赤く染まる2
コロナに掛かっておりました。
更新が遅くなって申し訳ありません。
Side 五丈朝里
「2週間くらい前だ」
運ばれてきた料理に手を付ける事はなく直人は視線を合わせる事もなく淡々と語りだした。
直人は開業医になるためにも不動産で物件を探していた。どうしても立地をある程度考えた場所にするとどこも予算は目が飛び出すような金額になるそうだ。ある程度借金をして物件を抑える事を考えても黒字になるのは数年は先になる。そこで数件回っていた際に見つけたのが例の事故物件になる。
元々クリニックをしていた場所でありリフォームするにしてもある程度金額が抑えられることが非常に魅力的だったそうだが、なぜこんな優良物件を隠していたのかと問いただしたところ、不動産は苦い顔をしてその物件の事を語りだした。
そこは資金繰りが上手くいかず借金で首が回らなくなった院長が首吊り自殺をしたという所謂事故物件だという事だった。それからお祓いなど色々試したそうだが、どうしても心霊現象が止まらず、数回に及ぶお祓いなどによりようやく神棚に水を上げ手を合わせるという事を毎日やる事でその現象が抑えられるようになったという事だった。
その説明を受けたうえで直人も最初は気味悪く感じたそうだが、それ以上にやはりその値段が魅力的に映っていた。一応直人は自分の妻にそのことを伝えたそうだが、元々オカルトをまったく信じてないその嫁さんは安く済むならすぐそこで決めるべきだと直人の背中を後押しした。
「実際神棚に水をやって手を合わせるだけでここまで金額が落ちるなら安いもんだと思ったよ」
そこからはとんとん拍子に話は進んだそうだ。苦い顔をする担当者を見て見ぬ振りをしてその物件に決めた直人はリフォーム業者を呼びすぐに改築工事を行ったという事だ。当然工事の前にも神社の神主を呼び地鎮祭を行ったという事だ。院長室にある神棚だけは触らずそれ以外には全部に手を入れてようやく開業医としての一歩を歩みだす所まで来たそうだ。
「順調だったよ。今のご時世だし患者はそれなりに来る。予算も大分抑えられたお陰でそこまで苦しい生活でもなかった。このペースなら数年で黒字になる所までは見えていた。――だから調子に乗ってしまったんだ」
震えた声で直人はそう俯きながら言いその握った手は小刻みに震えていた。
「何となく今の流れで分かったんだけどさ……もしかしてその手を合わせるのをさぼったのか?」
暫しの沈黙の後、直人はゆっくりとうなずいた。それを見てやはりと思った。恐らくだが言われた通り手を合わせていれば本当に何も起きなかったのだろう。だから油断してしまったという事だろう。
「気が緩んでいたんだ。適当に水をやって手を合わせるだけで本当に何もなかった。最初はちゃんとやっていたが次第にその行為に疑問を持つようになってきていた。あれだけ脅されたが実際は何も起きないんじゃないのか。もしくはもう収まっているのではないか。そんな考えがよぎるようになっていたんだ」
そしてソレが起きた。直人は前日の夜に家族と外食をした際にそのまま家に帰ってもしばらく飲んでいたそうだ。翌日が休みという事もあり久々に自宅でゆっくりとお酒を飲んでしまったという事だ。翌朝二日酔いに苦しむ直人はその
翌日も日課を行わず普通に診療を続けていた。そしてその晩の事――。
「……鏡を見たんだ」
「鏡?」
「ああ。洗面台の前で髪を乾かしていた。何か視線を感じるような気はしていたが、周りを見ても何もない。自分に気のせいだと言い聞かせていたが、その時だ。――そいつが俺の後ろにいたんだ。真っ赤な顔をした中年の男が鏡越しに俺の顔を見ていた」
真っ赤な顔の男。直人が最初に言っていたことと何か関係があるのだろうか。
「もちろん驚いたよ。ダサいけど声だって上げた。次に見た時その赤い男はいなくなっていた」
「見間違えって可能性は?」
「ありえない。だって後もずっと見えていたんだ。しかもだぜ……」
そういって直人はポケットからスマホを取り出した。だがスマホの画面は見ずロックだけ解除してこちらにスマホを渡してくる。
「写真撮ったんだ。見てみてくれ」
「……映ったのか?」
「ああ、映ったよ。びっくりしたぜ心霊写真ってこんな簡単に取れるんだな」
テーブルの上にこちら側に置かれたスマホを恐る恐る触り写真のアイコンをタップする。その中からするといくつかの家族写真と風景の写真がずらりと並ぶアイコンの一番下にそれはあった。
息を呑みながらそれをタップするとスマホ画面いっぱいにソレが表示された。広い洗面台に向かってスマホを向ける直人。その後ろ、距離的には数m程後ろにまるでペンキで顔を赤く塗ったかのような男が無表情でこちらを見ている写真だった。
「……なんか作り物っぽい所が逆に怖いな」
「この写真を撮った時はまだそれほど近くなかったんだ。でもさ――」
「どうしたんだ?」
直人は今にも泣きそうな声をしながらやつれた顔でこちらを見た。
「
俺は悲痛な声を上げている友人を目の前に何も言ってやることができなかった。