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14:蠢く陰謀

史実とは異なる展開こそIF歴史の醍醐味なので初投稿です

一方その頃、ヴェルサイユ宮殿では少しばかり不穏な空気が漂っていた。

その空気が漂っていた場所はヴェルサイユ宮殿の一室にあった。

蝋燭が灯されている部屋には十数人の影があった。

二人の女性が中心となって仲の良い女性たちを集めて不満をぶちまけていた。

その中心役の女性というのがルイ15世の娘であるアデライード、ヴィクトワール、ソフィーであった。


「全く……お父様は相変わらずデュ・バリー夫人にべったりだし、オーギュストもアントワネット妃とくっつき過ぎよ!!完全に骨を抜かれているわ!」

「あの甥はアントワネットにたぶらかされているに違いありませんわ!」

「ええ!」

「まさに!」


取り巻きの女性たちが同調している。

アデライードには想定外の出来事が起きてしまった。

それはアントワネットとの対デュ・バリー夫人との共同戦線構築が出来ていない事であった。

史実においてはアントワネットがデュ・バリー夫人が娼婦の如く大勢の男性と性的関係があったことを嫌悪していたのをここぞとばかりに利用し、アデライードはアントワネットをヴェルサイユ宮殿におけるデュ・バリー夫人との派閥抗争に加えたのだ。

本来であれば今日あたりにアントワネットに声を掛けて自分達の陣営の先鋒に立ってもらう為に迎え入れるつもりであった。


しかし、オーギュスト王太子が介入した事によりこの目論見は外れてしまう事になる。

オーギュストはアントワネット妃を誘ってヴェルサイユ宮殿の庭園に連れていき、一緒にピクニックを行ったのだ。

そしてオーギュスト自身が作った特製サンドイッチを食べたり、周囲の人々と仲睦まじい様子をしていたので声を掛けるタイミングを逃したのだ。

その事に腹を立てているアデライードはオーギュストの作ったサンドイッチをことごとく貶していた。


「オーギュストはアントワネットや侍女の為に食事まで用意したそうよ!それも全く聞いたこともないような田舎料理みたいな貧相な料理だったのよ!」

「まぁ!王太子ともあろう御方がそんな粗末な物をおつくりになっていたのですか?」

「ええ、厨房にいる私達に味方してくれている料理人からの情報ですわ。アントワネット妃にはゆで卵を潰してキャベツを包んだようなパンを、そして甥はベーコンを細かく刻んであげたのを乗せたものを出したそうよ!」


料理に関しては実物を食べてみなければ分からないだろう。

しかし、何よりも気に食わないのがオーギュストとアントワネットが仲睦まじい姿で中庭で昼食を取っていた事であった。

自分たちはデュ・バリー夫人といがみ合い、その横で結婚したばかりのオーギュストとアントワネットが幸せそうに過ごしているのだ。


特にアデライードは婚期を逃してしまっているので、二人の光景を遠目で見ていたアデライードにとってまさに精神面で突き刺さる一撃となっていた。

こうした女の中で蠢く嫉妬と欲望が合致してしまうと、それはそれは恐ろしい劇薬と化していく。


数か月前まではオーギュストは内気で無口な少年だった。

それは叔母である彼女たちも十分に知っていた。

他人の指示に従い、それでいて素直で大人しい子であった。

それが今ではどうか?


随行員やアントワネットの侍女とよく話しをしたり、周囲に挨拶を欠かせない外向的で明るい性格に変わったのだ。

アントワネットとの結婚一か月前に宮殿内の廊下で突発的に倒れて以来、オーギュストの性格が180度変わってしまったのだ。

アデライードは、その原因をアントワネットにあると非難の的に挙げていた。


「やっぱりあの女と結婚できたから現を抜かしているにちがいありませんわ!そう思いますよねアデライード姉様」

「やはりオーギュストはアントワネットにそそのかされているのですわ!彼女はデュ・バリー夫人と共闘しようとしているのかもしれませんわ!!」

「そうなれば私達は不利になりますわ!!!」

「なら、脅威の芽は早めに摘まむべきですわ!」


デュ・バリー夫人よりも新興勢力としてアントワネットが台頭したら、宮殿内における派閥は三つに分裂されるだろう。

デュ・バリー夫人派・アデライードら共闘戦線派が宮殿内では対立していた。

そこにアントワネットがデュ・バリー夫人に合流したり新たな派閥を構成してしまうと宮殿内の政治バランスは大きく崩れるだろう。


「ですが、まだアントワネット妃がこちらに合流しないとは限りませんわ、彼女が王太子妃になったとはいえ、まだまだ様子を見ておくべきではないでしょうか?」


周囲の女性たちがヒートアップしている最中、一人の女性が手を挙げて持論を述べた。

その女性は若いながらも凛々しく、はきはきした口調で述べた。

どちらかと言えばアントワネットを擁護しているようにも聞きとれる発言だったが、彼女はアントワネットがボロを出すのを待ってから行動するべきだと主張しているアデライードとヴィクトワールに自制を促した。


「あら、その理由は何故?」

「まだ彼女は14歳です。年齢でいえばこちらが上、色々と()()()()()()()()()()()を教え込ませてからゆっくりと招き入れるのです。そうすればデュ・バリー夫人に付かず、親切に対応すれば彼女はきっとこちらにやってきますわ」

「……そうね、王太子妃様にはこちら側の礼儀をじっくりと時間を掛けて行いましょう!」

「ええ、それがいいですわ!」

「では、礼儀を教えてあげましょう!!!オホホホホホ!!!」


アデライードが笑い、周囲も釣られて笑いだす。

運命とは不可逆的に巡ってくるものなのかもしれない。

そしてそれはルイ・オーギュストにとって最初の試練として降りかかるのであった。

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