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人を呪わば3

Side 勇実礼土


「いいわよぉ。セクシーね。さぁもっと貴方のリビドォを私に見せてちょーだいッ!」

「は、はぁ」

「もぉどうしたの!? 元気ないじゃないの。後で私の元気を分けてあげましょうか?」

「いや、結構です」


 様々なフラッシュが俺を襲う。

しかし、これは別に攻撃されているわけじゃない。そう攻撃されているわけじゃないはずだ。

正直この数のカメラを向けられた事がないため、かなり構えてしまっている。

そしてそれ以上に強力な存在が目の前にいる。


「いいわぁ。礼土ちゃん。ほんといいわねぇ。ねぇッ! マネージャー! 彼どこで捕まえてきたのよ?」

「ははは、街で見かけて声を掛けたんですよ。今日はお試しって感じで何とか了承貰いましてね……」

「あらそぉなの? ねぇ、今度ご飯一緒に行かない? 奢っちゃうわよ」

「……いえ、お腹いっぱいです」







 さて、何故こんな事になったのか。

今日は七海紬は雑誌の撮影があるという事なので、

俺は大胡の提案でモデルのバイトという形で撮影現場に潜入する事になった。

タクシーに乗り、見慣れない撮影現場へ大胡と一緒に移動した。


「いいですか。勇実さんは私がスカウトしたモデルの卵という設定です。紬はもう先に入って撮影している頃でしょう。そこに勇実さんはモデルの卵として今後の勉強のために撮影現場を見学するために来た。それが今回の設定です」

「わかりました」


 そういえば、栞もモデルの仕事をしているとか言っていたが、まさか俺自身が振りとは言え、

それをやるとは思いもしなかったな。

まぁ今回は見学らしいから何もせんだろう。


「紬さんもモデルの撮影を?」

「はい、元々スタイルは良いので、モデルの仕事は評判いいんです。……もっとも本人はあまり乗り気じゃないんですけどね」

「おや、そうなんですか」

「ええ、元々身体を動かすのが好きなタイプなので、写真を撮るためにポーズを取るのが苦手らしいんですよ。それに……」


 なるほど、良く分からないがカメラに向かってただ黙って立ってるだけではないという事か。

まぁ仕事なんだし、色々あるんだろう。

俺も色々あったからな……まあ楽しんでやってるだけ前の職業よりは良いのだけどね。

いかんな、話が脱線しそうになる所だった。


「それに、という事は他にも何か苦手な要素でも?」

「ええ。まぁ見ればわかると思います」


 そういうと大胡はジャケットの懐からスマホを取り出し何かを確認している。

スマホを操作し、画面を見て何故かため息をついている。一体何があったのか。


「あぁ――やっぱりそうですね。今日の撮影は男性モデルも来るんですよ」

「ん? それがなにか?」

「はははは……これ見て下さい」


 そういうと大胡は俺にスマホを見せてきた。

そこには紬から何やらメッセージが来ている。


『今日来た男性モデルの人名前知らないですが、今後NGでお願いします』

『さっきの人ですが、さっきから食事に行こうとか、連絡先交換しようとかうるさいです。事務所に苦情をお願いします』

『あと、今日マネージャーが連れてくるモデルモドキも私に近づけないで下さい』


 おーおーすごい怒ってるな。

っていうか、最後のモデルモドキって俺の事だろうか。

いや、絶対そうだろう。

なんでこんなに怒ってるんだ?


「これは……随分怒っているようですね」

「ええ。仕事はしっかりやるんですが、モデルの仕事で男性と一緒にするとほぼ必ず連絡先を聞かれるのでいつもこういうのが来るんですよね」


 大胡は苦笑いしながらそう言った。

なるほど、どうやら紬の個人情報を狙っている奴が多いという事か。

俺も同じように狙われる事が多いからその辺の煩わしさはなんとなくわかる。

そういう時はお菓子でも食べるといいよ。

ちなみに、最近の俺のオススメは醤油煎餅だ。


「まぁこういう連絡は来てますが、一応挨拶の場は設けます。ただあまり長い時間は作れないと思います……」

「わかりました。とりあえず一度近くで見て何か憑いているのか見てみましょう」


 なんて言うが当然俺は霊視なんて出来ない。

ただ、悪意ある霊であれば気配は分かるはずだ。

しかし、呪いという物になってくるとそれが分かりにくい。

以前の現場で学んだが、俺は呪いという物の感知能力が低いようだ。

悪霊は感知しやすいが、どうも以前の世界になかった呪いという力は分かりにくいのだ。


「そろそろですね。行きましょう」

「はい」

「以後は勇実さんの事を礼土君って呼ばせて貰います。勇実さんも今後は名前だけ名乗って下さい。一応念の為です」

「了解です」



 大胡の後に続いて俺は建物の中へ入っていった。

そこそこ大きな建物の中に入り、そのままエレベーターへ。

上に上がり、スタジオの中に入った。


「はい、目線はこっちよ。もぉッ! もっと自分をさらけ出しなさい! 違うわよ! もっと色気出しなさいよ!」


 ……オーガがいる、そう錯覚してしまった。

身長は2m程度、やたらと筋肉質な男性だ。

それがカメラを構え、そこにポーズを取っている男性と女性に向かって写真を撮っているようだ。

それにしても……すごい光景だな。


「彼は源辰樹(みなもとたつき)さんといいましてね、結構この業界だと有名なカメラマンなんですよ。結構強烈なキャラクターでしょう?」

「え、ええ。中々強烈な……」

「普段はもっと普通なんですけどね。エンジンが掛かると何故かオカマ口調になっちゃうんですよ」


 なるほど、意味がまったく分からないのだが、随分凄まじい人だな。


「それよりアレを見て下さい」


 そう言って指を指す方向を見る。

二人の男女が先ほどと同様にポーズを取りながら撮影を続けている。

一人は茶髪の男性だ。すらっとした体型、少し多めのアクセサリーを付けてもう一人の女性の肩を抱いている。

見たところそれなりに鍛えているようでもある。

まぁこっちはいい。それよりももう一人は黒髪の女性だ。

 横にいる男性と同じくらいの身長であり、こちらは隣にいる男性以上に鍛えているのがすぐに分かった。驚いたことにポーズを変えながら撮影しているのだが、隙がない。

というより、一緒に撮影している男性を警戒しているようだ。何かあればすぐに拳が振るえるように構えているように見える。



「あれが七海紬です。――どうですか?」

「……」


 はっきり言おう。

さっぱりわかんねぇ。

少なくとも彼女に憑いてる霊はいない。

だけど……



「紬さんからは特に霊の気配は感じません、――がこのスタジオに何かいますね」

「ッえ!? 本当ですか?」


 俺がそういうと小声になって確認を求めてくる。

間違いない、霊の気配がする。

俺は上を視ながら考えた。



 それにしても……随分妙な霊だ。

悪意は感じない。いや正確に言えば悪意はあるが、害を与えるという気配はないようだ。


 これ、祓っていいのかな……

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