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67:橋の上の商売

参考文献を新しく買ってきたので初投稿です。

後書きの欄に参考文献本の詳細を書いておきますので、もしよろしければ見てください。

あと300万PVと小説家になろう歴史ランキング四半期2位になりました!ありがとうございます!

皆様のコメントが私にとって生きる糧となっておりますのでどしどし感想を遠慮せずに送ってください。

「さぁさぁ!見てらっしゃい!美味しい出来立てほやほやのウーブリはいかがかね!今なら割引するよ!」

「まだまだ冬は続いているよ!マッチ、マッチはいかがでしょうか!」

「煙突掃除なら俺に任せてください!どんな汚れでも綺麗にしてみせますよ!」

「さる1月30日、バルバ肉屋の幼い孫娘であるレジーナさんが結核でお亡くなりになりました……葬儀の日程は……」


パリの中はとびっきり賑やかだ。

馬車の中からも物売りの声が鮮明に聞こえてくるほどだ。

馬車の車列が通ると、道の真ん中を歩いている人達が避けて道を譲ってくれている。

自動車やバイクなど現代の乗り物が無くても、道路が整備されている街並みは割としっかりしていた。


ただ、今後の道路状況に沿って道そのものを整備する機会が増えてくるかもしれない。

自動車などが発明されたら、そうした道路交通法などの整備を行うのがいいだろうね。

こうして庶民の様子を間近で見るのもいい機会だし、気分転換にはもってこいだ。

広場の通りに差し掛かると、人々が集まって見物をしている。

馬車の中からちらりと見てみると、そこには腹がぷっくらと膨らんだ男を中心に、大きな声で劇を演じていたのだ。


『おおおおお!!!ついに巨悪は倒されたのだ!!!黄金をたらふく膨らませていた巨悪は自らの不始末によって倒されたのだ!!!』

『ああ、そんな!私はどうなるのでしょうか!』

『もはや捕まっている身だぞ、どうもこうも身から出た錆だ!!!』

『そんなぁ~!!!!』

「「「アハハハハハハ!!!」」」


全ての内容を見たわけではないが、どうやら『金塊公爵事件』の内容を面白おかしく喜劇として行っているようだ。

ウーブリやジュースを片手に飲み食いしながら見ていた人達は笑って劇を楽しんでいる。


「見てごらんアントワネット、あの人達は大道芸人みたいだね……」

「ええ、それにしてもスゴイ声量ですね……ここまでハッキリと声が聞こえてきますわ」

「この辺りでは大道芸人や道化師が多くいるのですよ。こうして人々に笑いを届けているのも彼らの仕事です」

「さすがランバル公妃、パリ市内の事情に詳しいですね」

「いえ、ですがこの辺りは明るい雰囲気なので私自身とっても気に入っている場所ですわ!」


いつの時代でも路上ライブは人気のようだ。

この時代には電化製品という言葉は存在していない。

機械式のからくり人形の類は売ってはいるけどね。

便利な物がない時代、人達のガス抜きとして多く利用されていたのがこうした路上ライブで芸や劇を行う大道芸人や道化師が好まれていたようだ。

また、近世まで栄えていたジャンルの一つもこの近くで行われるみたいだ。

公示人が大声を挙げて公布をしている所だ。


『今から1時間後にパリ中央市場にて強盗犯ヨーシフの死刑執行を行う!』


そう、公開処刑である。


もし現代のパリで同じように公開処刑でも行えば死刑反対論者から”気が狂っている!”と言われるのがオチである。

しかし、庶民からしてみれば日頃のストレスを吐き出せる数少ない場所でもあったのだ。

実際に公開処刑が行われる際には古今東西、人だかりが出来たと言われている。

広場とかってすごく賑やかなんだけど、いざ処刑が行われるとなるとスゴイ人だかりができるんだとか。


あと、意外と知られていないかもしれないが死刑執行人は身分としては全階級の中でも奴隷と同等の最下位扱いに近い存在ではあったが、滅茶苦茶高給取りだったんだ。

庶民の平均年収の二倍から三倍、さらに国王が選んだ国選死刑執行人クラスになると聖職者や貴族にも劣らない収入を確保することも出来た。

でも、その分風当たりも強くて処刑人の子供や家族が教会や学校に行くことは拒絶されていたぐらいだからね。


「公開処刑ねぇ……あまり人の流血する場面は見たくないものだな」

「そうですわね……オーギュスト様は公開処刑についてはどう思っているのですか?」

「うーん、俺個人としては公開処刑はあまりしたくないんだよね。広場で首を切り落とす場面とか見たら卒倒しちゃうかもしれんからね」

「確かに……あまり気持ちいいものではありませんわ」

「それに、刑を執行する人達が差別されているのが可哀想なんだよね。彼らの子供は学校にも教会にも行けないんだ……彼らは自分の決められた職務を全うしている人達なのに……それが不遇でいたたまれないよ」


俺個人として尊敬している死刑処刑人のアンリ・サンソン兄貴も処刑人であると同時に医師として働いているからね。

医者として優れた医術手腕を持っているから俺個人としては、サンソン兄貴を医学会に入れてほしいなと思っているわけ。

何と言ってもサンソン家は代々処刑人として刑を執行している家系であるが、処刑で得られた医学的なデータを基に現代医学に通じるやり方で治療をしているみたいなんだ。

いまだに民間療法レベルの治療を主体にやっているので現代的でかつ科学的なデータが欲しいわけよ。


だからサンソン兄貴を説得してサンソン家秘伝の医学書をフランスの医学会に提示できれば、その分フランスの医学は飛躍的に発展するだろう。

それに処刑人の名誉と保護を求める署名に俺直々にサインを入れている。

寛容令の中にも処刑人の差別を禁ずることを書き入れてはいるものの、まだあまり効力を発揮できていないのが現状だ。

長年続いた偏見もすぐには治らないのが現状か……。

もどかしいものだ。


「陛下、そろそろ最初の目的地に到着しましたわ」

「目的地……此処かい?」

「はい、パリでも有名なお店ですよ」


そう思っていると最初の目的地についた。

場所はパリ市内の中央部に位置する行政区画別でいう所の第5区だ。

パリの中心であり、この辺りには多くの学生がいるのが特徴的だろう。

何と言っても世界最古の大学として名高いパンテオン・ソルボンヌ大学を中心に高等訓練学校などが盛んにあるので若い熱気がムンムンと押し寄せてくるぜ!

俺もまだ16歳だしアントワネットも15歳だから十分に若いけどネ!

そんな場所に佇んでいる洒落たお店がある。


「トゥル・ド・ステル」


高級レストランであり、鹿肉料理を中心に扱った料理店である。

さらにデザートが美味しいことで有名だという。

そう、最初にやってきたのはここで食事をすることが目的なんだ。

俺とアントワネット、そしてランバル公妃は店の中へと足を踏み入れたのであった。

参考文献

『パリ職業づくし 中世~近代の庶民生活誌』

監修者:ポール・ロレンツ

著者:F.クライン=ルブール

訳者:北澤真木

発行所:論創社

(2015年)

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