殺しようとしたのか。
正当性を訴えたかったのかもしれないが、俺からしてみれば自分の主張が通らなかったことでやけくそで死んだようにしか見えない。
あるいは自殺し、死をもってして訴えたかったのかもしれない。
だけどなぜ自殺なんてしたんだ……。
罪を償えなくなるだろうが!
ふざけるな!
法廷から去る時にチラッと証言席をもう一度見てみる。
フィリップ2世は血だまりの証言席から動こうとしていない。
ぐったりとしたまま動かない。
身に着けていた服は紅く染まっており、もう彼は二度と動かないかもしれない。
駆けつけた医師らが蘇生を試みているが望みは薄いだろう。
こうして金塊公爵事件はひとまず決着となった。
後味は少々悪いものになったけどね。
だけどこう思うんだ。
もし史実通りだったら彼はこの場で死ななかったんじゃないかとね。
そう思った瞬間、どこか胸の奥深くでズキンズキンと胸が痛くなるのを感じ取った。
(ああ、苦しい……)
どこか心の奥深くから沸き起こってくるこの怒りに似たドロドロとした感情が沸騰しそうになっている。
俺は苦しいまま、衛士に守られながら馬車に乗り込んでヴェルサイユ宮殿へと向かって行ったのであった。