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22:バカは風邪を引かないという言葉は迷信だったぜ

☆ ☆ ☆


西暦1770年6月30日


今日は一日中自室で休みだ。

というか身体を安静にしていないといけない。

主治医から絶対安静にするように言われてしまったんだ。

というのも、この俺が風邪をひいてしまったんだ。

バカは風邪を引かないという言葉があるが、どうやらここ最近無茶をしすぎてしまったようだ。


夜遅くまで蝋燭を灯して書類を作成……。

T機関創設の為の草案原文作成……。

アントワネットと一緒に勉強会を開催……。

使用人や守衛の処遇、業務改善書類の作成等々……。

割と内政に着手している時に限ってコレだ。


今朝になって身体の調子が怠いな~と思い、おでこを触ったら思った以上に熱があったのだ。

喉も少しばかり腫れていたので完全に風邪を引いてしまったらしい。

丁度この時期は季節の変わり目だ。

春から夏に変わる時期でもあるので、体調が崩れてしまったのだろう。

主治医からムラサキバレンギクなどを調合した西洋薬草をこしらえたものを渡されて一気飲みした。

一応は医薬品として現代でも使用されている薬草なので大丈夫だろう。


それよりも周囲の人達からかなり心配された。

随行員の人達から「王太子様、どうかお体ご自愛下さい」と言われたし。

それにさっきルイ15世とデュ・バリー夫人がやってきて体調は大丈夫かと駆けつけてくれた時にはさすがの俺でもたまげた。

まさかここまで騒ぎが大きくなってしまっているとは思ってもみなかったからだ。


「オーギュスト、お前はよく頑張ってくれている。仕事もかなり頑張っているのは余も見ておるぞ。だが決して無茶はするでない。無茶をして身体を壊してしまっては元も子もない」

「おっしゃる通りです国王陛下」

「オーギュスト様、アントワネット様も心配しておりましたよ。今日は一日安静になさってください」

「ありがとうございますデュ・バリー夫人」


ルイ15世はともかくデュ・バリー夫人までやってくるのは想定外だったよ。

なんでも前回の舞踏会の時にちゃんと挨拶をした事で印象を良くしたようだ。

その後に起こった叔母たちの騒動も見ていたので、その事を国王陛下に報告したらしい。

国王陛下はその騒動を知ると、すぐに叔母たちを呼び出して激怒したそうだ。

そりゃそうだよね。

楽しく主催するはずの舞踏会の雰囲気を台無しにするような行為をされたら誰だって怒りたくなるよ。


一方でアントワネットもかなり心配していた。

重病になったらどうしようかと悩んでいたらしい。

心配かけて申し訳ない。

そして仕事を抱え込みすぎだと怒られてしまった。


「オーギュスト様は仕事の案件を一人で抱え込み過ぎです!最低でも今日はお医者様に言われた通りゆっくり休みましょう!」

「おっしゃる通りです、ハイ」


最近夜遅くまで働きすぎだと言って注意していたが、転生前には徹夜作業とかザラにあった。

書類とノートパソコンと会社のディスクはお友達だったもんな。

社畜生活へようこそ!状態だったからなぁ……。

何よりも自分で企画とか練るのが凄く楽しいんだ。

……だめだ、社畜の時の感覚が抜けていねぇ……。


ただ、そういうのには慣れっこの筈だったんだ。

俺の体調管理が甘かったんだろう。

そうした無理が今になってやってきたのかもしれない。

現代だったら内科に行って抗生剤を貰えばいい話だけど、ここではそうはいかない。

ある意味警告かもしれないな。


「あー……風邪舐めてたわ……」


割と近世で風邪を引くのはヤバイんだ。

なんたって抗生剤なんてものがないから基本的に初歩的な応急処置と民間療法レベルの治療法に頼るしかない。

その為風邪を引いたまま重症化してしまい、結核や肺炎……下手をすれば天然痘ウイルスに感染することもある。

なので気を付けていかないと下手したら死ぬ。

風邪には気を付けよう!!!(揶揄や誇張ではなくマジで)


「うぃ~っ、しばらくはアントワネットと一緒に寝れないのが残念だ……」


そう、アントワネットと一緒に寝るのは禁止となった。

理由はもちろん風邪をうつさないようにする為だ。

風邪の感染拡大は非常に厄介だ。

なので主治医や専属のスタッフが駆けつけて料理や水などを部屋に運んで来てくれるのだ。


「お待たせしました……卵スープでございます」

「おお、美味しそうだね」

「はっ、オーギュスト様のリクエストの品ですが……こちらでよろしいでしょうか?」

「うん、ありがとう」


何よりも今は力を付けないといけない。

そこで俺は卵スープを作ってもらうようにお願いしたのだ。

卵なら栄養値も高いし、何より日本には卵酒というものがある。

一応ヨーロッパにもそれに類似した飲み物は存在しているが、生憎英国の飲み物だ。

それにブランデーやウィスキーを割って飲む代物なので、ワイン原産国であるフランスでは流石に邪道飲みになってしまう。


というわけで妥協点として卵スープで温めて飲むことにしたのだ。

一応これである程度は身体の内側から温まるだろう。

ホッと一息しながら卵スープを飲んでいると、外では雨が降り出してきた。

どうやら今日は一雨きそうだ……。

そういう日に限って、何かとヤバイ……ハプニングイベントが起こりそうなもんだ。

窓の外で降りしきる雨を見つめながら卵スープをゆっくりとちまちましながら飲んでいたのであった。

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