71:揺れる馬車の中で
次回からいよいよ本格的に物語が動き出します。
なので気合を入れて初投稿です。
★ ☆ ★
今日は素晴らしい日になりましたわ!
オーギュスト様と一緒にヴェルサイユ宮殿から外出しましたの!
それもお仕事ではなく休息として料理と買い物を楽しみました!
お母様からのお手紙を読んで休息が必要だと分かってくれたようです。
皆さんが心配していたのでオーギュスト様が休息を取ってくださって安心致しました。
馬車の中から見るパリの街並みも楽しかったですわ!
威勢のいい掛け声と共に売りに出されている野菜に甘い香りのお菓子。
ヴェルサイユ宮殿とはまた変わった楽しさがありましたの!
宮殿では開明派の人々と接する機会が多いのですが、こうして自分の目で庶民の事を見ることも大切だとオーギュスト様はおしゃっていました。
『彼らが俺達の生活を支えてくれているんだ。庶民の信頼と信用を失えば一気に生活基盤が崩れる。だから彼らを裏切るような行いだけは決してしてはいけないよ』
丁度二ヶ月前にオーギュスト様は帝王学の勉強の際に私に教えてくれたのです。
どこか庶民の意見を無視してしまった歴史上の国王を知っているのでしょうか?
誰とは言いませんでしたが、庶民に対してお金を持っている事を自慢したり、人の悪口ばかり言っているような人は例え貴族であっても没落するだろうとおっしゃっておりました。
そうです、オルレアン家の事です。
私やランバル公妃への悪口だけでなく、オーギュスト様への誹謗中傷行為や改革への妨害行為を家ぐるみで行った方々です。
それだけでなく、国王の座を狙ってイギリスと外交工作まで行っていたそうです。
またランバル公妃の義理の妹であるルイーズ・マリー夫人がオルレアン家に嫁いだそうですが、それでも家の跡取りを産ませる為だけに扱われていたそうです。
それも、婿であるフィリップ2世はルイーズ・マリー夫人には目をくれずに、毎日隣の部屋で愛人と密接に過ごしていたそうなのです。
その事を知ったオーギュスト様のお怒りの顔は今でも忘れられません。
『あいつは……どこまでクズなんだ!!こいつはァ……許せねぇ!!!裁判で何としてでもフィリップ2世だけは極刑にしてやる!!!そしてルイーズ・マリー夫人は……何としてでも助けなくては……!』
ルイーズ・マリー夫人が受けた屈辱と女性としての尊厳を踏みにじられた行為は私もオーギュスト様同様に許せるものではありません。
そして、家族となってしまっているルイーズ・マリー夫人は事件に関わっていないのですが、このままでは彼女も連帯責任として極刑に処せられてしまう恐れがあるのです。
そこで彼女を助けるためにオーギュスト様は結婚を無かった事にするように教皇国に使者を出して交渉を行っているとのことです。
そして今日。
予定ではフランス南部の都市、エクサンプロヴァンスに教皇国からの返答が到着する予定ですの。
色々とオルレアン家とは因縁のようなものを感じます。
今日、パリ市内に入った際にはパレ・ロワイヤルまでは行きませんでしたが、オルレアン公に関する新聞記事が売店で大々的に飾られているのを見ましたの。
『ついに裁判の判決迫る!3月18日にパリ高等法院で最終判決が下される!』
『国王陛下もご臨席決定!!!オルレアン家への処分や如何に?!』
『パレ・ロワイヤルについて国王陛下「複合型商業施設への立地」に意欲を示す』
庶民も裁判の結果を気にしているようです。
第三身分階級の方々も改革を邪魔しようとしたオルレアン家については批判的に捉えておりました。
これは開明派の人々も同様のようです。
「トゥル・ド・ステル」で食事をしていた際には、オルレアン家に関する話声が聞こえてきましたの。
「オルレアン家は完全に終わったな。公爵はともかく、その息子と深く関わっていた奴は牢獄送り確定らしいぞ」
「そりゃあ改革潰して自分達の利益を独占しようと考えていたんだろ?」
「ああ、この地区だけで6人の反改革派貴族が国家憲兵隊に逮捕されたからな……オルレアン家に関わっていた連中も積極的に自首したり自供しているらしいぞ」
オーギュスト様の改革を潰そうとしていた人たちは見事に墓穴を掘っていたようですね。
会話を盗み聞きしてしまいましたが、身から出た錆だと思いましたわ。
自分達が楽な生活をしていたいから、贅沢だらけの生活をしていたいから。
そんな理由で改革を潰そうとしたのです。
オーギュスト様が毎日練りに練って作り上げてきた信頼と知識によって築き上げてきた改革への道、その道を壊そうとする事がどれだけ愚かである事か……身をもって思い知ったでしょう。
そんな暗い話題を吹き飛ばしてくれたのがグラス・シャンティーでしたわ!
私が頼んだデザートですの!
甘くて……ザラザラとした食感に氷のように冷たい感じが何とも言えない程に美味しかったです!
夏場では氷などが少ない為に、冬限定で注文できるとの事です。
オーギュスト様にも一口差し上げましたらとっても喜んでおりましたわ!
「なんだか……懐かしい味がするね……うん、とっても甘くて美味しいよ!」
そう言ってグラス・シャンティーを味わっておりました。
どこかで食べたことがあるのでしょうか?
目をつぶって味わう程でしたので、きっと小さい頃に食べた事があるのかもしれません!
このグラス・シャンティーがヴェルサイユ宮殿でも作れるようなら、夏場……オーギュスト様と一緒にまた食べたいですわ!
それから今日一番驚いたのがオーギュスト様の事を見抜いた店主代理の方です。
ドミニク・コレットさん、彼女は私がオーギュスト様と初めてヴェルサイユ宮殿でピクニックをした日に、泥棒に突き飛ばされてオーギュスト様に助けてもらった人だったようです。
あの日からしばらくは宮殿内はピクニックと泥棒の話題で持ちきりでした。
その時の人とこうして再会するとは予想だにしておりませんでした。
幸い彼女は事情を察してすぐに小声で話してくれましたが、一瞬だけヒヤッとしてしまいました。
国王陛下と王妃様が香水店にいると大声で騒がれたらどうしようかと思ったからです。
ですがそのような事をする人ではなく、むしろ私達に気を遣ってくれて数少ない白檀オイルを売ってくれたりしてくださいましたの。
おまけとしてラヴェンダー入りの香水まで貰ってしまったので少々ドミニクさんに悪いことをしてしまったかもしれません。
香水店で様々な種類の香りを楽しんでいるとすっかり夕暮れ時になってしまいました。
残念ですが今日はここまで。
続きはまた今度となります。
オーギュスト様は夏場、私と一緒に何処かに出かけようと誘ってくださいました。
なので私はオーギュスト様と約束しましたの!
「オーギュスト様、今度一緒に出かける時はお忍びではなく堂々と遊びましょう!」
「ああ、約束するよ。その時は思いっきり遊ぼう!」
微笑んで約束を誓ってくれました!
馬車の中であとは揺れながらヴェルサイユ宮殿まで帰るだけです。
香水店で買い物を終えて疲れてしまったのか、オーギュスト様は私に寄りかかるように馬車の中で眠ってしまいました。
グー、グー、と私の隣で熟睡なさっております。
「ふふふ、オーギュスト様はどんな夢を見ているのかしら?」
「きっと素敵な夢を見ていらっしゃいますよ」
「そうね……宮殿に着くまでこのままそっとしておきましょう」
「はい……そうしましょう」
オーギュスト様。
どうか今は良い夢を見ていてください。
安らかなオーギュスト様の寝顔を見守りながら、私達はパリを去ったのでした。
女の子の心理描写って難しいけど書いていると楽しいです。
次回はオルレアン家との決着がつきそうです。