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18:機関

夢の中でヴェルサイユ宮殿に行ってきたので初投稿です

「おぉ……」

「美しい……」

「アントワネット様だ!!!」

「綺麗ですわね……」

「まるで宝石みたい……」


美しい華やかなドレス。

白色がより一層輝いて見える。

侍女さん方が丁寧に整えてくれたんだろうなぁ……。

アントワネットも晴れの舞踏会に参加できてメッチャ嬉しいようだ。

表情が生き生きとしておりますもの。

例えるならお目当ての新作ゲームを発売日当日にゲームショップで一番乗りで購入できたような……そんな感じに嬉しそうだった。


周りにいる女性陣も華やかなドレスを身に纏っているが、アントワネットの輝きには敵わない。

なんたって王太子妃ですもの。

すっごいオーラみたいなのが出ているような気がする。

勿論、負のオーラじゃなくて活気・情熱・温もりが籠ったような感じの空気がアントワネットの周囲から漂っている感じ。

銀の間に現れたアントワネットは真っ先に俺を見つけると、一直線に向かってきた。


「オーギュスト様!!こちらにいらしていたのですね!」

「おお、アントワネット!!!ついさっき来た所さ」

「本当ですか!今日の服装は赤色が美しく感じますわ!」

「そっちもドレスがすごく似合っているね!!!これは特注品かい?」

「はい!パリの職人さん方が私の為に作ってくれたそうですの!どうですか?似合いますか?」

「すっごく似合っているね~!なんかこう……生き生きとしているから見ているこっちも楽しくなってくる感じだよ!」

「まぁ!嬉しいわ!!!」


アントワネットは極めて上機嫌だ。

自分に見合ったドレスを着れて嬉しいのだろう。

勿論舞踏会ということも踏まえて周囲にいる人達との会話も欠かせない。

周囲にいる貴族一人一人にアントワネットや俺が挨拶していき、割と当たり障りのない世間話などをしている。


こうした舞踏会では暗黙のルールがあり、目上の人(地位が高い人)には絶対に自分から話しかけてはいけないそうだ。

というのも、目上の人が俺が話をしてやろうとしている時に、目下の人から話しかけられるとそれだけで面子メンツが潰されてしまうのだという。


まぁ、これは現代社会でもよくある事だな。

特に上流階級のお坊ちゃま方とかは無礼講な振る舞いをしていても、下っ端の奴らはだんまりと注意せずにそのままにしているとかね。

余程の事でない限りは言わないものだ。


そんなこんなで話をしていると、一人の初老の男性が近付いてきたのが見えた。

紳士な雰囲気を醸し出しているお陰で見分けやすい。

彼は俺からの重要な使命を請け負っている人物だ。

ちょうど壁の所に立っていたので、俺はこの人に話しかけることにした。


「ん?貴方は……アントワネット、ほんの少しだけこの人と話をしてくるね」

「分かりました!」


この紳士の男性がやって来たという事はだ……。

転生して間もなく、俺がこの宮殿内や国内への革命対策としてコンタクトを取った重要人物。

彼は表向きは大商人ではあるが、その実態はスパイ活動のような仕事を任せているのだ。


「……で、大商人がここに来たという事は上手くいっているんだね?」

「はい、王太子様。現在までに”機関”への参加を表明した同胞の者は200名を越えております。法が施行しだい直ちに取り掛かれるかと」

「ありがとう、大商人がいなければこうしてスムーズに事が運べないからね」

「いえいえ、こちらこそ……これ程までに華やかな舞踏会に参加出来る事に感謝しております」


舞踏会では様々な人達との交流を深めるものだ。

俺と話をしているのは”大商人”である。

大商人の名前は大きな声では明かせないが、舞踏会に参加できるだけの資金力と財政界では非公式ながらコネクションがあるとだけ言っておこう。


大商人たちの情報網ネットワークは大いに役立つものだ。

現在財源確保に奔走しているフランス王国にとっても、大商人たちの活躍が急務。

”機関”は俺が国王になった時に真っ先に発足する。

表向きは国土管理局という名目で設立する予定だが、その実態としてはフランス王国国内での諜報・破壊工作・外交工作・内偵・革命主義者の逮捕などを担う情報収集と治安維持を兼ねた準軍事機関というわけ。


本来であればルイ15世がやるべき仕事だけど、生憎とあの人は国内における政治・経済状況を良くしようとはせずに事なかれ主義なので、俺が今現在やれる限りの事を尽くしている。

国王になった時に政治的基盤が脆弱だった事もあり、ルイ16世は議会や貴族などの反対意見に振り回されることが多かった。

なので懇意にしている大商人とその同胞たちに協力を呼びかけているのだ。


大商人の名を公に明かせないのは彼がヨーロッパ各地で迫害を受けている民族の血筋であるからだ。

ここで名を出してしまえばたちまち取り囲まれてリンチにされてしまうかもしれない。

なので彼とは職業の名前で語りあっている。

来るべき時になったら、彼も名前を堂々と出して大手を振って歩けるだろう。


「下町の景気はどうだい?」

「少なくともパリでは購買傾向が高めですな、王太子様と王太子妃様のご成婚の報を聞いて庶民達も喜んでおります」

「今は景気がいいからね。誰だって楽しく過ごしたい時間もあるものさ」

「ええ、その通りです」

「ところで……例の件はどうなっている?」

「水面下ではありますが動き出しています。王太子様の支援がなければ実現しませんでした」

「いいってことよ。私費でやっているようなものだからね。成果の報告書はいつ頃できそう?」

「遅くても8月中旬までには結果が出るかと……」

「分かった、例え成功していなくても報告書だけはきちんと提出するように。……ではいつもの随行員に成果報告の知らせを頼む……」

「かしこまりました」


大商人はペコリとお辞儀をして舞踏会に溶け込むように消えていった。

こうした舞踏会でのちょっとしたミステリーも捨てがたいよね。

華やかだけではなく、宮廷の勢力……取り巻き、その他諸々が渦を巻いているのだ。

いわば社会の縮図のようだ。

んでもって大商人との話し合いを終えて、アントワネットの所にカムバックしてきたぜぇい!


「先程の御方はどちら様ですの?」

「ああ、さっき話していたのは商談相手さ。今度ヴェルサイユ宮殿で美術品などを取り扱ってくれているお得意様だよ。今日は急いでいるみたいだから帰ってしまったけど……時がくればアントワネットにもしっかりと紹介しておこうと思う」

「……なるほど、オーギュスト様にとって重要な御方というわけですね」

「そゆこと」


この時代にしか効果を大いに発揮しないが、その分彼らの強力な力はフランス王国を革命から救うための手助けとなるだろう。

その為に俺はT機関の設立を許可したんだ。

どうやって大商人にコンタクトを取ったのかは秘密だ。

と、ここで会場の空気が急にざわつきはじめた。


「あら、デュ・バリー夫人がいらっしゃったわ」

「おい、反対側からもアデライード様方がいらっしゃった……」

「なん……だと……挟み撃ちか!」


あ、ヤベェ……。

デュ・バリー夫人とアデライードら叔母たちがほぼ同時にやって来た。

どうやら一波乱が起きそうだ。

彼女たちは目からビームが出るようになったら、既に火花を派手に飛び散らせているような状況だ。

鏡の間の空気がバッチリ冷えてますよコレ。

二人が同時に入ってきたこともあってか、場の空気は静かに……そして着実に氷点下まで下がっていくかのような感じがピリピリと伝わってくる。

こんな空気で大丈夫なんだろうか……。

鏡の間の空気が凍っていく中、舞踏会は本格的に幕を開けたのであった。

転生者が設立しようとしている”T機関”とは………?

日本における公安調査庁というよりも戦前の帝国政府が管理していた特別高等警察に近いものである。

国土管理局の管轄下に置かれる理由としては国内での調査を行うのに不自然ではないから。

また、国内における不正行為などを働いている大貴族などの調査も含まれているので、国王が私利私欲のために設立したわけではないので、そこのところを理解してほしい。

以上チラ裏でした。

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