1:俺の名はルイ・オーギュスト…次期国王さ!
フランス革命あたりを取り扱った歴史小説があまりないので初投稿です。
よろしければ高評価、感想などをお待ちしております。
★ ☆ ★
目が覚めると俺は豪華絢爛な宮殿の通路を知らず知らずのうちに無意識のうちに歩いていた。
ボーっとしてきた意識が次第に晴れてくる。
この宮殿の通路には見覚えがあった。
何度もゲームの画面で登場してきた場所だ、忘れるものか。
「ここって……ヴェルサイユ宮殿じゃないのか?」
ヴェルサイユ宮殿……。
フランスが最も輝いていた時代に活躍した太陽王こと「ルイ14世」が建造した世界遺産の一つだ。
滅茶苦茶豪華な宮殿だ。
そりゃもうスゴイ。
特に建物よりも庭園に力を注いで作られた。
フランスの圧倒的な力を諸外国に見せつけるためでもある。
なお、無駄に作っちまった結果戦費が足りなくなったというエピソードもあるぐらいに金を掛けた模様。
フランスの底力を感じさせる建造物。
そんなヴェルサイユ宮殿に俺はいる。
おいおいおい、俺は夢でも見ているのか?
夢にしては随分とリアリティに溢れているな。
窓ガラスに浮かんでくる景色とかが物凄くリアルだぜ。
そこでしばらくボーっとしていると、後ろから声を掛けられた。
「
「えっ、王太子殿下?」
「はい、貴方様ですよ王太子殿下」
俺に声を掛けてきたのは近世ヨーロッパまで流行、というか貴族を中心に身に着けることが多かったカツラを着用していた人物であった。
いやいや、どんな見間違いじゃい!
三十代のサラリーマンが王太子殿下の訳があるかいな!
「王太子殿下……俺が?」
「ええ、ルイ・オーギュスト王太子殿下でありますよ!お身体の具合がよろしくないのですか?」
……ルイ・オーギュスト
ドンなファン?かと思ったが、どうやら今現在呼び名は王太子という意味合いのようだ。
つまり次期国王候補になる人物に授けられる称号ですって。
個人的にはカリブ海に浮かぶ
なんか通路を行き交う人も一昔前に貴族が身に着けていた髪の毛がくるんくるんしているような中世か近世ヨーロッパ風のヘンテコな格好しているし、何より自分の身に着けている服装からしてそれなりに偉い人なんじゃないかなと思ったよ?
おお、夢の中で偉い人間になるのって気分いいよな。
でも国王陛下の名前を聞いて俺は愕然としてしまったよ。
「もうじき国王陛下とご一緒に昼食のお時間になりますよ。そろそろ移動しましょう」
「えっと、聞きたいことがあるんだけど……今の国王陛下の名前は?それと俺の父君の名前は?」
「……ルイ15世陛下であられますよ?父君はルイ・フェルディナン様です。父君は5年前にお亡くなりになられました……あの、王太子殿下?本当に大丈夫ですか?かなり顔色が優れないようですが……」
祖父がルイ15世であり、自分はその孫であると……。
夢にしてはリアリティがあり過ぎるし、おまけに匂いとか感覚まで付いてくるもんだっけ?
身体から血の気が引いてくるのが分かる。
まさかとは思うが……これ転生しちゃったんじゃね?
おいおいおい、何でよりもよってルイ16世に転生したんだよ!
誰得やねん、そんなネタで小説書いても誰も読まないぞ。
「ははは、これは夢だ……あり得ん、あり得ん……お、俺はもう一回寝るぞ、そうだ……これはきっと夢だ、すさまじくリアリティ溢れる夢だ……そうだ、そうに違いない。朝起きたら俺はトーストを焼いてHOBFの続きをするんだ……」
「お、王太子殿下……?」
「うん、ちょっと待って、俺……体調悪いから一旦寝るわ……あぅ、やべぇ……意識が……」
転生直後、付き添いの随行員がすごく心配そうな顔をして俺の事を見ていた。
俺はルイ16世が国民のために全力を尽くしたが報われず、ギロチン処刑されるというお先真っ暗な人生になっている現状を憂えて、ドンドンと意識がフェードアウトしていく。
「誰か!王太子殿下が意識を……!」
意識が一旦途切れる寸前に随行員さんの悲鳴が聞こえた所までは覚えている。
随行員が明らかに取り乱して助けを求めたのでちょっとした騒ぎになってしまったらしい。
意識がぼんやりとしていた間に色々とルイ16世に関する情報が脳内に入ってきたんだ。
教育係の人とのやり取りとか、見たことない筈の劇場で舞台を鑑賞した記憶とかが一気に雪崩のように脳みその中に入りこんだ。
当然その事は祖父でフランス国王のルイ15世の耳にも入るわけで夜になって大丈夫かと医者随伴で尋ねてきた。
ちなみにフランスの国費を使い続けた挙句、経済立て直しが無理になるほどの無謀な戦争や不景気を引き起こしたのもこの人である。
さらに女性関係も派手で色んな女性と親密な関係だったそうだ。
最初の奥さんとの間に生まれた娘達と後添えの公妾さん達との関係が凄まじく悪く、その結果マリー・アントワネットがお家騒動に巻き込まれて宮内で派閥を作る結果となったと言われるぐらいに険悪だったとか。
女性関係もさることながら、経営・統治能力がちょっとどころかおおよそダメだったのでそのしわ寄せのせいで立て直しを図ったルイ16世が処刑されたといわれるぐらいに、間違いなく国の経済状況を悪化させた結果フランス革命を間接的に引きおこした原因を作ったのだ。
ジジィ許すまじ。
でも今はその怒りを抑えてルイ15世のお話に頷いていた。
「オーギュストよ、本当に身体は大丈夫なのだな?」
「ええ、なんとか大丈夫です、問題ないです」
「そうか……あと一か月後にお前はオーストリアからアントーニア嬢を妃として迎えるのだぞ、決して無理はするなよ」
「は、はい……わかりました」
なんとか無難な会話を選択肢に選んで受け答えをしたらそれ以上は追求されなかった。
医師も身体を調べて異常がないことを確認すると、3日ほど安静になれば大丈夫だろうと結論付けた。
彼らが部屋を出て、俺はホッとひと息ついた。
まるで映画のような出来事を丸々学習しているような気分だ。
これはすごい感覚だ。
VRゲームに出せば売れると思うぞ。
まだ自分……ルイ・オーギュストこと将来国王になるルイ16世の身体に慣れないが徐々に慣らしていこうと思った。
ちなみに今日は西暦1770年4月11日みたい。
テレビもラジオもネットもスマホもなくて新聞か週刊誌ぐらいしか大衆向けの情報共有物しかない近代フランスへようこそ!
……俺こんな転生の仕方嫌だァー!!!革命直前に転生されるよりはマシだけど嫌だァァァ!!!
ちなみにフランス革命は1789年に勃発したので約19年ぐらいしか時間的余裕ないです。
これからどうすればいいのやら……。
頭を抱えながら転生したことを嫌というほど実感しながらこの先を過ごす事になったのであった。