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42:ネギトロ丼一杯500円で腹いっぱい食べたい気分

「では、貴方は改革には反対の立場を取るという事ですか?」

「これはあくまでも改革に対して個人的な感想を述べているだけです。しかしながら父や私はこの改革案に強い懸念を抱いているのは確かです」


フィリップ2世は明確に反対とは言わなかった。

しかし口調やその内容からして改革に反発しているのは俺でも分かる。

なぜ反発するのか?

それは安価でこき使うことが出来た農奴をこれからは政府が決めた賃金を支払わないといけない事になったからだ。


既に俺が所有しているベリー州では農奴の最低賃金を上昇させて、農奴を農園労働者として働かせているんだ。先行的な社会実験も兼ねて行われている。

事実上農奴制を廃止しているのだが、農業を長年にわたってやってきた彼らの大半は同じ地に留まって農園で働きたいと申し出たのだ。

そこで、彼らを農奴ではなく労働者として働かせて給料も見合った額を支給するように命じているんだ。


彼らを管理している各農園代表者にはキチンと雇っている人数や作業時間を報告し、元農奴に対するパワーハラスメントやピンハネなどをしていないか調査している。

調査は国土管理局の管轄下で行われており、ベリー州の州都ブールジュの廃れた酒場を改装した場所に労働基準監督署を設置してある。

違反管理者は取り締まらないとね。


まだこの試験制度が開始されたばかりだが、これで元農奴の労働意欲向上に繋がるだろう。

何もしないよりはよっぽどマシだ。

労働者階級を抑制したり弾圧をすれば、それだけ人数の多い彼らを鎮圧するのは難しくなる。

今までの環境があまりにも劣悪だし、環境を王太子主導で改善すればそれだけ労働者階級からの支持も得られるというわけだ。


だが、フィリップ2世は面白くなさそうに改革案に対する意見を俺の前で言い続けた。


「しかし……王太子殿下、貴族の大半はこの改革案を良しと思っている者は少ないですぞ。それを理解しておられるのですか?やたら平民やそれ以下の者たちを助けようなどと……いくらこれからの経済状況改善の為であるとはいえ、これは失敗するやもしれませんぞ?」

「失敗ですか?」

「そうです。大規模荘園を持っている者達は農奴達に飯と畑を与えるだけで良かったのです。改革案が公布されたことで飯と畑以外にも金まで要求するようになってくるでしょう。金が払えなくなれば間違いなく荘園は破産しますぞ」

「そうですか。しかし荘園が破産するという事はそれだけ経営能力が無かったというだけでは?」

「経営能力が無い……?いやいや王太子殿下、それだけ多くの荘園が破産すれば荘園を有している貴族や聖職者が路頭に迷うことになりますぞ!!!それをご理解しておられるのですか!」

「ええ、理解していますとも。だから農奴解放を公布したのですから」

「!?」


フィリップ2世は驚いた顔で俺を見ている。

農奴を解放して荘園経営が上手くいかなくなるようであれば、それだけ経営能力が無い無能がやっているという証だ。

そうした破産した荘園は国が安く買い取って国有地化すればいい。


それで国営企業の元で多種多様な野菜やフルーツの栽培、もしくは余った土地で工場の建設などを行うことにすればいい。

ふんぞり返って貴族や聖職者の身分に甘んじて全国三部会で改革案を妨害しまくるような無能な上級階級者は必要ない。


これからのフランス王国には進歩的、もしくは開明的な人間が必要になってくる。

その為に優秀な人材や知識階級者をスカウトしたりしているのだから。

現在進行形でそうした人々は俺の行っている改革案をサポートしてくれている。

人々を想う気持ちが大切なんだよね。


それに、農奴解放政策にはちゃんと期限を設けている上に保障負担とかも国がやるって説明している筈だけどなぁ……。

俺が色々やるのが不服なのかもしれない。

じゃなきゃこんなこと言わないよね。


歴史的事実を基に言わせてもらえば、フィリップ2世はかなり浪費家だし去年に結婚したばかりの妻がいるにも拘わらず、既に愛人などに現を抜かすような人格に問題ありな輩だ。

これでも国王の地位を狙って革命を扇動するようなクズだから余計に質が悪い。

厄介な上級階級者と言えばいいだろうか。

とにかく、こいつにいくら丁寧な説明をしても無駄だろう。

俺はこの改革に無意味な非難ばかりしているフィリップ2世との会議を打ち切る決断をした。


「これ以上話しても平行線を辿ってしまうようですし、一先ず会議はこれまでにしておきましょう。オルレアン公にはよろしく言っておいてください」

「わかりました。王太子殿下も貴重なお時間を頂きましてありがとうございました」

「いえいえ、それでは気を付けてお帰りください。この時期は暑いですからね」


俺は不満顔のフィリップ2世をヴェルサイユ宮殿の手前まで見送ってやった。

本当なら閣議室でドアを指さして「帰って、どうぞ」と言いたかったが、さすがに自重して営業スマイルで乗り切った。

フィリップ2世も言っていたが、少なからず貴族や聖職者など身分階級の中でも上位の者達から不満が出ているのは確かだろう。


(これからが正念場だな……あのフィリップ2世もそうだけど、他の貴族や聖職者からの妨害や嫌がらせ行為とかにも気を付けないと……)


まだ国王になったわけではないが、それでも年齢的にいえばまだまだ若い。

16歳の王太子から改革案を提示されて「わかりました」と従う貴族や聖職者は少ないと思う。

でもこの改革案を実行しなければフランス王国は史実同様に革命が起こるだろうし、いずれにしても王太子である俺が主導的に行えば、失敗しない限りは民衆は支持してくれるはずだ。


逆を言ってしまえば中途半端に実行するのが一番危険だ。

貴族や聖職者の圧力に屈して出来ませんでした、ビクンビクンと感じてしまえばその時点で能力無し、圧力に屈するヘタレの烙印を押されてしまう。


(諜報機関だけで足りない場合はスイス傭兵部隊や開明派の軍人を仲間に入れておこうかな)


軍事面のリソースの割り振りもしっかり決めないとね。

ここまで改革は予定通りに進んではいるが、まだまだ財政面でも不安が残っているのも事実だ。

これからの事も考えて、フランス国内の防諜活動を本格的にやろうと思う。

それからオルレアン公を失脚させるために謀略も視野に動き出そうとしていたのであった。

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