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72:こうとうほういん!

今日から本気だそうと思っているので初投稿です。

☆ ☆ ☆


(話のタイトルを可愛らしくひらがなで柔らかくするのは)違うだろ~?


まったく、一瞬脳内でポップ調風味の何かが浮かんでしまったルイ16世だ。

本日は西暦1771年3月18日だ。

いつになく温暖な天気に恵まれている。

冬が終わってようやく春の陽気が入ってきているといった感じだ。


現在の気温は水銀製の気温計で11度。

朝が冷え込んでいたので色々と寒さ対策をしてきたせいかちょいと蒸し暑い感じだ。

上着を一枚だけ脱いで椅子に腰掛ける。

といってもいつものヴェルサイユ宮殿ではない。

ここはパリに設けられた高等法院、日本でいう所の最高裁判所にあたる場所かな。

色々と区分されているわけだけど、今回俺が居るのは裁判の判決を下す場所ってわけ。


裁判とはオルレアン家がイギリスから複数の金塊を受け取っていて、尚且つ俺やアントワネットを陥れようと反改革運動を行っていた事などが罪になるかどうか……一時審議が去年の年末まで行われて、今日に最終的な判決が下されるというわけだ。

審議には各階級の代表者らが傍聴席に訪れて審議内容を聞きとっていて、新聞や口コミでも話題が絶えない程フランス国民の関心が高い裁判となっている。


だけど俺はこの高等法院という組織が滅茶苦茶気に入らん。

今現在改革をしているのだが、まだ高等法院に巣食う貴族連中を排除しきれていないんだ。

というのも、この高等法院の構成員のなかに貴族・聖職者に後援されてる輩がいるので、貴族・聖職者に対して有利な判決を出しまくっている事で有名なんだよね。


例えば去年1月に起きたとある貴族による殺害事件なんか国民から非難が殺到するような判定を下したんだ。


パリ中心部から少し離れたナンテールという場所で、貴族の男が乗っていた馬車に誤って泥水を掛けてしまった老婆を部下と共に袋叩きにした上で剣で斬り殺すという事案が発生。

国家憲兵隊が男を逮捕したのだが、高等法院は老婆が短剣を隠し持っているように見えた部下がやむを得ず殺害してしまった正当防衛であるとして、なんと男を無罪放免にしたのだ。


確かに老婆も悪いことをしたかもしれないが、それでも袋叩きにした挙句剣でめった刺しだぞ。

明らかにやりすぎだ。

殺意がモリモリあったにもかかわらず無罪判決を下した高等法院に非難が殺到したが、彼らは取り合わなかったのだ。


つまるところ、そういう明らかに上級階級者に忖度そんたくしたり世襲制であんまり法律を学ばないままの輩が多くいる組織なんだよね。

余程上級階級者に非がある場合を除いて、原則無罪かバスティーユ牢獄に幽閉しますよーという処分だったのだ。

ちなみにクーデターとか上位者を殺害した場合だと死刑だったみたい。


おまけにこの高等法院は問題ありまくりなので当然ルイ15世やルイ14世が「ガタガタ口出しすんじゃねーぞ」とキレて色々と黙らせていることで知られている。

もうこんな法院解体してーよーと思うんだけど、中々そうはいかない事情が出来てしまったんだ。


何故か?

それは教皇国がルイーズ・マリー夫人とフィリップ2世との結婚を無効化する条件として高等法院での裁判判決を押しつけてきたのだ。


教皇国がなんで高等法院に口出しすんのか?おっ、やんのかコラ。

てっきり内政干渉かと疑問に思ったのだが……。

どうも高等法院というのはキリスト教カトリック系の強い影響下にあるようだ。

事実上、カトリック系から支持を受けて王権と対立を何度か繰り返していたのだとか。

法より宗教が勝ったらそれ宗教国家になっちまうじゃんか!

そんなのダメです。

だから俺は本来ならこんなとこ居たくないのよね。


(あー、高等法院廃止して宗教や政治に縛られない司法判断を行える最高裁判所でも作りたいなー)


内心では俺はそう思っている。

というか裁判の内容次第では国家憲兵隊の突入も辞さない覚悟で臨んでいる。

既に国王権限によって国家憲兵隊はパリ高等法院の周囲をぐるっと取り囲むように集まっている。


表向きは判決内容で暴徒の発生を防ぐためという名目を頂いてはいるが、実際には無罪や部下に罪を押しつけて逃げ切るようなふざけた判決をしないように牽制しているのだ。


権限もそれなりに集中してしまっているので、事実上国王に次ぐ第二のフランス統治者という表現ですら間違いではないのが恐ろしい。

フランス革命の原因も、高等法院が貴族・聖職者への課税に猛反対したり、アントワネットの名誉を陥れた首飾り事件で犯人側に温情ともいえるような判決を下したりと国王に逆らっている連中だよ。


本来なら裁判所ということもあってかそんなことしたくないのは山々だよ?

でもね。

それが通じないのが高等法院の恐ろしいところなんだ。

事実上高等法院は貴族・聖職者を中心とした特権階級、並びにカトリック総本山の教皇国から強い影響力を受けている機関だと思ってもらって構わない。


時刻は午前9時55分。

5分後に最終弁論が交わされる見通しだ。

オルレアン家の資産と領地は没収済みだが、これからどのようになるのかは予測が付かない。

高等法院が庶民から沸き起こる厳罰化を受け入れれば死刑もあり得る。


だが、反改革派の連中に忖度した場合には、待っているのは温情な判決(judgement)……。

大した罪にならずに反改革派を取り入れて内戦を引き起こす恐れもある。

そうなれば改革どころじゃなくなる。

最悪の場合英国やプロイセン王国の介入もあり得るだろう。

……冗談じゃねぇ……。


そんなことはさせない。

愛しのアントワネット、いや、守るべき国民をそんな危険な状態に晒すわけにはいかないんだ。

何としてでも裁判に勝利してみせる!

こちらにも幾つかの切り札を用意している。

その切り札の中でもとびっきりの決定打がもうじき到着する予定だ。


(必ずフィリップ2世には絶対的に不利な証拠を提示して……それでルイーズ・マリー夫人を助けるんだ。法で無罪を勝ち取ればあとはこっちの勝利だ)


後は司法の判断に任せよう。

反改革派やそれに便乗している諸外国の工作活動も気になるが、この裁判を乗り切って次のステップを踏む必要がある。

やがて裁判官が法廷に到着し、これから金塊公爵事件における裁判の最終弁論が正式に開始されるのであった。

こんなクレイジーな奴らの巣窟に招待されるなんて………。

この判決が終わったら高等法院は一時解散さ………。

この間の会議でもそう決められている………。

改革を行う上で非常に邪魔な存在………。

誰かがそう教えてくれた………。

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