副会長ですがボイコットした結果がこちらです

作者: 彪紗

感想や続編をというありがたい声をいただきましたので、続きを執筆させていただきました。

今回はキレ芸はありません。


感想で、「顧問どうなったの?」と質問があったので、追記修正いたしました。

 こんにちは。

 覚えていますでしょうか、副会長の犬山洋子です。


 あれから週末をはさみ、本日月曜日からボイコットをしようと思います。

 ちなみにそれを監査委員でもある友人に話したら、「いいんでない?」とのこと。

 軽いです。それでいいのか監査委員。


「しばらく生徒会でないんでしょ?だったらカラオケ行かない?」

 そう、二次元愛好仲間に言われましたが、さすがにそれは鈴鹿との約束もあるので断りました。

 本当はカラオケに行きたかったので、今度の休みに誘って欲しいということも言い添えておきました。

 …さすがに一度約束を破られて誘われても行きたくはないので先約を入れてしまおうという魂胆です。

 カラオケ行きたいし。


 …しかし、何故、彼は去年あそこまでしつこく告白してきたくせに、例の彼女に好意を寄せてしまったのか…それでまた戻ってくるし。


「お待たせ!」

「終わったの?」

「うん。今日はみんなちゃんと仕事してた!」

「そ。見回りも終わったんだね?」

「…会長と魚住は、星宮さんと帰っちゃったけどね」


 鈴鹿は傷ついたような顔をしている。


「そんなにあの人たちと一緒がよかった?」

「そ、そういうんじゃないけど…」

「もういい。帰ろ」


 簡単には意識は変えられないんだろうし、あと一週間付き合えばこいつも満足するだろう。



 次の火曜日も同じような状況で、変化があったのは水曜日だ。


「…よーちゃん、帰ろ」

「終わったの?」

「…うん」

「どうかしたの?随分元気ないけど」

「ん…よーちゃんの気持ち、ようやく分かったから」

「どういうこと?」

「俺が仕事してても、会長たち、今日はずっと喋ってた。やることもないし、よーちゃんが来ないからって理由で…でも、よーちゃんの意見で置いた投書箱の投書は毎日会長が目を通すって決まりだったのに、それすらしてなくて。傍から見てたら、よーちゃんもこんな感じで見てたんだって思って…やるせなかった」

「そう」

「本当に、ごめん。許してなんてもらえないだろうけど、ごめん」


 コイツだけは、仕事していなかったことをだいぶ懲りたらしい。

 あとの3人は違うみたいだけど。


 木曜日。放課後の廊下を一人歩いていると、微かに聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「おっかしいなぁ…」

 その声の主は星宮だった。

 携帯を片手に何かブツブツ喋っている。


 …って、ん?彼女が今持ってるのってガラケー?

 でも、生徒会室でスマホ使ってなかった?


「優馬君の好感度、なんにもしてないのに友達状態より下に下がってる…もぉ、何でこんな肝心な時にサポキャラが来ないのよ、使えない…」


 優馬って鈴鹿の下の名前だよね。

 ってか好感度とかサポキャラって何、乙女ゲームじゃあるまいに…。


「せっかくレアアイテム使って大好き状態まで引き上げたのに!」


 いや、だから乙女ゲームかっての。


「…もしかしてあの女も転生者?それでリアル乙女ゲーとか言ってたわけ…?ってことは優馬君狙い…?」


 ベラベラと一人でよぉ喋りなさるな。って、あの女ってまさか私か?


「サポキャラはサポキャラらしく利用されてろっての。生徒会ルート入るためにせっかくグループからブロックしたのに…ううん、あんな性格ブスに優馬君一人だって渡しちゃダメよね。かわいそうだし」


 生徒会で連絡出来るようにしようよ、とSNSのグループに招待が来ていたのを承諾した少し後に何故か私だけ外されていたという謎の事態が起きていたのは、逆ハーレムに邪魔だからブロックされたのか。


 最後の言葉は、そっくりそのままブーメランしていいですか。

 本物の性格ブスお前だろ確実に。


 優馬、じゃない、鈴鹿は渡さないってのは別に思ってないよ、本当に思ってないから!

 …誰に言い訳してんだ私。


「んー…好感度系アイテムはもうないしなぁ…サポキャラはライバルルートなかったし…あっ、じゃあ退場させちゃえばいいんだっ!どうせサポキャラなんて用ないし」


 怖気がするような笑顔で携帯をしまって、私と反対方向に歩いていく星宮。

 …っていうか堂々と生徒会サボってんじゃねぇよ?!


 リコールも時間の問題か。


 呆れてものも言えず、教室に戻った。

 今日もヘルプメールはなし。まぁ、鈴鹿は自分の仕事くらいならすぐ終わらせられるし、残りの3人が仕事しようとしていないからそうなるんだろうな。


 翌日金曜日、ボイコット最終日の昼休みになって、事態は急変した。

 普段は空気の顧問に、生徒会室まで来いと呼び出されたのだ。


「…それで、昼休みに呼び出しとは何か大切な用事ですか。今は繁忙期ではないのでそこまで重要な仕事はありませんが」

「そんなことはどうでもいい。お前、乙女に言うことあるだろ」


 …おい、そこの教師。滅多に生徒を苗字ですら呼ばない貴様がぶりっ子女を名前で呼ぶなんて嫌なフラグ立ててんじゃねぇよ。


「何でしょう」

「とぼけるな!」

 勢いよく机が叩かれる。品がないな。


「お前が乙女に嫌がらせしたのは分かってんだぞ!」

「嫌がらせ?私がやったという証拠は?」

「証拠なんてなくても、乙女が言ってるんだからそうなんだろ」

「お話になりませんね。それでもあなた、教師ですか?教師は本来生徒間の揉め事では公平性がなければいけないんですよ?色ボケすぎてその目のピントもボケたんじゃないです?」

「なんだと…っ」


「先生もういいよ!…嘘ついた上に先生にあんなこと言うなんて、酷いよ洋子ちゃん…」

「馴れ馴れしく名前で呼ぶなと先週言ったことも忘れて、やられもしていない嫌がらせを私にされたと嘘を吐くあなたはどうなんですか?ひどくないんですか?そんな風に考えられるなんて、おめでたい頭ですね。それで、私が何をしたと言いたいんですか星宮サン?」

「これを見てもまだしらばっくれんのか」


 会長が出してきたのは、テンプレのように背表紙から割かれた教科書やノート。


「…どこのゴリラがやったんですか」

 糊付けされた本を文字通り引き裂くにはかなりの力がいる。

 中学の頃、卒業したあとで嫌いな教科の教科書を引き裂いている男子がいたけど、そいつはカッターで筋を入れて、それからやってたし。

 女子でも簡単にやれる方法があるとしたら、アイロンを当てることだけど、そしたら一日紛失する必要があるし、それだって糊の部分を溶かす方法だから、ここまで綺麗に割れて何にもなってないのはおかしい。


「だから、センパイがやったんでしょー?」

「調子くれてんなよテメェぶっ飛ばすぞ」

 ひと睨みすると、書記は早くも引き下がった。先週与えた恐怖心が効いてるらしい。

 嬉しくない。


「だが、お前以外に放課後空いてて乙女に恨みを持ってるようなやつはいねぇ」

「何故そう断言できるんですか」


「俺、犬山さんが放課後毎日教室に一人で残ってるの見ましたよ」

 さっきから確かに星宮の隣にいたけど誰だよお前。

 いや、よく見たらこいつ星宮の取り巻きの一人じゃん。


「サッカー部が私の動向見てるわけねぇだろアホか」

 図書室にも行っていたわ、このたわけが。


「何で俺がサッカー部だって…」

「…いや、壮行会でサッカー部にいたからに決まってるよね」

 こいつも色ボケか。


「揃いも揃ってバカバカしい…証拠不十分。名誉毀損で訴えたら私勝てますよね」

「…よーちゃん」

「鈴鹿も何か言いたいことがあるわけ?」

「違うよ、俺はよーちゃんの味方」

「?」

「よーちゃんがやってない証拠なら、ある」

「優馬くん…?」


「…いつ出せばいいか迷ってたけど…ここで出すよ」

 鈴鹿のスマホの動画画面。

 音量をマックスにしてあるらしく、生徒会室内に音が響く。


 《ビリッ、ビリリッ》

 何か…というか十中八九教科書を引き裂く音が何度かしたあと。


 《フフ…フフフ…これで生徒会はみぃんな私のモノなんだから…》

 恍惚とした、正真正銘星宮の声。

 ちなみに星宮の鼻を通るような高い声は私の地声とは全く違う。私はどちらかというと、一歩間違えば小学生の男の子よりも低い声だ。


「嘘…嘘よ…酷い、優馬くんまでっ!」

「……」

「そっかぁ…このブスに脅されたんだぁ…こんなやつ、今消してあげるから…」


 どこからか取り出したカッターを出して、私に突っ込んでくる。

 この間合いじゃ、助けに入ろうとしてくれてる鈴鹿は間に合わない。


 本格的なナイフとかじゃなく、カッターなら、なんとかいける。


「!」

「あー…サイアク。床掃除しなきゃいけなくなるじゃん…」


 握力の強い右手でカッターを握ると、血がぼたぼた垂れる。床が真っ赤。


「この…大人しく殺されなさいよ!」

 刃を引くなし。そんでもう一回向かってくるなし。


 今度は左手を犠牲にしろと?


「ごめんね、星宮さん」

 この低い声、誰?


「きゃ?!!」

 何が起きたか分からないうちに、星宮がうつ伏せになって、その上から背中を鈴鹿が片膝で押さえつけていた。

 いくら抵抗してもびくともしない鈴鹿に、そのうち星宮は諦めたらしい。


「先生、これで分かったんじゃないですか。よーちゃんは悪いことなんてしてないって」

「あ、ああ…」

 呆気に取られていた顧問が戸惑ったように頷く。


「俺、よーちゃんを保健室に連れてくんで」

「え、ちょ、鈴鹿?」

「手が血だらけ。ちゃんと消毒しないと。ね」

「う、うん…」


 保健室まで連れて行かれ、すぐに手当てをしてもらった。


「…あのさ、星宮に、何したの?あっという間でわからなかったんだけど…」

「突小手返しっていってね、合気道の技」

「合気道?!」

「俺、小さい頃から合気道の道場やってるじいさんのトコによく遊びに行っててさ。そこで一緒に習ってた。姿勢が良くなったり、精神鍛錬にもなるからって。高校に入る前まではやってたんだけど、キツくなってきたのがきっかけで道場に行かなくなったんだけどさ」

「…へぇ…」


 全く知らなかった。


「久しぶりに使った合気道の技で、よーちゃんを守れてよかった…って、守れてねぇか。右手、結局こんなことになったんだし」

「左手でも多少は生活できるから大丈夫。あの、助けてくれてありがとう…その、正直、見直した」

「本当に?」

「…うん、まぁ…助けてくれたし、えっと、何というか…かっこよかった」

 ちょっと悔しいけどね。


「そっか…何か、すげぇ嬉しい」

 へへ、と笑う鈴鹿。


 見直させるって条件は満たしたから、まだ私と鈴鹿のお付き合いは続くことになった。


 それから、数ヵ月後どうなったかというと。


「優馬、前期の決算ってもう出来てる?」

「もちろん終わってる。後期の予算案ももう終わるよ」

「こっちももう少しでまとめ終わるよ…」


 生徒会室で仕事してるのは、あの時、生徒会役員だった中では私と優馬だけになった。

 …なんで名前なのかって?色々あったんです、色々と。


 それはともかく、あれから監査委員のリコールが入って、緊急で役員を交代することになった。

 ちなみに会長は3年だったこともあって、完全に生徒会を抜けたし、仕事をやらせりゃ出来る1年の書記を追い出すのはということで、執行部員からやり直し。

 庶務はこの際いらないだろうと削除された。私の作ったマニュアルの意味、と泣きたくなったけど。


 その庶務だった星宮?

 やつはあの後訳の分からないことをブツブツ喚いていたそうだ。

「乙女ゲー」とか「私がヒロインなのに」とか…妄想乙。


 それを含めて、私が生徒会室に呼び出されてからの一部始終を優馬がわざとONにしていた生徒会室用の放送設備で全校生徒に流すこととなった。

 そんなわけで、一旦精神病院に入院してから、私への傷害罪で逮捕されることになるそうだ。


 会計はとりあえずは優馬自体が心を入れ替えたみたいだということ、あとは彼より計算能力高い執行部員がいなかったからと、再度の選出でも会計を継続することになった。


 でも、それで空いた椅子は副会長、書記のみ。

 …何故か私が会長に抜擢されたからだ。


 二年生だしいいじゃん、とヘラヘラ笑う監査委員の友人を見たときはド突きたくなったけど、今は今で後期の生徒総会に向けて忙しく仕事に専念している。


 あの時、私を一方的に疑い、尚且つカッターを取り出して私に襲いかかる星宮を取り押さえられなかった顧問は、生徒に詳細は知らされなかったけど、当然ながら重い処分を受け、来月にはこの学校を去ることになったそうだ。

 だから顧問の先生が変わって、今の顧問はちゃんと顔を出してくれているのでスムーズに活動ができている。


 というわけで、副会長改め、生徒会長は、今日も忙しく仕事をしております。


 …どうしてこうなった。


いかがでしたでしょうか。タグにはありませんが、ある意味では笑劇のラストですね。

前作のネタバレを補足しますと、生徒会のみんなやそれ以外の取り巻きたちは、チートの如く好感度をあげるレアアイテムを使われていました。

だから、すでに副会長が好きだった会計は二人が好きという最低野郎の状態になっていました。

そんなチートアイテムを使っても、相手の心に"好き"と書き加えるだけで、書き換えることは出来ないのではないかと思ったので。

というか書き換えなんてしたら心に矛盾が生まれて仕方ないと思いました。


なんだか副会長がツンデレなんだかクーデレなんだかよく分からない子になっていますが、書いていて楽しい子でした。

私は心の声の口調が悪い子も好きです。その素が時折出るのも好きです。

慇懃無礼キャラも結構好きですしね。


では、読んでくださりありがとうございました。