49:震雷
その小説はフィクションです。
歴史上の人物が登場しますが、実在した人物とは異なる可能性もあります。
至らない点につきましては努力していく所存ですので初投稿です。
午前3時34分
それは真夜中に起こった。
― ドヴァァァァン!!!!
大きな爆音がパレ・ロワイヤルで鳴り響いた。
爆音と同時に大きな揺れが襲いかかる。
パレ・ロワイヤルの屋敷を大きく揺らし、屋敷内で千鳥足になっていた貴族達ですら驚いて飛び起きるほどであった。
祝酒と称してシャンパーニュの瓶5本を開けていたフィリップ2世も、突然の爆音に驚いてハッと目を覚ました。
といっても、彼の場合は机の上に置いてあったシャンパーニュが瓶ごと床に落下してしまい、無残にも粉砕した状態となった事を一番腹立たしく怒鳴りつけた。
「い、一体何事だぁ?!机の上に置いてあったシャンパーニュが床に落ちてしまったではないか!!!おい!!!どう言う事だ!!!!」
周りにいる貴族にも説明がつかない。
大きな爆音と揺れが起こったという事までしか分からない。
あまりにも突然の出来事に、貴族達は右往左往している。
「何が起こった?」
「分からない!!!突然爆音が……」
「お、おい見ろ!!!向かいの建物が燃えているぞ!!!」
貴族の一人が窓の外を見ながら指をさす。
その先には黒煙に包まれた建物が見えている。
フィリップ2世も窓際に近づいて確認すると、一気に彼の酔いは醒めたのだ。
「な、何という事だ!!!保管庫が燃えている!!!」
ワインや資料の保管庫としての役割を担っていた場所から大きな爆発が起こったのだ。
建物内から黒煙が空高く舞い上がっていく。
黒い煙は保管庫を包み込んでおり、一気に屋敷内が慌ただしくなっていく。
「馬鹿な……あそこは火の気がない場所だぞ……なぜ爆発が起こったんだ?」
「……フィリップ2世様!!!保管庫が爆発しました!!ここは危険です!すぐに避難しましょう!」
フィリップ2世の元に駆け寄ってきたのは警備主任であった。
警備主任はフィリップ2世に逃げるように伝えた。
突然何の前触れもなく爆発が起こったことで、警備主任を責め立てようとして怒鳴りつけた。
「愚か者!!早く炎を消すんだ!!!」
「し、しかし手持ちの消防道具では火を消すのに数時間を有します。ここは一先ず避難を優先してください!」
「く、くそぉぉおおお!!!」
フィリップ2世は不機嫌そうに床を蹴り飛ばして警備主任の避難誘導に従って屋敷の外に出た。
多くの貴族もフィリップ2世の後に続くようにフラフラとしながら屋敷の外に一人、また一人と出て行く。
黒い煙がモクモクと空に燃え上がる中、屋敷の外では
けたたましく鳴り響く鐘の音。
それは非常事態が起こった時に鳴り響くことになっている音でもある。
爆発の音と衝撃で周囲にいた市民たちがわらわらと集まり始めているが、さらに鐘の音によって大勢の市民が叩き起こされることになる。
「パレ・ロワイヤルで火事が起きたそうだ!!」
「すげぇ、ここからでも炎が見えるぞ」
「おい、火事の現場に行ってみようぜ」
叩き起こされた市民は火災が起こっている現場に野次馬として見に行きだした。
フィリップ2世やオルレアン公など屋敷にいた貴族は着の身着のままに屋敷を脱出した。
パレ・ロワイヤルの保管庫は2時間以上燃えた後に、朝の7時ごろになってようやく鎮火した。
燃え上がった保管庫だが、火災が建物全体を飲みこまなかっただけ幸いだろう。
しかし、すでに火元は消火されておりこれ以上火災の被害はまず起こらない。
野次馬たちもこれ以上派手な燃え方をしないので帰ろうとしており、普通であればここで爆発事故として処理されるはずであった。
「おい!!!これは一体どういうことだ!!!禁制品が沢山出てきたぞ!!!」
「なんだと?!」
鎮火した保管庫に突入した消防士がそう大声を張り上げた事で事態は一変した。
パリ消防中隊が屋敷内で消火活動をしている最中、保管庫の地下からわんさかとフランスが禁制品として指定しているイギリス製の商品が続々と見つかったのだ。
禁制品のものが次から次へと運び出されていく。
いくつかは煤けてしまっているが、それでもイギリスの国営企業が製造した商品なのは間違いない。
オルレアン公やフィリップ2世の顔がドンドン青くなっていく。
「馬鹿な……禁制品などあそこに入れた覚えはないぞ!!!」
「なっ……ち、父上あれをご覧ください……」
「あれは……なんだ?あれは……まさか金塊か?!」
「金塊が出てきたぞ!!!フランスではなく英国国立銀行の刻印が彫られた金塊だ!!!」
「イギリスから金を受け取っていたらしいぜ」
「おいおい、とんでもなくやばいじゃないか!!!」
その中には明らかにイギリス政府側からオルレアン家宛に贈られたと見られる金物まで出てきたのだ。
無論、これは国土管理局を中心に行われた工作によって意図的に行われているものである。
オーギュストを罠に陥れようとしていた彼らは、逆に本気を出した諜報機関によってまんまと嵌められたのである。
野次馬達は門の外でその光景を見ながら騒ぎ始めた。
「もしかしたらオルレアン公は国家転覆を企んでいたんじゃないか?」
「マジかよ!!!ってことは王太子様を打倒して親英派の新政権を樹立させようとしていたとか?」
「だとしたら金塊も説明がつくぞ!これはスクープだ!急いで新聞社に向かえ!オルレアン公の屋敷からご禁制品が出てきたって編集長に伝えろ!!」
もし、フィリップ2世が直ぐにこの場から脱出して、自分の領地に戻っていればまだ挽回の機会はごくわずかだが残されていただろう。
しかし彼の失脚工作を抜かりなく行った国土管理局は万全を期すように彼の動きを封じ込めた。
消防がパレ・ロワイヤルに到着すると同時に、国家憲兵隊もパレ・ロワイヤルにぞろぞろとやって来ていたからだ。
理由は貴族を狙った爆弾事件の可能性があるとして憲兵隊が駆けつけた事で、無下に追い払うわけにもいかなかったからだ。
憲兵隊はヴェルサイユ宮殿で行われている改革以来、事件の容疑者などに貴族や聖職者がいた場合、強制的に連行を行うことを可能にしているのだ。
権力を振りかざして任意同行を拒んだ場合は強制連行しても問題ないようにしたのだ。
そうした状況で国家憲兵隊を受け入れてしまったオルレアン公とフィリップ2世の運命は決した。
「オルレアン公爵閣下、そしてフィリップ2世殿、これらのご禁制品の品についてどういうことか説明を願います!!!」
「せ、説明だと?!私は何も知らん!!」
「そ、そうだ!!!俺たちは禁制品に対して何も知らん!これは陰謀だ!!!」
「ご禁制品を所持しているとなればいくら公爵閣下いえど擁護できませぬぞ!!!失礼ながら皆様方を一度拘束させていただきます!!!おい、ここにいる者全てを拘束せよ!!!」
憲兵隊は脱出を図らないように禁制品を隠し持っていたと思われるオルレアン公とフィリップ2世、そして取り巻き連中の貴族達を囲んだ。
周囲を囲まれた彼らは成すすべなく国家憲兵隊によってその場で拘束されたのであった。
その様子は一般市民の目の前で起こり、まさにフランス史における大事件となった瞬間であった。