prologue:welcome to France
プロローグを作っていなかったので初投稿です
=202X年 東京=
「ぬあああああん!!!疲れたよぉぉぉ!!!」
今日も午後11時30分まで徹夜をしてきてマイホームに帰ってきた。
築35年で外壁に若干亀裂が入っているボロアパート、これが我が家である。
明日が休みとはいえ、ここ最近の残業が肩にどっしりと乗っかってきている。
タイムカードにその分の残業代が加算されるのでゲーミングパソコンに必要なパーツ代ぐらいには稼いでいるが、それでも身体がここ最近悲鳴を上げているような感じがする。
電車で20分、車で40分、徒歩2時間……山手線の内側にある大手外資系企業が俺の職場だ。
このところ会社内で企画やプレゼンの話題が大詰めを迎えていることもあって、どこの部署も大忙しだ。
俺の部署は事務だが、こうした繁忙期に入ると計算書類などがエクセルやワードにみっちり詰まっている状態で押し付けられるのが日常茶飯事だ。
ふふふ、ブラック企業なんかに入るんじゃなかったぜ。
「戦力を取り入れてもすぐに離職しちゃうから仕事の引継ぎが全然できないんだよなぁ……」
給料はいいがその分残業が山のようにあるのが特徴的な職場だ。
早い話がブラック企業というわけだ。
離職率は1年間で40%……。
ほぼ新卒の2人に1人は入社して半年で姿を見せなくなる。
今年は国立大学を卒業したての学生が入社してきたのだが、入社して2ヶ月後にパワハラが原因で辞職してしまった。
その上、新卒の面倒をみていた奴は始末書やら新卒の分の仕事まで押し付けられた結果、七夕の日に電車に飛び込んで死んじまった。
うちの会社はマジで黒すぎる。
某大手コンビニエンスストアや某大手広告代理店並にブラック企業として名を馳せており、インターネットの掲示板では毎日のように非難されているような会社だ。
「辞めたいけど……今辞めて途中入社できる企業ってあるか?」
そんな会社辞めたらいいと思うが、悲しいことに俺にはスキルがあまりない。
持っている資格もオートマ限定の運転免許証と大学生の時に試しに取った介護の初任者研修ぐらいだ。
この会社を辞めたら介護職ぐらいしか働き口がないというわけさ。
おまけに童貞で独身……。
それでいて年齢も30を超えちまった……。
……ははは、寂しいものさ。
こんな辛い現実は早く忘れてしまいたいものだぜ。
「全く、やってられないよ……シャワー浴びてから飯でも食べよう」
身に着けている服を洗濯機の中に放り込んでからシャワーを浴びる。
シャワーから放たれる熱いお湯を浴びながら、シャンプーで頭を中心にゴシゴシと洗い流す。
この熱いシャワーも最近は妙に感じにくいような気がしてならない。
シャワーを浴び終えてから、俺はソファーに座って呆然と部屋に置いてある時計を眺めていた。
「ああ……もう時計の電池切れちまったか……やっぱ100円ショップの時計はすぐに電池なくなるな」
100円ショップで買ったばかりの時計だけど、すぐに針が動かなくなってしまった。
やはり安物はダメだ。
数千円のデジタル式の時計を買った方がいいかも。
動かない時計を見ていると意識がボーっとしてきて、どこか吹っ飛んでいく感じがしてきた。
危ない、夕飯食べないで寝る所だったぞ。
「さて、夕飯の支度でもするか……えっと……材料は……何があるかな?」
このアパートの近くには夜遅くまで営業している居酒屋やバーなど酒が飲める店もあるが、今日は宅飲みしたい気分だった。
凝ったものを作りたくはないが、それでも美味しく食べたいので簡単な男飯をこれから作ろうと思う。
これだけでも胃の中にぶち込んでおく必要がある。
というわけで男飯講座の開始だ。
スーパーで68円で売られている袋に詰められた一人前の蕎麦を茹でている間に、丼に予め袋で小売り販売されている1人用のそばつゆを用意する。
この時にそばつゆは冷やしておくのがベストだ。
冷やしたそばつゆを丼に入れている間に乾麺の蕎麦が出来上がるものだ。
茹で上がった蕎麦をざるで冷水でわしゃわしゃと冷やしてから丼に入れるとかけそばになる。
……が、俺はこれだけじゃあ満足しない。
これだけなら駅そばでも十分だからだ。
なので俺はさらにトッピングを追加する。
まず乾燥ワカメを一掴み分入れた後に天かすを惜しみなく丼に乗せる。
冷蔵庫の中に冷しておいたパック詰めされた九条ネギを一気に投下。
蕎麦が見えなくなるまでネギで埋め尽くしたのを確認してから酒を用意する。
今日の酒はキンキンに冷やしたウォッカベースのコーラだ。
ロシアンコークとも呼ばれているアルコール度数の高い酒だ。
箸を用意すればあっという間に男飯が完成してしまう。
「それじゃあ……いただきます」
蕎麦を一口分啜りだす。
うん、乾麺ながらいい感じの味付けになっているな。
それからは麺、わかめ、ネギ、天かすの順で口の中に放り込み、さらにそれらを酒で胃の中に押し込んでいく。
天かすとネギのシャキシャキ感が蕎麦をより一層美味しくさせているのは本当にありがたい。
酒をチビチビと飲みながら蕎麦を食べていく、蕎麦が入っていた丼が空になったのに気づいたのは日付が変わった午前0時20分ごろだ。
「……なんだ、まだ0時20分か……今日は休みだし、ゲームでもして寝るか……うぃぃ!!」
ちょっと酔っているが気にしない。
丼と箸を流し台の所においてサッと洗ってから椅子に座ってゲーミングパソコンの電源をつける。
ここ最近俺がハマっている歴史シミュレーションゲームだ。
近世から現代までの歴史に登場した国家のトップとなって遊ぶ歴史体験シミュレーションゲーム「Hard Of Blow Force」略して「HOBF」という睡眠時間を削ってまでしたくなるゲームだ。
歴史好きの多くがプレイしていることで脚光を浴びているゲームだ。
32GB分のメモリーを消費するという凄まじい代物だが、その分史実に基づいたイベントや経済・軍事状況などを細かく指示できるゲームであり、歴史シミュレーションゲームと国家運営ゲームの両方の側面を持っている。
このゲームのおかげで近世ヨーロッパの情勢がどういうものだったのか知る事ができたし、かれこれ俺はこのHOBFを平日でも2時間、休みの日は必ず5時間以上プレイしているので、累計ゲームプレイ時間が一昨日で1000時間を超えた。
さて、今日プレイするのは近世フランス王国かな。
決めた理由?
なんかさっきからカーソルがフランス以外で動かないからフランス王国にするんだよ。
フランス王国で縛りプレイしろとマウスが疼いているのか?
それとも俺が酔っているからなのか?
とにかくフランス王国以外にマウスが進まない以外は問題ないのでこのまま進めてみようじゃないか。
モード開始時は近世シナリオで史実状態、それ以降はランダムイベントモードを選択か……。
これだけやればマウスも満足するだろうか?
このゲームは選択した国家の説明などが流れてくるのだが、ちょうど今流れているのはフランス王国の国歌だ。
国歌が流れてくるけど、その国歌を聞いているうちに、だんだんと眠気が凄まじく襲ってくる。
あれ?いつも酔いは来るけどこんなにも早く回ってくるのか?
波に揺られている船の中にいるみたいにフラフラとなった意識の中で、パソコンの画面から男の人の声が聞こえてきた。
声はどことなく、寂しそうで口調もトーンもあまり高低差がないような感じだった。
『巻き込んでしまって申し訳ないのだが……フランス王国を救ってくれないだろうか?私には多くやり残した事がある。それを君に託したい……どうしても……想いが断ち切れないんだ。頼む……』
ああそうだ。
これはきっと寝落ちした直後に見る夢なのだろう。
一体誰が話しかけているのかは知らないが動画サイトの音声でも拾ったのかもしれないな。
酒に酔っていたしあながち間違いではないかもね。
そう思った直後に俺の意識は白い光の中に包まれていった。