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36:明日に向かって

フォークとナイフを使って鶏肉に切れ目を入れてから食すことにした。

蒸していることもあってかだいぶ中身が柔らかいが、それでもナイフがないと切れにくい。

フォークを直に鶏肉にぶっさすのは行儀が悪いので流石にやらない。

白色のあっさりとした鶏肉にヴィネグレットソースを付けて食べてみる。

すると、鶏肉に酸味と油がマッチしてかなり美味い!


「うぉっ!!!鶏肉の旨味を引き出しているね!!!」

「ええ、あっさりとした味付けで美味しいですわ!」


鶏肉の繊維にそってゆっくりと切り込みを入れ続ける。

その作業をしているだけでもアントワネットと一緒なら楽しい。

ナイフとフォークを使ってヴィネグレットソースで味付けした蒸した鶏肉はかなり美味いな。

現代のコンビニとかで良く販売されていたサラダチキンってあるじゃん?

あれにドレッシングをかけて食べているような感じだ。


この大空の下で食べる鶏肉は最高に旨い。

転生前は日本人だったこともあってかどうしても白米が欲しくなる。

この鶏肉ならご飯茶碗一杯分は余裕でペロリと食べてしまうだろう。

なにせフランスでは麦から出来たパンを中心とした西洋食だけしかないので日本食がどことなく恋しくなる。


蕎麦にうどん……冷麦にラーメン……うう、思い出したらそれも食べたくなるじゃないか!

しかも麺類ばっかりだし……。

麺類はこの際排除せよ……いや待て、一応パスタならイタリアにあるから料理係に出そうと思えば……出してもらえると思う。

しばらくはパスタで妥協だな!


鶏肉を半分ほど食べ終わったところで野菜たちを胃袋の中にぶち込む時が来た。

本来なら野菜を先に食べておくと血糖値や尿酸値が高くなるのを抑えられるとかいうけど、こういった日は好きな食べ物から無性に食べたくなるものだ。

採れたてのキュウリとトマトはみずみずしい。

身もしっかりしているし、ヴィネグレットソースに合う。


「それじゃあ……この野菜を頂くか……!」


俺はまずトマトを口の中に入れた。

切れ目からトマトの味が染み渡ってくる。

そしてソースの程よい酸味が野菜をさらにグレードアップさせていた。

キュウリも同様だ。


「おお、夏野菜だけにシャキシャキしていて美味しいね!」

「はい!程よい酸味で美味しいですわ!」


口の中で噛んでいくと同時に酸味とみずみずしさが相まってシャキシャキと音を鳴らしている。

これは美味いな!

一品料理ではあるがその分夏バテ防止にはいいかもしれない。

そしてだ……思っていたよりもトウモロコシは甘味が控えめであるような感じがする。


アントワネットもちゃんと野菜を食べているから大丈夫そうだ。

野菜が苦手だったらしいと言われてはいたけど、むしろレアな焼き加減で焼いた肉類が苦手らしい。

小さいころに食事で出されたウサギ肉の焼き加減がいささか血塗れに近い状態で出されたことがトラウマになっているとの事だ。


でもちゃんと食べているのは偉いと思う。

野菜だけしか食べない人たちも世の中にはいるが、筋肉などの組織細胞は肉類や魚などのタンパク質が豊富な食事を取らないと貧血などの体調不良を起こしやすいとされている。

野菜と肉はバランス良く食べることが重要だ。


ふと、ここで野菜を食べていると一つ違和感が生じてしまう。


(あれ?このトウモロコシ……思っていたよりも味が薄くないか?)


もしかしたら品種改良がそこまで進んでいないので、現代のトウモロコシと比べて旨味が少ないように感じてしまった。

まぁ、それを言ったらこの時代のスイカも同様で実が少なめで皮が厚く、おまけに種が渦巻き状になっている。


そう考えれば品種改良をしなければ旨味が引き出せないのか……。

品種改良も科学技術の発達で急速に進化してきた歴史があるわけだし……。

なのでこうしたトウモロコシの味を現代に近づけるのはやはり科学力を上げないとダメだね。

俺は生物学とかは専門外だけど、この時代にもそうした植物などを学んでいる学者はいるので、彼らに研究費を上げて味の向上や冷害や害虫に強い品種を出せるようにお願いしようかな。


「ごちそうさまでした、それじゃあ食後のショコラを味わうとしよう」

「ええ!」


傍からみれば平凡な王室の食事に見えるかもしれない。

俺にとってもアントワネットとの何気ない日常だが、こうした平凡な日常を送れる事、そのものが幸せなのだ。


「こうしたひと時を大切にしたいね……」

「そうですね……オーギュスト様ならフランスの改革を行うことがきっと出来ますわ!私も全力でお手伝い致します!」

「ありがとうアントワネット、それじゃあ……これからもよろしくね!」

「はい!一緒に頑張りましょう!!」


これから改革によってさらに忙しくなるだろうし、何よりも大貴族や聖職者達の反発が起こるかもしれない。

こうした優雅な時間を過ごせる事が出来ないかもしれない。

アントワネットの笑顔を守りたい。

だから俺はアントワネットと一緒にいられるように、そして幸せにするために全力で改革に取り組んでいこう。


それにしてもこのショコラの苦みと砂糖とミルクの甘味がリミックスしていてスゴイ味になっているぞ。

めちゃくちゃチョコ本来の苦みをミルクで薄めて味わいながら、俺はショコラを飲み干してアントワネットと食後のささやかなひと時を過ごすのであった。

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