52:数字
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今日はコンドルセ侯爵やランバル公妃と一緒にお勉強をしておりますの。
何と言ってもオーギュスト様が太鼓判を押して「この人は政治・社会学に精通しているから為になると思うよ」と言って今週からコンドルセ侯爵と勉強をすることになりました。
オーギュスト様のおっしゃる通り、コンドルセ侯爵は政治学や社会学にとっても詳しい御方です。
今まで習ってきたお勉強の総復習をしているような感じです。
「政治や社会というものは数字で表すことによって初めて視覚化されるものです。逆に言えば数字を出さずに具体的な数字が示されていない相手の意見を鵜呑みにしてしまうのは大変危険なことなのです」
コンドルセ侯爵は物事の数値を現す統計情報の重要性を何度も繰り返し説明していました。
数値化された情報は極めて分かりやすいのだそうです。
文字を読むよりも数字を見れば一目で分かる。
「百聞は一見に如かず」という東洋のことわざのように、聞くよりも数値化された統計情報を見た方が人々に分かりやすいということなのです。
確かに、以前にもオーギュスト様は仰っておりました。
人々に納得してもらうには文字や数字で伝えたほうが分かりやすいと。
伝言形式で伝えてしまうと、必ずどこかで間違った情報が入ってしまい、それで正確な情報が伝わらなくなってしまうと。
なので、数字や文字で情報を分かりやすく記して国民に伝える統計学の研究をコンドルセ侯爵を中心に行っているとのことです。
勉強をしているとあっという間に時間が過ぎてしまいますわ。
あれだけ嫌だった勉強がここまでできるようになるだなんて……。
自分でも不思議でなりませんわ。
ちょうど休憩のお時間がやってきましたので、ここで小休憩といたしょう。
「王太子妃様、そろそろ休憩になりますが、ここまでで分からないことはありましたか?」
「いえ、大丈夫ですわ。本当にコンドルセ侯爵の講義は為になりますわ」
「ありがとうございます。これも王太子殿下の賜物であります」
「オーギュスト様が?」
「はい、王太子殿下は統計学の研究に資金援助を行うことを約束してくれたのです。国家と国民が発展して行くうえで情報は必要不可欠。その代表的なものが統計情報だと仰っておりました」
まぁ、オーギュスト様ったら……。
常に一手先を見据えておりますわ。
これから発展していくであろう物に投資をしているのです。
まるで未来を見据えているような感じです。
手に取るように物事を把握し、それでいて抜かりが無いように対策をしています。
昨日の事件も、恐らくオーギュスト様が関与したのでしょう。
オルレアン公爵家の燃えた建物の焼け跡から禁制品が発見されて現在大問題になっている事件……。
一昨日国土管理局の職員が居室にやってきて伝えていた会話も、恐らくはこの事件に関連しているはずです。
王太子殿下は国土管理局が小トリアノン宮殿に出来て以来、居室では機密性の高い会話などはしないようにしております。
理由を尋ねると、ヴェルサイユ宮殿は広く防諜が難しいからだそうです。
この部屋も基本は広いですし、ドアもありますがどこにスパイが潜んでいるか分からないので、秘密性の高い会話は密室か小トリアノン宮殿の国土管理局のオフィスで話すことにしているのです。
「これからは数字と統計が大きく躍進していくでしょう。王太子殿下はその下準備を進めているとのことです」
コンドルセ侯爵はオーギュスト様を褒めておりました。
実行に移そうにもお金や人材が必要になってくるからです。
そうした面を国がサポートしてコンドルセ侯爵を中心に統計学並びに数値化された情報の研究に勤しんでいるとのことです。
ーコン、コン、コン
休憩をしているとドアが叩く音がしてきました。
誰か来たのでしょうか?
「アントワネットー、今勉強中かい?お菓子を作って持ってきたんだけど……食べるかい?」
「あら、オーギュスト様!!!ええ、ちょうど今は休憩中ですの!!!」
まぁ、オーギュスト様ですわ!!
ドアの前に待機している守衛がドアを開いて下さいました。
オーギュスト様は満面の笑みでお菓子を持ってきてくれました。
テーブルの上に黄金色の揚げたてのお菓子と暖かいホットティーを置いて下さいました。
「いや~ちょうど採れたてのジャガイモを一個丸ごとつかったおやつが出来上がったからね。みんなで食べようかなって思って作ってきたんだ」
「これは……ジャガイモを揚げたのですか?」
「そうだよ、名付けてフライドポテトチップスさ!コンドルセ侯爵、ランバル公妃も良かったらどうぞ!」
「これは王太子殿下、ありがとうございます、ではお言葉に甘えて頂きます!」
「いただきます!」
ジャガイモを薄切りにして揚げたお菓子のようですが……手に付けた途端に、ドンドンと口の中に入れてしまうほどのおいしさです!!
こんなに美味しいお菓子は初めてです!
パリパリとした食感に塩が揚げたジャガイモと絡み合って本当に美味しいです!
「とっても美味しいですわ!」
「でしょう?これジャガイモなんだけど万能食材だからね、スープに入れても美味しいし、揚げても美味しいんだ。これを数年以内にフランス全土へ普及できればいいかなって思っているよ」
「ええ、これなら成功しますよ!ところで王太子殿下……ジャガイモというのは、どこにでも栽培可能なのでしょうか?」
「はい、基本的には可能ですが同じ土地で何度も連作を繰り返しているとジャガイモの生育に影響が出て病気になりやすいので、イギリスで行われているノーフォーク農法を参考に休耕や輪作などを行えば被害が少ないとのことです」
コンドルセ侯爵の質問にオーギュスト様ははっきりとした口調で説明を行っておりました。
ジャガイモは現在プロイセン王国を中心に栽培が勧められており、冷害にも強い食材として注目を集めているそうです。
オーギュスト様はこれからフランス国内で大規模な冷害が発生して小麦が不作になっても、ジャガイモを栽培して生産できるようになれば飢饉を可能な限り減らせると仰っておりました。
それからは休憩を挟みながらオーギュスト様と一緒にコンドルセ侯爵の統計学について学ぶことになりました。
ポテトチップスの美味しい味が口の中に残っておりますが、それでもやはりオーギュスト様と一緒に勉強できるのが一番覚えやすいですし、何よりも楽しいですわ!
私はコンドルセ侯爵の講義が終わるまで、オーギュスト様の隣で統計学の講義を受けていたのでした。