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65:連れを起こさないでくれ、死ぬ寸前まで疲れている。

おかげさまで歴史ジャンル四半期ランキング2位に昇り詰めました!

ありがとうございます。


☆ ☆ ☆


1771年2月1日


フランス ヴェルサイユ宮殿


最近寝れない時もあるけど何とかやっていけているルイ16世だ。

転生前の事が無性に恋しくなる時がある。

VRゲーム市場がどうなっているのかとか、新作ゲームの売上がどうなったとか、職場で俺が居なくなって無事に機能しているのか等々……。

時折あの生活が恋しく感じて涙を浮かべてしまう。


クーラーに冷蔵庫、洗濯機にIHコンロに電子レンジ、テレビにパソコンにスマートフォン……全て電化製品で囲まれた生活をしていた俺にとって、利便性ではこちらの18世紀の世界と比べると雲泥の差だ。

好きな時に何時でも冷蔵庫から食べ物を取り出して電子レンジのボタンを一つ押すだけで加熱できる。

世界中で起こっているニュースはリアルタイムで逐一ネットで速報が流れ出て、その情報を横目で確認しながらTVを起動してゲームを楽しむ……。


18世紀の人達からしてみれば、まるで魔法の世界みたいな出来事だと思われるかもしれない。

そんな世界からやってきた俺にとって、こちらでの生活も斬新であり、そして愛しのアントワネットがいるので頑張って行ける感じだ。

彼女と幸せに暮らしていけるようにもっと努力しなきゃ……。


「さぁてと……朝食のレーズンパンとホットミルクを頂いたことだし、今日も一日頑張る……」

「国王陛下!オーストリア大使のアルジャントー伯爵が面会を求めておりますが」


今日も仕事頑張ろうかなと思った矢先の出来事であった。

オーストリア大使のアルジャントー伯爵が俺に面会を求めていると守衛が報告してきたのだ。

オーストリア大使から面会を求めるという事は、何かあったのだろうか?

戦争とかは勘弁願いたいものだね。


「分かった、面会を求めているなら今すぐ会おう、通してくれ」

「はっ!」


守衛がドアを開くと、茶色の服装を身に纏ったオーストリア大使、アルジャントー伯爵がやってきた。

何かとアントワネットへアドバイスなどを行っている人物であり、同時にフランス王国とオーストリアに不和が起きないように見張りとして活動している。

いわば、俺とアントワネットがうまくやっていけているかどうかチェックしているって事よ。

アルジャントー伯爵は俺に一礼してからある物を渡してきた。


「これは……手紙ですか?」

「はい、先ほど配達人から速達として渡されたものです。ルイ16世陛下に直接お渡しせよとのご命令を受けております」

「俺の分に……これはアントワネットの分もありますが?」

「はっ、是非ともお二方でご一緒に読んで頂きたいとの事でございます」

「なるほど……わかりました。手紙持って来てくれてありがとうございます。アルジャントー伯爵」

「いえいえ、ご朝食の優雅なひと時を邪魔してしまい申し訳ありませんでした」

「朝食はもう食べたから大丈夫ですよ。手紙、必ずアントワネットが戻ってきたら一緒に読みますから」

「はっ、では何卒手紙をご覧なさいますよう。お願い致します」


アルジャントー伯爵はそう言って頭を下げると退室した。

女大公からの手紙を持ってきたのだ。

アントワネットの分と合わせて俺の分まであった。

けっこう分厚いな……。

これ結構な枚数なんじゃね?

軍事同盟関連の情報とかも入っているんじゃなかろうか……?


で、アントワネットは今何をしているのかというとだ、朝風呂を楽しんでいる真っ最中だ。

そう朝風呂である。

21世紀なら朝風呂は何時でもやろうと思えばできるが、この時代は蛇口を捻るだけで水が出てくるような事は無い。

水を井戸から汲んで沸かしてからバスタブの中にお湯を入れる作業をしなければならない。

めちゃくちゃ労力は掛かるし、朝風呂に入れるのは裕福な家庭に限られている。

ちなみにアントワネットは長風呂が好きなほうだ。

お風呂から上がるまでにあと15分といった所だろうか。


お風呂といえば、最近バスタブを改装してもっとゆったりできて掃除も楽な排水口を取り付けたものを新しく設置したんだよね。

俺としてはゆったりとした空間にヒノキの香りが漂う露天風呂とか好きだけどな。

それでもバスタブが広くなって排水と清掃作業が楽になったことでだいぶやりやすくなっているからね。

今の時期はお風呂が恋しくなる季節だし、いつかアントワネットと一緒にお風呂を入る機会があれば是非とも景色の良い場所で入りたいものだ。


ボーッと時間が過ぎていくのを感じる。

気がついたらアントワネットが入浴から上がって帰ってきたようだ。

髪の毛をバスタオルで乾かしてきたのだろうか、まだ髪の先っちょに水滴が残っている。

きれいさっぱりしたところでアントワネットにも手紙を見せた。


「お待たせいたしましたオーギュスト様、あら?その手紙は?」

「君のお母さんからだよ。さっきアルジャントー伯爵が持ってきたんだ。なんでも一緒に見るようにだそうだ……」

「お母様から……?」

「ああ、これがアントワネット用、そしてこっちが俺宛の手紙だそうだ。一緒に開封して見てみるかい?」

「はい!あ、ペーパーナイフをすぐにお持ちしますね!」

「あっ、ごめん……ペーパーナイフ用意していなくて……気が利かなくてごめん」

「いいえ、オーギュスト様は大丈夫ですよ!さぁ、一緒に開けて見てみましょう!」


ペーパーナイフを使って手紙を確認する。

アントワネットと俺宛の手紙には別々の事が書かれていた。

アントワネットには母から夫に対するアドバイスが、そして俺には国王としてのアドバイスが書かれていた。


― 拝啓 ルイ・オーギュスト国王陛下へ


ご機嫌いかがでしょうか。

オーストリア大公国のテレジアでございます。

いつも娘がお世話になっております。

こうして貴殿に手紙を出すのは初めてになるかもしれません。


まず最初に、国王としての責務を着実に行っているみたいですね。

同盟国である我が国にも貴殿が主導して行っている改革の噂は広がっております。

身分・階級・人種を問わず様々な人材を確保し、尚且つ運用をしている事は素晴らしいと思っております。


国王として自ら陣頭に立って責務を全うする。

これはとても良いことでありますが、同時に心身に掛かる負担も大きくなります。

負担が大きくなりすぎると、いずれ支えきれなくなって折れてしまいます。

特に国全体を変えるような改革を行うとなれば、貴殿への負担は相当なものになるでしょう。


国王たるもの働くことも重要ですが、休息をしっかりと行う事も責務であります。

私も若いころは寝る間も惜しんで陣頭指揮を行いましたが、その反動で今でも一時的に頭痛などが起きてしまう事があります。

若いころは何でも出来ると思い、無茶をしやすい時期です。

ですが、若いころに無理をしてしまうとその反動が数年後に大きくなって跳ね返ってくることが多いのです。


是非とも、休息をとりながら決して無理をなさいませぬよう、お身体の管理を第一にお願いいたします。

最低でも週に1日はお身体を休ませてください。

それから、いつも娘と一緒にいてくれてありがとうございます。

娘は貴殿と結婚してから随分と成長致しました。

娘の成長している報告を聞くたびに、娘を結婚させて良かったと思っております。

これから先も両国間の友好が続くように願っております。

そして、娘を今後ともよろしくお願いいたします。


― マリア・テレジアより


………。

おぉ、さすが女大公として名を馳せた人だけにアドバイスが的確だな……。

そして、俺が徹夜して作業することを思いっきり咎めていたね。

やはり働きすぎなのかな……。

アントワネットも手紙を読んでいる際に何度も頷いていたし……。


考えれば……同盟国の国家元首がここまで心配してくれているって事だよね?

いやいや、テレジア女大公陛下を心配させてしまうのはマズイって。

そうだなぁ……。

思い切って休みを取ろうかな。

丁度今日と明日は大きな予定は無いし……ここはテレジア女大公陛下の進言を聞き入れて、これからは毎週必ず最低1日は休息日を設けるとしよう。


「……アントワネット」

「はい、何でしょうか?」

「……今日は仕事はお休みにしてパリにでも出かけてみるかい?」

「!!!よ、よろしいのですか?!」

「うん、ここにも書いてあるけど……休むことも国王の責務だってお母さんからアドバイスを貰ったからね。進言を受け入れて今日と明日は休むよ、重大な公務は無いからね。休んでパリの中を観光しようと思うんだが……いいかな?」

「ええ!!!勿論ですわ!!!休むことも大事ですし!!オーギュスト様!一緒にお買い物をしましょう!!!」

「あぁ~いいね~では早速守衛に伝言を頼もうかな、今日は休むって……」


確かに、ここ最近は働き過ぎた。

やはり休みをしっかりと取らないといけないようだな。

働き方改革やっていて自分が過労で倒れたら笑えないからね。

俺はテレジア女大公陛下の助言を受け入れた上で、2日間の休暇を得ることにしたのであった。

主人公、転生して半年以上経ってようやくパリ市内に入る模様

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