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伝承霊1

お待たせしており、申し訳ございません。

まだ完全にストックが作れていないため、次の話の投稿も約3日後くらいになるとおもいます。


「がははははッ! 流石、我が弟子。よくやった、よくやったぞ」


 着物に大きな数珠を首に下げた一人の男が大きな声で笑っている。

長い髪を後ろでまとめた狸顔の男

男の名は大蓮寺京慈郎だいれんじきょうじろう

膨大な金銭を要求し、霊を祓う霊能力者だ。

そしてその大蓮寺が近くにいる銀髪の男に対し、気さくに肩を叩いている。


「大蓮寺さん、まだ油断しない方がよいと思います」

「分かっておるよ、我が弟子、礼土。まだ悪霊の気配が完全に消えておらん。努々油断しない事だ。あとワシのことは京慈郎と呼べ。ワシは認めた奴には名前を呼ぶことを許しておるのだ」


 京滋郎に肩を叩かれ、乾いた笑いをする礼土は思った。

何でこんなことになってんの? と。


これは遡る事、数日前の話。





「いやーマジで、れーちゃんのお陰で肩ちょーかるいよ」

「そうかい、なら良かった」


 先日、武人の依頼を終えて、振り込まれた300万円を見て少し懐が暖かくなってきた。

当然この金額は全額使えるわけではない。税金が引かれ、事務所の家賃が引かれ、水道光熱費なんかも引かれていく。

まぁそれでもそこそこ良い金額は手元に残るのだが、無駄遣いはできないだろう。

しかし漫画は無駄使いではない。

そう、無駄ではないのだ。


「れーちゃん、イケメンだしさ、今度お店きてよー!」

「ははは、じゃ今度遊びに行こうかな」


 ちなみに今目の前にいるのは、新しいお客さんだ。

名前はミサキといい、何やら男性客を楽しくもてなす場所で働いているそうだ。

ちなみに依頼内容は非常に軽く、最近肩が重いという内容だった。

気配を探るとこのミサキという子の肩に小さい霊がついていたため、祓う振りしてデコピンで退治した。

その後、やたらカラフルな名刺も貰った。そこにはキャバクラと書いてある。

知らない漫画喫茶のようだ。

後で検索してみようかな。


「いやぁ、店に結構さ、憑いてる子多いから今度ここ紹介してもいい?」

「え? そんなに多いの?」

「うん、ちょーおおいよ。アタシ霊感在るんだけど、結構いるんだよねぇ。一応塩撒いたり、YooTubeでお経の動画流したりして急場は凌いでいるんだけど、流石にねぇ?」


 え? そんな動画まであんのか、すげぇな。

あの世界にネットが流行っていたら今頃聖女の説法とか録画されて、垂れ流しされてたりすのだろうか。

まぁ絶対みないがな。


「ふぅん、大変だね。まぁいつでも来てよ」

「ありがとー! はい、これ謝礼」


 そうして、鞄から財布を取り出し2万円を差し出してくる。

流石にゴブリン以下の霊に20万も取れないから、適当に2万円と伝えた。

どうやら納得してくれたようでその金額で快諾してくれたのだ。



 最近はSNSで宣伝してから割りと依頼がくるようになった。

当然いたずらの類や、本人の気のせいという場合も多くある。

いたずらの場合は、基本無視。霊でも何でもない完全な気のせいというパターンの人には合理主義女(せいじょ)御用達のハッタリ魔法を使ってそれっぽい雰囲気を作ると勝手に納得してくれた。

そうして、お昼のピザの配達を待っていたときだ。


 ピンポーン



 チャイムがなった。

おぉピザかな。今日はいつも頼んでいるドミノンピザの宅配だ。

いつもローテーションで回しているのだが、どの店も特徴が違い中々美味い。

最近はピザを食べる、漫画を読む、というルーティーンで生活している。

後は偶に依頼をこなす感じだ。



 財布を取り出し、玄関へ行く。

インターホンで玄関の前を映像で見れるのだが、よくわからないので使っていない。

いつも栞か利奈がいるときはそういった使っているのだが、今日はどちらも予定があるため不在だ。

まぁ俺くらいになれば扉の向こうの気配を察知するなど造作もない事だ。

相手は一人、気配から察するに素人だ。

問題はない。

そもそもインターホンは不審者を事前に察知するための代物なのだろう。

ならば俺には不要だ。

相手がどんな化け物であろうとも、容易に消し去ることだって可能なのだ。

まぁ今回はピザの配達人だろうがね。





 玄関まで移動し、鍵を開け、扉を開ける。





「こんにちは、勇実さん。事前の連絡もなく、来てしまい申し訳ありません。あ、こちらお勧めのコーヒー豆です」




 田嶋ァァァァ!?



 なぜ、奴がここにいる。

しかも、またコーヒーだと?

くそ、まさか今更、珠ハイツのガラスを割った請求に?

いや、報復か!?

まずい、どうすればいい。どうすれば俺は生き残れる?

また、あの闇と対峙するはめになるとは思ってもみなかった。

おのれ、俺が光の元勇者だと知ってわざとやってないか!?



「あ、あぁ、田嶋さんですか、どうされましたか?」



 精一杯のポーカーフェイスを作り、額から流れる汗を自然に拭う。

言葉は上ずっていないだろうか。

自然な表情を作れているだろうか。

そんな事をばかりを考えていると、田嶋の後ろにまた人影が見えた。

えぇい誰だ!?

お隣さんなのか!?


 そう思ってみてみると、俺が待ちに待っていたピザの配達人だった。

俺が何度も頼んでいるためだろう。

アレは顔見知りの兄ちゃんだ。


「あ、勇実さん! お待たせしました!」

「……おや、勇実さん、依頼人の方ですか?」


 田嶋ァァ、わざとか? 

どうみてもピザの配達の兄ちゃんだろうが!

というか、君も空気読んでよ、何会話に混ざろうとしてんのよ。


「――あれは、俺がお昼に頼んでいた、ピザです。田嶋さん、お昼まだなら一緒にどうですか?」

「……あぁ、そうでしたか。――間が悪かったようで申し訳ないですね」


 田嶋の顔は無表情のままだ。だが俺にはわかる。

こいつ絶対心の中で笑ってやがる。

くそ、やるな田嶋。俺に二度も土をつけるとは、魔王以上だぞ。



「……はぁ。とりあえず、田嶋さん。中にどうぞ。――えぇーっと1万円でいいですか?」


 田嶋を中に入れ、ピザの会計を済ませる。

胃袋を刺激する最高の匂いを嗅ぎながら、手元のピザを泣く泣くキッチンへ置く。

そして、リビングに先にいる田嶋の下へ移動した。

さて、ここからは心を強く持たなくてはならない。

どんな用件なんだ?

やはりガラス代の請求か?




「それで、田嶋さん。今日はどういう用件で?」

「ああ、その話の前に、よろしければこれを」


 そういって田嶋は手に持っている箱を差し出してきた。

漆黒の闇、奈落の底、深淵より来るモノ。




 コーヒー豆だ。



 おのれ今その闇の果実を持ってくるとはッ!

嫌味か、貴様ッ!?

この事務所でコーヒーを飲むのは利奈だけだ。

まぁ流石にブラックではなく、ミルクなどを入れて多少甘くして飲むのが好きなのだそうだが、それでも俺にはその好みがさっぱり分からない。紅茶の方が美味いと思うのだが、まぁその辺は人それぞれだろう。

結論としてはそれぞれが自分の好きな物を飲むのが良いのだ。

だというのに、この男は俺にコーヒーばかり進めてくる。

くそ、一度見栄を張った以上、後に引くことは出来ない。

後でまたチョコボールを大量に食べて中和するしかないようだ。


「あ、ああ。ありがとうございます。以前いただいた豆も美味しかったので、楽しみです」


 まぁ俺は飲んでないがな。


「それは良かった。――さて、アポなしで来たのは本当に申し訳ありませんでした。実はですね――」


 ソファーに座る田嶋がいつも以上に真剣な様子でこうつぶやいた。



「勇実さんに依頼をしたいのです。ただ、少々厄介な話でして……」

「――へぇ、それはそれは」


 あの田嶋が厄介だと言うのだ。

正直興味がある。先日戦った猿も思ったより強くなかったからな。

ちょっと退屈していた所だ。

思わず笑みがこぼれそうなのをこらえる。



「詳しく聞かせて下さい」



 

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