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26:国王不予

アントワネットが休んでいる部屋の前にいた守衛にドアを開けるように命じた。

守衛も先程の騒ぎを聞きつけていたらしく、すぐにドアを開いてくれた。

休んでいるアントワネットには申し訳ないが一緒に来てもらう。

一人にしておいて刺客にでも襲われたりでもしたらもっとヤバイからな。


「アントワネット!!!休んでいる所すまない!!!一緒に来てくれ!!!」

「……オーギュスト様!!!どうかなさいましたか?!」

「アデライード達が暴発した。さっき襲われたんだ!ここにいては危険だから直ぐに一緒に来てくれ!!!」

「!!!!……ただ今すぐに!!!」


アントワネットは横になっていたベッドから飛び起きてくれた。

そりゃ暗殺されそうになったから急いで来いと言われたら誰だって来るだろう。

パジャマのままでは色々とアレなので、隣で待機していた侍女さんから羽織ものを掛けてから国王陛下の寝室に急いで守衛を引き連れて向かう。

その数ざっと10名前後だ。


俺の周囲を取り囲むように護衛してくれているのは有り難い。

国王陛下の寝室まで約70メートル前後だろうか……。

嫌に廊下が長く感じる。

そこまで大きくないはずなんだよなヴェルサイユ宮殿って。

大体王室が過ごしていたり、行事などを行っている主家は日本の公立小学校程度の大きさだ。

全力ダッシュで行けば30秒ぐらいで往復可能だ。


畜生、アデライードめ!

本当にシャレにならないことをしやがって!!!

いくら俺や国王陛下が憎くてもやっちゃいけないラインを考えろ!!!

国王陛下が本気殺害ガチコロでもされたら国内情勢がより一層不安定化してしまうわ!!!

あぁ~もう最悪だ。


「きゃあああああああ!!!!」

「国王陛下!!!国王陛下!!!」


国王陛下の寝室に向かっていると聞きたくない悲鳴が聞こえてきた。

声の主は誰だろうか……。

でも最悪な事になっているのは間違いないようだ。

走って国王陛下の寝室に付いた時、既に寝室前には人だかりができていた。


「そこを通してくれ!!!」

「王太子殿下!!!」

「国王陛下は無事か?!」

「アデライード様が……アデライード様が……」


使用人が恐る恐る震えた様子で寝室を指さした。

その先で女が取り押さえられていた。

既に守衛に取り押さえられているのは、髪の毛を乱雑にしていたアデライードだ。

悲鳴のように何かを叫んでいる。


「この女がああああああああ!!!!!!父上をおおおおおおおおおお!!!!!!ぎゃあああああああああああああ!!!!!」

「アデライード様!!!誰か!!!医者を!!!主治医を直ぐに呼んで来い!!!!」

「アデライード様がご乱心なされた!!!!誰か、足を抑えてくれ!!!!」

「いぎやあああああああああ!!!!離せえええええええ!!!!離せえええええええ!!!!あいつを殺せえええええええ!!!!」


アデライードの両目は真っ赤に充血しており、もはや精神錯乱状態だ。

とてもじゃないがまともじゃない。

狂気に憑りつかれている。

その様子を見たアントワネットが震えている。

俺もこの身体に転生してから一番最悪の事態が引き起こされた事を認識して膝が震えで止まらない。


「お、お、オーギュスト様……」

「アントワネット、怖いのは俺も一緒さ……でも君はここにいてくれ、この部屋の中では想像を絶する程の狂気で満たされている……俺が中の様子を見てくる……絶対に中に入ってはいけないよ……侍女さん、アントワネットを頼みます」

「は、はい……王太子殿下……」


震えているアントワネットを一回抱きしめてから侍女さんに彼女を預ける。

一歩、また一歩国王陛下の寝室に足を踏み入れた。

王の寝室……。

部屋に踏み入れた途端に、ここは想像を絶する地獄であった事を再認識した。


寝室としては寝ることすらできないような黄金などで装飾が施された部屋が血に染まっていた。

唐紅……。

ルイ15世が愛妾デュ・バリー夫人と夜の営みを繰り返し行っていたカーテンとベッドは所々刃物で切り付けられた痕が残っている。

そして血が沢山噴き出すように付着していた。


「おぉ……オーギュストか……こちらに来てくれ……」

「こ、国王陛下………!」


呼吸を苦しそうに俺に声を掛けたしているのはルイ15世だった。

彼の脇腹には刃物で切りつけられて出血していた。

守衛によってタオルで応急手当として圧迫止血が施されている真っ最中であった。

丁度ご同衾をしている最中だったこともあってか、彼の服装はパンツ以外何も身につけていない状態だ。

服を着ていればもう少し怪我を抑えられたのかもしれない。


「お前は……無事か?」

「はい、先程叔母上の取り巻きの一人に襲撃こそされましたが……何とか取り押さえました……」

「良かった……お前までやられてしまっては元も子もないからな……無事で良かった……」

「……デュ・バリー夫人は……?」

「……余を守って……そこにおる」


デュ・バリー夫人は床に横たわっていた。

服を身につけていない彼女の上に覆いかぶさるようにタオルが掛けられているが、そこから多くの刺傷があるのだろう、大量に血が流れていた。

乱心したアデライードから国王陛下を守る為に、愛妾としてその身と引き換えに使命を全うしたのだ。

懸命に守衛が手当をしているが、流れ出る血の量からして恐らく助からないだろう。


「余は全くの愚か者よ……政治や経済すら上手く回せない者として統治しなければならなかったからな……それでいて実の娘に刺されるとはな、愚か者以外の何者でもない」

「国王陛下……」

「オーギュスト、余はお前に大命を任せる」

「大命?」


このタイミングで大命を受けるのはどう見てもアカンやつだ。

もしかしたらルイ15世は自分が助からないと思っているのかもしれない。


「余は負傷した。そして傷も決して浅くはない……余は傷を受けてその傷が元で国王の任を続けることが難しい……よって、一時的にお前が国王代理として国の任を任せる」

「なっ……?!」


……まじかよ。

このタイミングでするのか?!

デュ・バリー夫人は心臓が停止しており、ルイ15世もかなりの重傷だ。

仮に助かったとしても後遺症が残るかもしれない。


……いや、待て待て待て!!!

今1770年だぞ?!

まだ俺の年齢は15歳だ!!!

史実だと1774年に天然痘で死去したルイ15世の代わりに即位したけど、その時は19歳だったはず。

つまり4年ほど早い世代交代というわけか!


……。

……本当に冗談はよしてくれ(懇願)

将来に向けてT機関の設立準備とかはしていたけどさ、まだ完全に国王としての下地は出来上がっていないんだぞ!

中途経過の報告こそ受け取っていたけど工程の半分がようやく終わった感じだ。

つまりあれか、国王代理とはいえ口調からして「一時的とはいえ、もしかしたら死ぬかもしれないから国王として仕事任せるわ!」ってことじゃないですかやだー!!


でも、このまま立ち止まっているわけにもいかない。

ここで何もできずに、あたふたしていたら王室としての品性を疑うとか言われそうだ。

国王代理とはいえ、一時的に国王としての権限を扱えるならその間にやるべきことをすればいい。

えぇい!!!やるだけやってやるさ!!!


「分かりました……まだ政治に関しては未熟者ではありますが、国王陛下の任に従い精一杯務めさせて参ります」

「……うむ!……頼んだぞ……」


俺は謹んでルイ15世の国王代理として任に就くことを承諾したのであった。

でも本当の事を言えば、内心泣きそうだった。

政界・財界の問題が山積みの状態でやらなければならないからね……。

そう簡単に物事が上手く行くはずないか……。

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