赤く染まる12
次回100話はネタ回になります。本編はその次からになりますのでご了承下さい
「あの……本当に大丈夫ですか?」
「安心してください。俺の近くにいれば呪いがやってくることはないですよ。それよりもここですか」
「はい」
俺は依頼人の一人である朝里を連れて直人の家の前に来ていた。田嶋の話から考えるに今回の一件は色々と面倒な話が入り混じっているようだが俺がやることはシンプルだ。依頼人に降りかかる呪いの消滅。もしくは呪いを返す事。
当初術者と思われる直人が死んでいるために呪い返しは不可能だと判断していた。なんせ返す術者が死んでいるのだ。漫画のハント×ハントのように死後強まる呪いみたいな奴の可能性も考えた。だがここまで聞いた限りだとそこまで直人の恨みが強いようには感じない。それこそ奥さんに暴行を加えられたとか、略奪されたとかならそれこそ憎悪の強さは想像に難しくない。だが守が直人に狙われた理由は奥さんをストーカーしていたから。しかも一度制裁を加えているという状況だ。つまりこれは直人の呪いではないという事だ。
であれば次は直人の死因だ。そもそも本当に直人は例の事故物件で毎日手を合わせるのを怠っただけで呪われたのか? 祟られたならわかる。ならそれで終わりのはずだ。しかし実際にこうして直人の友人を巻き込むように呪いとして拡散し始めている状況にまで発展している。この違和感、それに田嶋の情報から考えれる事は一つか二つ。
「これは
多分だが間違いない。
「え、どういう事ですか」
「恐らくただの事故物件による祟りの影響で直人さんは死んだのではないと思います。その事故物件を利用して呪いを作った奴がいる。そんな気がします」
「なッ! そんな事が?」
「違和感を感じませんか? ここまで強い呪いであればただ神棚に手を合わせるだけで抑えられるはずがない」
殺した人間を呪いに取り込むなんて普通じゃない。かなり強い呪いだろう。それが手を合わせるだけで大人しくしているものか? いやありえない。
「確かに……でも直人は確かに手を合わせるのをサボったら出るようになったと」
「恐らくそれが切っ掛けだったのでしょう。今回の一連の呪いが発動する最初の切っ掛け。これは俺の考えですが、事故物件に憑りついていたものは本当はそこまで強い力を持った霊ではなかったと思います。それこそ簡単なお祓いで静まる程度の力だったはず。だがそれに手を加えた者がいた」
「そ、それは……」
「金沢不動産の裏に怪しい宗教団体がいるそうです。恐らくはそれでしょう」
この辺りから田嶋の話に繋がってくる気がする。霊能者を集め事故物件を集めている謎の詐欺サークル。確かレイ・ストーンも探しているんだったかな。
「宗教ですか、そんなヤバイ連中を相手にしないといけないんですか」
「いえ、心配はいらないですよ」
「え? どういう事ですか」
「朝里さんたちの呪いを解くだけならわざわざそんな連中の相手をする必要はありません。抑えるべきは二点。一つは直人さんのスマホ。そして例の事故物件の神棚。この二つです」
俺がそういうと朝里は納得したかのような顔をした。
「だから俺を呼んだんですね」
「ええ。直人さんと一番親交があったと聞いていましたからね。では行きましょう」
こうして俺と朝里の二人は伊東直人の家にいる晴美さんを訪ねてインターフォンを鳴らした。しばらくした後、玄関のスピーカーから女性の声が聞こえてくる。
『――はい、伊東です』
「晴美さんですか。俺です、五丈朝里です」
『え、五丈さん? どうされましたか』
「はい、近くまで寄ったので線香を上げようかと……それに気になることもあったので」
この辺りは事前に決めていた通りだ。
『そうですか。わかりました、主人も喜ぶと思いますので少々お待ち下さいね』
そういうとスピーカーからの音が途切れしばらくすると玄関が開いた。晴美という女性が朝里の姿を見て次にその隣に立っている俺を見て少し驚いた顔をした。
「えっと……五丈さんそちらの方は?」
「はい。こっちは俺の友人の勇実さんです」
「どうも。初めまして勇実と申します。実は以前ご主人の直人さんの病院に通っていた事がありましてね。その日は朝から腹痛がひどく偶々通りかかった直人さんの病院に行ったんです。急ぎレントゲンを撮ったところなんと朝食べた餅が光っていて――」
「はあ……立ち話もなんですしどうぞ入ってください」
あれ、おかしいな。なんで怪しい人みたいな目でこっちみるんだ。初対面の人とも仲良くなれる『傑作漫画松谷君の滑りようがない話』から引用したのがバレたのだろうか。