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68:外食ってたまにはいいもんだな

飯テロ注意ですので初投稿です。

あと作者はフランス料理(専門店)には一回しか行ったことが無いのでその時の記憶を頼りに書いているのでご了承ください。間違っていたらごめんなさい。

(ページの)下からくるぞ!気を付けろ!

「いらっしゃいませ、トゥル・ド・ステルへようこそ……」

「3人だけど、席は空いているかな?」

「ええ、空いておりますよ。こちらにどうぞ」


店内には既に客がちらほらと見受けられたが、いずれも貴族か金持ちの市民階級の者たちがくつろいでいた。

まだ午前11時だ、この時間帯はお昼より少し早い。

見た限りではそこまで堅苦しい雰囲気ではないし、天井に吊るされているロウソクの火や、室内全体がオレンジ色っぽく見えているので、正に高級レストランとして相応しい雰囲気を醸し出している。


「すごいアンティーク家具の数々だね」

「ここのお店はヨーロッパ諸国から集めた家具を使っているのですよ。それだけにお店のインテリアには情熱を注いでいるのです」

「はぇ~すごい綺麗……料理だけじゃなくてこうした所にまで力を入れているのか」

「何だかお洒落なお部屋みたいですわね、とっても気分がいいですの!」


ランバル公妃曰く、ここの店は開明派の人間が多いという。

しかし今回はお忍びで来ているわけだし、何よりもまだヴェルサイユ宮殿の外に出たことは無い。

パリ市内は今の俺にとっては未知の世界だ。


椅子に座るも、こうした店に入るのは生まれて初めてだ。

転生前に高級レストランなんて入ったことすらない。

精々入ったのはファミレスぐらいだ。

なので、この店を勧められたとはいえ緊張しているんだ。


「やはり……こうした店に入ると……普段よりも緊張してしまうね」

「殆ど私達……外に出ませんものね……でも、こうしてレストランで食事を楽しむのもいいと思いますわ!」

「そうですね、このお店の料理はいくつかございますが……何をお召し上がりになさいますか?」

「えっと……鹿肉ってことはジビエ料理ってことだよね?」

「左様でございます」

「じゃあ、鹿肉の煮込み赤ワインココソース和えを貰おうかな」

「私はグラス・シャンティーをお一つ貰いたいですわ!なんでも冷たいお菓子という事で有名みたいですの!」

「私はグラタン・コンプレをお願いいたします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


ウェイターを呼んでそれぞれ食べたい食べ物を注文する。

改めて見るとすごい光景だな。

完全にランバル公妃が引率の先生みたいな感じになっているな。

傍から見れば貴族の家庭教師っぽく見えなくもない。


「さっき頼んだグラス・シャンティーって冷たい事で有名なのかい?」

「ええ、ホイップクリームを凍らせて作るみたいですの!詳しい内容までは聞いてはおりませんが、美味しいと評判らしいですわ」

「冬でも冷たいスイーツを食べるとは……アントワネット、かなりチャレンジ精神に溢れているね!」

「えへへ、でも甘いお菓子なら何でも好きですよ!」


グラス・シャンティーというのは、どうやらアイスクリームの元になった食べ物らしい。

たまに夕飯を食べているとグラニテというシャーベット状の甘いかき氷のような食べ物が出されることがある。

シャーベット状だけにシャリシャリとした食感が美味いし、元はイタリアの食べ物らしい。

ヨーロッパ版かき氷だと思って食べると美味しい。


ちなみにこの氷菓子の元になる氷は、冷蔵庫のないこの時代にとって、かなり貴重なのでごく限られた人物しか食べれないという。

ヴェルサイユ宮殿では地下に穴を掘って、一年中凍らせた氷を保管する氷室があるんだよね。

つまるところ、滅茶苦茶リッチな食事というわけだ。


グラニテも十分うまい。

……が、それとは違い現代のアイスクリームに類似した食べ物なんだとか。

いやはや、まさかこの時代にアイスクリームがあるとは恐れ入ったぜ。


「お待たせしました。お通しのコーンポタージュでございます」

「ありがとう」


早速お通しのコーンポタージュがやってきた。

略してコンポタをゆっくりと口の中に入れて味わうが、スッキリとした見た目とは裏腹に中々濃厚だ。

ミルクを多めに入れているのかもしれない。

濃厚コンポタにアントワネットはめちゃめちゃ喜んでいる。


「まぁ!このコーンポタージュ、とっても美味しいわ!」

「ミルクを多めに入れているかもしれないね、それでいてべったりとせず……尚且つ透き通ったような喉ごし……これは料理に精通していて腕が良いコックさんが作ったんだね。これは美味しいよ!」

「フフフ、まだまだメイン料理はこれからですよ」


どこにでもありそうな料理に関する普通の会話。

しかし、いつもなら言っているであろう「アントワネット」や「オーギュスト」「ランバル」といった名前は飛び交っていない。

変装している上にお忍びでやってきている分仕方のないことではあるが、名前を言えないのは少々辛いな。

それでもこうして親しい人と一緒に外食する事ができるのは良いことだ。


どんな料理が出てくるのだろうか?

ジビエ料理とか言っていたな……ノリで頼んじゃったけど。

野生動物を狩り、その動物の肉を使う料理の事を示すそうだ。

鶏や牛など飼育された動物ではなく、自然のありのままに育った動物たちを狩りで仕留めたものなので、普通の肉に比べて値段もグッと高くなるそうだ。

なのでこうした肉類を食せるのは上流階級の楽しみなんだとか。


「狩猟で使われたお肉ですが、鉛は取り除いてあるそうですよ」

「鉛……という事は銃で仕留めているのかい?」

「ええ、マスケット銃で狩りの際に仕留めるのです。その中でも鹿肉は最もグレードの高いお肉です」

「ありゃりゃ……それじゃあ俺が一番高い料理を頼んでしまったのか……」

「でも、せっかく来たのですから美味しい料理を沢山食べましょ!」

「それもそうだな……こう、料理が出来るまでの時間というのも、ささやかな楽しみでもあるよね」

「はい!どんな料理が出てくるか楽しみです!」


待っている間に世間話でもすれば盛り上がるものだ。

束の間の時間はこうして利用するのがいいだろう。

時には料理を食べるよりも食べるまでの待ち時間が恋しくなる時がある。

今がそんな感じかもしれない。

料理を作っているシェフたちに期待を寄せながら、俺は料理が出来上がってくるのを楽しみにしていたのであった。


「お待たせしました、鹿肉の赤ワイン煮込みのココソース和えとグラタン・コンプレ、グラス・シャンティーでございます」

「「おおおお……」」


料理が運ばれてきた。

とても良い、食欲をそそる香りと共にやってきた。

俺とアントワネットは思わず息をのんだ。

白い皿の上に盛られている鹿肉。

鹿肉は旬の物を取り寄せたのだろうか……肉の部分が赤く強調されている。

その周りに赤ワインで煮込んだココソースがちょんちょんと付けられている。

見ただけで高級っぽい感じがしてきたぞ。


アントワネットの頼んだグラス・シャンティーもアイスクリームほどではないが、シャーベット状にシャリシャリとしているようだ。

クリーム色のコントラストがお見事といった具合だ。


ランバル公妃が注文したグラタン・コンプレは暖かそうだ。

これに関しては日本でも時々見かけることがある。

丁度アルミホイルに巻いて焼いた市販のグラタンみたいな感じ。

店内は暖炉の温かい空気で籠っており、グラタンと合わせると身体がポカポカと温まりそうだ。


「それじゃあ、頂くとしよう」

「ええ!」

「はい!」


俺たち三人はそれぞれの料理を食べ始める。

鹿肉を焼いた上に、赤ワインで煮込んだココソース……。

量でみれば少ないと感じるかもしれない。

フォークで五ヶ所ぐらい刺すだけで肉が無くなるぐらいの量だ。

ささやかな量。

でも小食な俺からしてみればこれだけでも十分だ。


フォークで掬うように鹿肉を持って口の中に入れる。

野生動物ということもあるだろうし、臭みなどもあるんじゃないかと思ったんだが……いや、臭みが無いぞコレ?!

すごく鹿肉が柔らかいし、赤ワインで煮込んだココソースが臭みを消失させたのだろうか?

胡椒もそこまで振りかけていないようにも感じる。

これはあまりグルメに精通していない俺でも分かる。

そして、あまりの美味しさについ口に出してしまう。


「とっても美味い……」

「こちらも……本当に、口の中が……とろけてしまうほどの美味しさでございます!!!冷たくて……気持ちがいいですの!」


アントワネットに至ってはグラス・シャンティーを堪能しているのだろう。

既にとろけてしまいそうな顔になっている。

まさに幸せを顔に出しているようなものだ。


「フフフ、お二人とも幸せそうで何よりですわ」


微笑ましい笑顔でランバル公妃はグラタンを食べている。

その光景に思わず俺もアントワネットも釣られるように微笑んだ。

宮殿の食事は堅苦しい感じがあるが、ここではそういった感じはない。

自由に食事を堪能できる。

そんな開放的な感じも相まってか料理の味も引き締まっているように感じた。

正午になるまでに俺たちは料理を堪能し、料金を支払ってから次の目的地へと向かうのであった。

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