20:HEAT弾
昨日のメンテナンス作業の最中のアクセス数が30程度だったのがショックだったので初投稿です
やはりクラシック音楽で踊るのもいいね。
この時代はスマートフォンなんてものはないし、レコードなんてあと80年以上待たなければ誕生しないものだ。
演奏者も中々の腕だ。
この舞踏会を盛り上げるためだけに雇われているらしい。
後でチップでも渡したほうがいいかな?
「オーギュスト様、とってもダンスが上手ですわ!どこでダンスを習っていたのですか?」
「うーん、そうだね……それは秘密だ」
「あら、オーギュスト様の秘密……気になりますよ!」
「世の中には秘密でいたほうがいい事もあるのさ……」
社交ダンスといっても、この時代はそこまで抱擁するようなダンスではなかった。
どっちかといえば手を取り合ったとしても、くるくる踊る感じだ。
現代のダンスに比べたら機動力に欠けているのかもしれない。
それでもダンスをするのは楽しい。
かつて日本で一世を風靡したダンス映画に習って、大体こんな感じだったかなぁ~と思い出しながらダンスをしているのだ。
ワルツとかマイムマイムはどうも田舎くさいとか身体密着しすぎて破廉恥だという偏見が根深いので、貴族などはそうした踊りは控えていたようだ。
うーん、ワルツを好んだヴィクトリア女王の時代まで待たねば。
なので見よう見まねでアントワネットと一緒にダンスをしたというわけ。
ぶっつけ本番でも何とかなったぜ……。
その踊り方がウケて、演奏が一旦終わってダンスを止めると周りから拍手喝采であった。
「王太子様!!!素晴らしい踊りでしたぞ!!!」
「王太子妃様も、美しい踊りですわ!」
おお、大絶賛だな。
奥の方でデュ・バリー夫人とかも拍手しているぐらいだ。
やはり舞踏会に参加して良かったわ。
アントワネットは嬉しそうにしているので、ここに来て良かったなぁとつくづく実感している。
すると、どこからともなく嫌な声が近付いてきた。
「素晴らしい踊りでしたわアントワネット様!!」
「ええ、とっても素敵な踊りですわ!!」
「是非ともお話を致しましょう!!!」
(ゲェ!!!叔母上方!!!)
んで拍手している群衆を押しのけてアデライードら叔母たちが突撃してきた。
それも凄いやばそうな笑顔で。
あっ、ワイン持っていた人の肩にあたってワイン落としちゃったじゃないか。
……んでもって叔母たちは謝らないし……最悪じゃねーか!!!
ズカズカと取り巻きの女性陣と一緒にやって来た叔母たちがアントワネットを取り囲もうとしていたので、俺が咄嗟にアントワネットの前に出た。
やべぇ、宗教勧誘している奴よりも厄介な人が来てしまった……。
嫁を守らねば(使命)
俺は咄嗟にアントワネットの前でに出て叔母たちへの妨害を開始した。
「これはこれは叔母上方!!叔母上方も舞踏会にいらしていたのですね!」
「あら、オーギュスト……貴方の踊りも中々良かったわよ」
「そりゃどうも」
「オーギュスト!!!姉上に失礼ですわよ!!!」
「ほう、ではあちらの人にぶつかってワインを落としても謝らなかった叔母たちのほうが失礼では?」
「な、なんですって?!」
おっ、アデライードよりもヴィクトワールのほうが怒ってきたな。
まぁアデライードは妹たちを指揮している隊長であって、いじめとかの実行役としてはヴィクトワールが中心だったみたいだしな。
汚い、さすがオーストリア大使から「こいつの言っている事はアントワネット様にとって全て最悪だ」と言われただけの事はある。
アントワネットとの会話を遮断されたことでだいぶイラついているようだ。
「いいですかオーギュスト、確かに踊りは最高でしたわ。ですが、あのデュ・バリー夫人に挨拶をするなんて……見ているこっちが恥ずかしいですわ!!!」
「デュ・バリー夫人は国王陛下に最も信頼されている方です。その方に挨拶をすることの何が問題ですか?」
「オーギュスト!貴方はあのような人と関わってはいけません!!!あの人は国王陛下をたぶらかしているのですよ!!!」
ヴィクトワールが甲高い声でヒステリック気味に叫んでいる。
おうおうおう、せっかく持ち直した空気がもっと冷え込んだじゃないか。
ここはアルプス山脈か?
ブリザード吹いてましてよ?
そのぐらいに空気が一気に冷え込んで辺りは静まりかえっている。
よし、向こうの言いたいことはこのぐらいだろうか。
やられたらやり返す、数倍返しでナ!!!
俺はすぅーっと息を吸い込むと正論を持って反撃を開始した。
「問題とおっしゃいますが……叔母上方のほうが舞踏会においてあってはならない問題を犯しておりますぞ。ここは社交の場です、政敵であったとしても表面上はにこやかに過ごすべき場所なのです。対立を助長させたり場の空気を乱すような行いをするべきではないのですよ」
「オーギュスト!!!」
「私の申し上げている事は事実でしょう。それに、叔母上たちが騒ぎを起こしてこの目出度い舞踏会が中止になったら誰が責任を取るのですか?それが国王陛下に知られたらどうなるかはお分かりのはずです」
舞踏会っていうのは色んな人達が来るから、その人達を持て成したり楽しませるのが主体な訳ですよ。
ダンスをするのもその中の一つだしね。
そうした交流の場を、勢力争いとかで大々的にやるのは良くないと思うの。
それに国王陛下から「雑巾」扱いされている原因というのも、こうした叔母たちの行為に原因があるんじゃないかな。
それじゃあそろそろトドメの一撃をお見舞いしてあげよっかな。
「では、どうですかな?ここは一つ国王陛下にご参加頂いてどちらが問題であるか聞きに伺いましょうか?」
水戸黄門の紋所じゃないけど国王陛下の名前を出したら一撃で静まり返ったわ。
その言葉がトドメになったのだろう。
叔母たちは蜘蛛の子を散らすように早々に退散していった。
「……っく、皆さん!!!行きますわよ!!!」
「は、はい!!」
「アデライード様!!!」
取り巻きの女性たちもそそくさと逃げて行った。
ああいう女性たちも一度派閥に入ったら抜け出せないよなぁ……。
ちょっとかわいそうだなと横目で見ているとアントワネットが心配そうな声で俺に尋ねた。
「オーギュスト様、その……よろしかったでしょうか?」
「ああ、あれは叔母たちに責任があるのさ。場を乱す行為は舞踏会ではあってはならない行為だ。叔母たちには少しばかり反省する機会を与えたのさ」
「……叔母様方は反省すると思いますでしょうか?」
「……無理だな、骨の髄まで我儘が染みついているからね。ああいう人ほど周囲からドンドン孤立していくんだ。アントワネット、あのような人になってはいけないよ」
「はい……あの、オーギュスト様……手が、震えておりますわ……」
アントワネットに指摘されて初めて気が付いた。
俺の手が震えていたのだ。
恐怖ではなく怒りで……。
ぶるぶると震えている。
アデライードの悪行は転生前に聞いてはいたが、ここまで酷いとは思わなかった。
思わず殴りたくなったぜ、拳で!!!
フランス革命が舞台の漫画よりも酷いな。
いじめ、カッコ悪いぞ。
デュ・バリー夫人はまだ愛嬌もあるし節度を弁えている分、人としてマシだが叔母たちはどうしようもないぐらいにダメだ。
人間のクズ……!
そんな言葉がピッタリの人柄だ。
侍女さんたちにもアデライードに気を付けるように注意しておかないと。
「皆様大変お騒がせしてすみませんでした。では引き続き舞踏会を楽しみましょう!」
「え、ええ……!」
「そうしましょう!」
叔母たちのせいで鏡の間の空気が暖かくなるのに数分を有したが、俺がおもっきし舞踏会を楽しもうと言うと、周りの人たちは同調してくれた。
そんでもってやっと国王陛下がご到着した。
どうも昼間食べ過ぎてお腹を下していたらしい。
そのお陰でトラブルの場面を国王陛下に見られずに済んだのはラッキーだったぜ。
その後は大きなトラブルもなく午後11時に終わったのであった。