5:讃美歌
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ついに結婚式をやってまいりました。
はい、結果は大成功です。
ヴェルサイユ宮殿を使った結婚式なんて後世の女性陣が聞いたらきっと羨ましがるに違いない。
そのぐらいに凄かった。
SNSに画像を張りつければ直ぐに「いいね」ボタンで埋め尽くされるぐらいには凄かった。
まずバチカンから大司祭さんがわざわざやってきてくれたのよ。
ホテルとか式場の神父とかはアルバイトの外国人男性がやっているケースが多いけど、ちゃんとした聖職者がやって来てくれたからね。
そりゃ王太子と大公の娘さんの結婚式ですもの。
王室礼拝堂の聖歌隊とかで讃美歌の大合唱は大迫力だ。
まるで劇場で上映される物語の中にいるような感じだ。
結婚式に参列している人々も凄かった。
大勢の貴族や国の重鎮が一斉に集まってお祝いの言葉を申し上げて、俺とアントワネットの結婚式を喜ぶなんて早々ない光景だ。
王室の結婚式は基本的にスケールが凄すぎる。
テレビで王室や皇族の方々の結婚式の番組とか見た事あるけど、当事者になってみるとここまで大迫力で劇の主人公になっている気分だ。
絢爛豪華な部屋で行われた国の威信が現れた威風堂々たる結婚式。
まさに盛大に行われたので圧巻の一言だ。
千葉県にある某テーマパークに来たみたい。
テンション上がったなぁ~。
「ルイ・オーギュスト殿、貴方はマリア・アント―ニアとの永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
もうその瞬間にアントワネットの顔をみるとどことな~く、嬉しそうな表情でしたね。
さっき使いの人に渡した手紙が上手く行き届いたみたいだね。
いやほんと良かった。
きっと緊張していたのかもしれないが、アントワネットの機嫌は終始良かった。
まず式典で出されたのがマリー・アントワネットの指にはめる指輪。
職人が丹精込めて一年かけて作ったものらしい。
サイズ測ったりとかしていたみたいだけど、かなりシンプルなデザインでありながら洗練されているように感じる。
流石王妃になる女性に送られる指輪だけあるわ。
実際にアントワネットの指にはめる際に落とさないか心配になったほどだ。
でも無事に指にはめることが出来て本当に良かった。
こっちもアントワネットに指輪をはめてもらいました。
いやー中々センスのある指輪だな。
なんか竜みたいなデザインが刻印されているし。
相当こちらも凝って作りましたね。
指輪交換を済ませてから誓いのキスをして終了。
……ではなく、その後も結婚式の行事は続いていく。
結婚式の後に行われた披露宴では国内外の著名人や貴族、王族関係者が集まっている。
その中でも注目されたのが俺とアントワネットであった。
当事者であることは勿論のことだが、何よりも二人の結婚をどう見守るか考えている人たちがいたからだ。
国王陛下であるルイ15世は勿論の事、国王の娘さん……というか
アデライード、ヴィクトワール、ソフィーの三人だ。
大らかそうな顔をしているが、祖父のルイ15世とはとても仲が悪い。
彼女たちの心境は複雑なのだろう。
オーストリアとの同盟を嫌い、また祖父が現を抜かしている原因が公妾にあると考えていたからだ。
その為に宮廷内の争いでマリー・アントワネットを嗾けたとも伝えられている人物だ。
おまけにこの姉妹は派閥争いで公妾とアントワネットを焚き付けた後、普通にフランス革命を生き延びているのだ。
ああ……ソフィーは病気で革命が起こる前に死んだっけ?
とにかく議会が姉妹に外国への渡航を認めたため、そのままローマとかに逃げきることに成功しちゃったのだ。
もっともやばくなった情勢を察してか真っ先に親類を頼っていたらしいが、それでもフランス革命でちゃっかり生き延びた王族関係者としては有名だろう。
革命から生き延びた分悪運が強かったが、それでも祖国フランスに返り咲くことはなく互いに亡命者としてその後は寂しい生涯であったという。
……うーん、派閥争いはやめようねホント。
競争目的としてはいいかもしれないけどね。
某日本の大企業も社内での派閥争いに現を抜かした結果、大赤字になって外資系企業からの融資に頼るほどに業績が悪化した例がある。
某自動車メーカーとか某家電メーカーとか……。
バブル経済がはじけた途端に企業内派閥で傾いた企業は数知れず。
おまけに後継者争いは割と謀殺とか普通にあるからおっかない。
そうでなくても評価を意図的に落としたりして誹謗中傷攻撃とかあるし。
とにかくあの三人には気を付けないと……。
特に、アデライードには要注意だ。
派閥争いもそうだけど、アントワネットが安息できる場所を用意できるようにしないとね。
まだ14歳……いくらこの時代で成人年齢だといっても14歳は最も精神面的に影響を受けやすい時期だ。
アデライードとヴィクトワールと接している際には確かに笑顔だったが明らかに作り笑顔だ。
必死になって笑おうとしているのだ。
人間関係における今後の課題といえばそんなところだろう。
そんでもってマリア・アント―ニアは正式にマリー・アントワネットとなった。
愛しのマリーと呼ぼうと思ったのだが、ファーストネームでマリーを付けるのは王族や貴族でもほとんど常習化してしまっているのだ。
なので俺は彼女のことをアントワネットと呼ぶことにした。
危うくマリーで呼んじゃう所だった、ヤバイヤバイ。
なぜかと言うとアデライードやヴィクトワールもファーストネームが「マリー」なんだよなぁ。
なのでこれからはアントワネットだ。
片手にシャンパンを持って周囲を見ているとアントワネットから声がかかってきた。
「オーギュスト様、いかがなされましたか?」
「いや、何というかまだ少々緊張していてね。アントワネットは大丈夫かい?」
「はい!私は問題ありません!お疲れ様でしたらご一緒にお部屋に行きませんか?」
おっと、お誘いイベント発生だ。
確かにアントワネットに今朝手紙出しましたね。
ノリノリで筆をサラサラっと書き終えたんだが……。
『未来への展望について語りたい』
……すっごい中二病全開じゃないかコレ。
改めて勢いとノリで書くのはやめたほうがいいと思った所存だ。
勿論アントワネットの誘いを断る理由はない。
「そうだね、では一緒に部屋に行こうか」
「はい!」
祖父や叔母たちに一通り挨拶を済ませてから、俺とアントワネットは部屋に向かうのであった。
ご同衾イベント発生?
お”ぉ”ぉ”ん”