63:MPを回復するにはアントワネットの膝枕が必要だ
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今日もオーギュスト様は夜遅くまで国土管理局でお勤めをしておりますの。
私は妻として、オーギュスト様が帰ってくるまでお部屋でお勉強とお母様宛のお手紙を書いておりました。
お勉強といっても簡単ではありません。
今までよりもさらに難しい話題や哲学的な問題も登場してきましたの。
例えばフランソワ・ケネー氏が提案している『重農主義』について、メリットとデメリットをあげなさいという問題がございましたの。
重農主義とは、その名の通り農業による収益を重視した経済政策を行う事を示し、農作物の売買を自由化して沢山農作物を市場に出すことで経済を活性化させようというものです。
これはオーギュスト様が去年の秋に説明してくださいました。
ただ、オーギュスト様は重農主義に否定的な見解を示しており、国王になってもこうした重農主義に基づく経済政策は行わないと申しておりました。
「重農主義はねぇ……。ある意味博打すぎるから俺個人としては国王になってもやりたくないんだよね、農作物の自由化ってメリットよりもデメリットのほうが大きすぎるんだ……」
「そうなのですか?聞いた限りでは経済が自由化をすればその分農民の利益も上がるのではないでしょうか?」
「そう、確かに天候に恵まれていて農作物が
「農作物があまり出回らなくなって……ハッ、もしかして価格が高騰するのですか?!」
「その通りだ。せっかく自由化しても農作物が高騰して庶民の手に届かない値段にでもなったら暴動が起きるだろうし、それを主軸にした経済政策が破綻してしまうだろう。農作物っていうのは管理がシビアでね……ちょっとでも手を抜いてしまえば育たなくなってしまうんだ。だから、メリットもあるけどデメリットが大きすぎるってわけ」
「なるほど……よく解りましたわ!」
農作物は気候に左右されやすい物であるとオーギュスト様は語りました。
重農主義のメリットとデメリット、それは豊作であれば利益が市場に大きく出る代わりに、不作の年は大打撃を受けるというものです。
これで問題の一つ、回答することが出来ましたわ。
そしてオーギュスト様は重農主義は採用しない代わりに、これから成長していくであろう蒸気機関を応用した産業政策を進めていくとのことでした。
勉強をしていると、オーギュスト様は分かりやすい例えで説明してくださるので本当に傍で一緒にいたいお人です。
お母様へのお手紙にもそう書きましたわ。
お母様もオーギュスト様の事を信頼しているみたいで何よりですの!
ああ、オーギュスト様……今日はもう既に午後10時を回っているのですよ。
そろそろ帰ってきてくださいませんか?
私はもう貴方の帰りを待ち遠しく感じてしまいます。
すぐそこに小トリアノン宮殿がありますが、今は重要な会議や書類の作成をしているのです。
私が行って場を乱してはいけませんわ。
行くとしても、落ち着いてからの方がよろしいと思いますの。
”コン、コン、コン”
ドアが叩く音がしました。
ノックが三回。
ついに、ついにオーギュスト様が帰ってきたようです!
部屋に入ってきたオーギュスト様は部屋に入ってくると直ぐに私に謝ってきたのです。
「ただいま~アントワネット!遅くなってごめんね!」
「おかえりなさい!オーギュスト様!!!いいえ、夫の帰りを待つのは妻の務めですわ!」
「ありがとう!!!でも今日みたいに遅くなっている時は無理しなくていいんだよ!」
オーギュスト様は無理をしないように咎めつつも、ありがとうと労いの言葉をかけてくれたのです!
そして既にお部屋はアロマオイルのとても心地よい香りで満たされております。
オーギュスト様の疲れを少しでも癒すためにランバル公妃に頼んでパリ市内から取り寄せてきたものです!
暖炉の温かい空気と心地よいアロマオイルの部屋に入って来たオーギュスト様は、部屋に入ってくると直ぐに部屋の変化に気がついてくれましたの!
「おっ、いい香りだね!!!これはアロマオイルかな?」
「ええ!ちょうど疲労回復に効果があると話題になっているんですよ!」
「なるほど……うん、確かにいい香りに包まれると気分良くなるよね~まるで部屋に入った途端に避暑地にやってきたかのような爽快感がやってきたぜ……テンション上がるなぁ!!!」
そういってオーギュスト様はガッツポーズをしました。
喜んでくれていて何よりですの!
そしてオーギュスト様はこう言いました。
「今夜はどうしたい?アントワネット……」
「そうですね……今宵は二人でゆっくりと眠りにつきたいのですの」
「そうだね、そろそろ寝る時間だもんね。では、また一緒にベッドで寝よう」
「……はい!」
オーギュスト様と一緒にベッドで眠る。
それだけでも私は幸せですの!
ここまで気の合った人と一緒にいられることが……何よりも楽しいのです。
そして、一緒に寝るだけでも幸せですわ。
おまけに、今日はオーギュスト様の意外な一面も見ることが出来たのです!
「それから……今日はちょっとだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「はい!何でも申してください!」
「少しの間でいいんだけど……膝枕をお願いしてもらってもいいかな?」
「膝枕……?ですか?」
「そうそう、ベッドで座っている状態で……俺がこう……身体を横にして……アントワネットの膝に頭を乗せて眠ってみたいんだ……いいかな?」
「まぁ、いいですわよ!」
何だか子供っぽい要求でしたので、すこしばかりにやけてしまいましたの!
でも、膝枕をしているとオーギュスト様がどこか寂しそうな顔をしている事に気が付いたのです。
もしかしたら、オーギュスト様はお母様にこのように甘えることが無かったのかもしれません。
私はお母様やお父様、そして宮殿内にいる人達から沢山愛情を受け取って育ちました。
勉強が苦手で世話ばかり焼いていましたが……。
「アントワネット……」
「はい、どうかなさいましたか?」
「……甘えてもいいかい?」
「ええ!もちろんですわ!」
「……ありがとう」
私はオーギュスト様の頭を撫でてあげました。
子供っぽい所もありますが……それでもそんなオーギュスト様が大好きです。
オーギュスト様はこうした二人っきりの時間で唯一他人に甘えることができるのでしょう。
オーギュスト様の癒しになれるようであれば、私にたっぷりと甘えてください。
でも、ここ最近はお勤めが長くて色々と大変みたいなので、少しお話を聞いた方がよいかもしれません。
もしかしたら無理をしているのかもしれません。
私はオーギュスト様と一緒ですから一緒に、このフランスを変えていくお手伝いをしましょう。
その為にはどうしても私はまだ勉強が不足しております。
あと少し、もう少しだけ基礎的な知識を身につけてからオーギュスト様のお手伝いを致します!
オーギュスト様の頭を撫でながら、私はオーギュスト様の二人だけの時間を楽しむのでした。
やはり相思相愛の方が話が進むからええな………。