57:大晦日の会談
2万pt及びブックマーク7200件突破しました。
ありがとうございます!!!
これからも精進して参りますので初投稿です。
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1770年12月31日
小トリアノン宮殿 国土管理局
宮殿内は多くの人々が行き来している。
飛び交う書類の束、デスクに座って報告書や秘匿性の高い書類に目を通している。
ペンも常に走らせているような状態だ。
転生前のブラック企業に勤めていた時の繁忙期を思い出したほどだ。
「国王陛下、こちらが来年度に行われる改革に必要な予算でございます」
「どれ、見せてくれ……」
「国王陛下!こちらの書類にサインをお願い致します!」
「うむ、そこにおいてくれ。この予算案に目を通してからサインをする。5分後にまた来てくれ」
猫の手も借りたい状況、それが今だ。
せっかくの大晦日だけど俺は仕事の真っ最中だ。
ルイ15世が崩御した結果、自動的に国王の座は俺に移った。
といってもルイ16世として暫定的に新国王になったわけだが、まだ載冠式をしていないので公式に国王になるのは再来年の1772年3月21日になる。
だからそれまでに色々と引継ぎ作業をしなくちゃいけないんだ。
会社の役員の引継ぎも大変だったが、国王になればその数倍は大変だ。
新国王になる俺は閣僚や人事、国内の経済状況や仮想敵国である英国・プロイセン王国の動向。
食料価格の推移、疫病・災害などに備えた行動等々……。
数えたらきりがない。
というか、こうした作業を来年の1月後半までに終わらせないといけない。
本来なら閣僚などに丸投げすることもできるが、そんな事をしたら信頼を失くすだろうし、何よりも上に立つ俺が済ませないといけない仕事だ。
部下ばかりに仕事を押し付けてはならない。
それにいい加減な仕事をしていては、いずれ書類の不備に気づかずに大きなミスを起こしやすくなる。
仕事は真面目に、そして精確に確認を行うことが重要だ。
多少時間が掛かってもミスの無いように書類一枚、一枚をチェックしていく。
チェックをしていたら早速ミスを発見。
渡された資料の合計金額のうち、最後の下二桁が逆に書かれていた。
あー……これは凡ミスですね……。
計算ツールがあればこういったミスは直ぐに見つけられるけど、何せ手作業でこうしたチェックを行っているので、決済も目を細めて作業しなければならない。
直ぐに職員を呼んで指摘をする。
「君、この予算案だけど一番最後の計算が間違っているよ。ここだけ修正しておいてくれ」
「はっ、ただ今すぐに……!」
「大丈夫だよ。君の字は綺麗だし、書き方も丁寧だ。あせらずにやろう」
「はっ、ありがとうございます!」
指摘をしてもちゃんとちょっとしたサポートを入れる。
これが仕事のモチベーションを上げるための秘策だ。
ガミガミ叱るようなやり方ではモチベーションが下がってしまうからね。
注意すべき点以外の事は突かないほうがいい。
どうも仕事上でのミスなのに、プライベートな領域で突っついてくるクソ上司が多いとたまに殺意沸くよね。
東南アジアで日本人ビジネスマンが現地の部下に死傷される原因の大半が、人前でそうした叱り方をした事が原因らしいし、基本的に人前でも怒鳴りつけるやり方はいけないという事です。
それはここフランスでも同じことだ。
「国王陛下、こちらの書類はどちらに持っていきますか?」
「ああ、それは後ろの書棚に置いてくれ」
「陛下、1765年度ナントの経済状況の報告書はこの書棚に置きますか?」
「いや、それは向こうの部屋に設置した経済報告資料の所に入れてくれ」
国土管理局の職員は熱心に仕事に取り組んでくれているのがありがたい。
この時期は本来であれば来年の行事に向けた最終調整とかをするんだけどね。
王族……とりわけ国家の主軸を担うので休んでいる暇は殆どないぞ。
この仕事が終われば正月三が日は休みかな~と思っていた時期が俺にもありました……。
ところが元旦から俺は仕事だよ……!
元旦は休みかな~と思っていたら、なんと元旦は午前中から午後2時までヴェルサイユ宮殿で貴族や閣僚との会合に出席しなければならないんだ。
特に、俺は改革をすると公言しているので、その改革に参加を表明している者達への激励をしなければならない。
年初めの行事がわりと重要だ。
というか基本的に国王になると年明けの行事が目白押しだったりするのだ。
ルイ15世の国葬も年明けの1月5日にサン=ドニ大聖堂で行う予定なので、正月なのに仕事に追われる日々……。
ザ・デスクワークといった感じだ。
転生前のブラック企業並にハードスケジュールだぜ。
だから寝る前にアントワネットに膝枕してもらって英気を養おう。
アントワネットの膝枕はいいぞ、頭撫でてくれるし。
気力が直ぐに回復してくれるのはアントワネットの優しさもある。
本当にアントワネットが優しい人で良かったよ。
一応、1月1日の午後から1月2日まではゆっくり過ごせるので、その時にアントワネットと一緒にいようと考えている。
1月上旬まで、みっちりとスケージュールに埋め尽くされているけど、アントワネットと終始一緒にいられる1月2日は盛大に休むぞ!!!
それまでは止まっていちゃいけないんだ。
前に進まないといけない。
『フランスの未来を頼んだぞ……』
ルイ15世の言葉が頭をよぎる。
俺の改革を「好きにやるがよい」と任せてくれたお陰でハードスケジュールとなってしまっているが、全体の業務は予定通りに進んでいる。
載冠式までには確実にこの忙しい波を乗り切るぞ。
このまま止まるんじゃねぇ……突き進め!!!
改革の道を走りきってやる!
書類の整理を行っていると、宮殿の入り口から可愛らしい声が聞こえてきた。
「あの……オーギュスト様はいらっしゃいますか?」
「こ、これは王妃様!!!はっ、国王陛下はあちらのデスクに座っておられます」
ふと、王妃様という声が聞こえたので振り返るとアントワネットとランバル公妃がやって来たのだ。
よく見ると二人の手には籠のようなものを持っているのが分かる。
そして何やら甘い香りが漂ってくるじゃないか……。
なんと、アントワネットは俺や職員の為に出来立てのお菓子の差し入れをしてくれたようだ。
うわぁ!!!めっちゃ嬉しいぞ!!!
「オーギュスト様!!皆様の分を含めてお菓子を作って参りました!良かったらどうぞ!!!」
笑顔でアントワネットは作ってくれたお菓子を見せてくれた。
ふんわりとした食感が特徴的なマカロンだった。
スゲェ!滅茶苦茶出来栄えが良い!!!
「アントワネット様がご自分でお作りになられたお菓子ですよ」
「本当?!すごいねアントワネット!!!それじゃあ一個もらうよ!!!」
「はい、どうぞ!!!オーギュスト様!!!」
フォォォォォォ!!!!!!
アントワネットが作ってくれたマカロンを手に取っているぜええええええ!!!!
すっごいもっちりとした感触ながらも、一口かじると口の中に甘味がじわぁ~っと広がっていく。
最高に美味しい。
俺が作ったポテチなんか目じゃないぐらいに美味い!!!
俺の嫁の作るお菓子は最高に旨いぞ!!!
「せっかくだからみんな一旦休憩にしよう!!!アントワネット、皆さんにマカロンを配ってくれ。これは最高に美味しいよ!」
「はい!ありがとうございます!!!オーギュスト様に褒めてもらえるとすごく嬉しいです!!!」
「喜べ皆!アントワネットお手製のマカロンだぞ!!!ここで小休憩をしてしっかりと味わって食べるんだ!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
職員のみんなが歓声をあげている。
そうだよね。
休みも大事だもんね。
あと王妃様からお菓子を貰えるなんて早々ないからねぇ。
アントワネットも、アントワネットなりのやり方で手伝ってくれているんだ。
彼女のおかげで皆の元気がモリモリ沸き起こってくる。
思えばルイ15世が倒れた時もお菓子を作ってくれたもんなぁ……。
すごく嬉しい。
アントワネットのマカロンでやる気のブーストをチャージした俺は、その後休憩を挟みつつも午後7時までには年内に終わらせるべき作業を終えて、ヴェルサイユ宮殿の居室に帰ってきたのであった。