第12話 約束されし聖戦
俺と99人の幼児は、最初の見学場所へと移動していた。
ヒナタちゃん達を始めとした
第十支部は通路までものが広く、150人近い大所帯が歩いていても狭苦しい感じがしない。
「この第十支部は実は新しく作られた支部だって、みんなは知ってる?」
先頭を歩くメイド服の女性が、子供達に問いかけた。
「知ってるー!」
「ママが言ってたー」
聞かれた子供達は随分と気楽に答えている。
あまり緊張していないのは高揚感と、先導する彼女の醸しだす気安い雰囲気のおかげだろう。
「うんうん。みんな覚えてて偉いねー」
信藤イサナ。
当然ながら、俺は彼女のことを知っていた。
『わたゆめ』一巻よりレギュラー出演している、主人公ペアの上役である。
先程さらっと自己紹介をしていたが、第十支部の副支部長。
子供達にはあまり凄さが伝わってないみたいだが、ヤバい。
普通に超お偉いさんです。
その癖の強いキャラとごく稀に見せる鋭い表情のギャップにやられた読者は数知れず。
戦闘シーンの描写がないにも関わらず、人気投票ではTOP10入りを果たしていた猛者でもある。
ちなみに、なぜメイド服を着ているのかはワカラナイ。
原作でも、初対面の時にヒナタちゃんが疑問を抱いたきり触れられていない。
しかし分かるな?
オタクに、メイド服が嫌いな奴はいない(断言)
つまり俺も大好きでーす!!!
いやぁ、立ち位置がね? 美味しすぎるでしょ。
さっきから定期的に俺と目が合うけど、その度にこっちは「キャー! 目があったあああ!!」ってなってる。
絶対勘違いじゃない。俺と目があった。
あ──きゃああああ! また目が合った!!
「───ッ!?」
なんか得体の知れないものを見るような目を向けられてる気がするけど、まあ、幼児集団の中に成人男性一人いたら、そりゃやりづらいよね。
「じゃ、じゃあ、この支部がいつできたか知っている子はいるかな?」
彼女は一瞬で視線を逸らすと、目線を下げて子供達を見た。
俺を視界に入れないようにしてるわけじゃなくて、幼児ズに語りかけるためだろう。
「10年!」
「お、知ってる子がいるねー」
「テレビで見た!」
「覚えてて偉い! そう、日本中に56ある【
その言葉に前を見る。
通路の壁には、この先に何があるか書かれており──、
「『訓練場』……?」
トンネルの出口みたいに、その先は大きくひらけていた。
イサナさんは腕を広げて振り返る。
「一番新しい──つまり、設備が超良いのです!」
騒がしくしていた子供達が言葉を失い、──そのあとでワッと弾ける。
俺たちの目の前には、炎の靡く地、小さな湖、ちょっとした森。
その他諸々、建物の中とは思えない光景が広がっていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎
(もういいや、アイツに害とかないだろ)
訓練場までの案内を終えて、イサナはため息をついた。
ここまで〈
(むしろ頭んなか覗き見てる方が害だわ)
まったく意味がわからない。
なんで自分のファンみたいな思考回路してるんだ。
こっちは表に顔を出すことすらないのに。
アレか、メイド服か。
と、全く気の抜ける推測ばかりが脳内を駆け巡っていく。
緊張感が保てないので、〈
とりあえずは──自分の担当に集中することに決める。
「シンドウ」
「お待たせしました、ブルートローゼ様」
はしゃぐ見学者集団を部下たちに任せて離れると、あらかじめ訓練場に案内済みだった金持ち集団──失礼、パトロンのお歴々達が自分の所へやってきた。
彼女達を率いてくるのは死の商人、ローゼリア・C・ブルートローゼだ。
「構わん、こちらも与えた金の使い道が分かって一安心したよ」
彼女は訓練場を流し見た。
それでも、世界一の商人として名高いローゼリアにとっては端金だろう。
一安心とは笑わせてくれる、という皮肉をイサナは噛み殺した。
「この前の襲撃以降、
「それはどうも、ご心配おかけして申し訳ありません」
「いやいや」
ローゼリアは口角を上げる。
互いの本心は互いに筒抜けだろう。
イサナは本腰を入れる覚悟を決めた。
(さぁて、弱みにつけ込みにきた狸と化かし合うとするかね)
子供達(+α)とは別行動で移動する。
「………?」
訓練場からの去り際、ローゼリアの護衛が見学者一行をジッと見ていることに気づく。
彼女はすぐに視線を逸らし、その鋭い目とイサナの視線が交差した。
「どうした、シンドウ」
「──いえ」
ローゼリアに尋ねられ、イサナは視線を切って案内へと戻った。
♦︎♢♦︎♢♦︎
訓練場の端で、
「うむ、これはすごいな」
ツクモがフィールドを見回して頷いていた。
俺は技術担当に言う。
「君から見てもすごいんだ」
「特に金の掛け方がな。
のほほんと辺りを見回すツクモ。
頭の中では色々と計算をしているのだろう。
「我なら
「なるほど」
見た目と普段の言動はそこらへんにいるチビっこ達と変わらないが、やはりこういう所は凄いなと思う。
「はーい、それでは危なくない範囲で皆にも見学してもらおうと思います!」
いつの間にかイサナさんはいなくなっており、代わりに朗らかな
「お友達と来た人はお友達と一緒になってもらえるかなー?」
「!?」
突如として襲いかかる
これは──"体育の時間に二人組を作ってください感"だ……ッ!
やめてくれ……その言葉は、ことごとく男子にハブられてきた俺に効く……。
しかし、今日の俺を舐めるなよ。
今日の俺にはツクモという心強い仲間がいるのだ!
「?」
自信満々に見ると、ツクモがこてんと首を傾げた。
なんか可愛かったので撫でておく。
今日は元々、2人から3人組での申し込みのみとなっている。
1人ずつでバラバラに動かれると面倒だからだろう、とツクモとのペアチケットを渡してきた〈
「それじゃあ、それぞれのグループにこれから担当の
やったー! とか、誰々が良いー! みたいな声があちこちで響く中、天使たちが散らばっていく。
俺たちの所に来たのは、
「お兄さんっ」
小走りで近づいてくる天使。
「ヒナタちゃん!」
──と、その後ろで刺すような視線を寄越す雨剣ルイ。
「…………」
今日は、彼女と俺の戦いでもある。
俺が腹を括っていると、袖が横から引かれた。
「この
「…………」
やべえ、考えてなかった。
いや普通に話せばいいか? と頭を高速で回す最中、ツクモが俺の言いつけ通りの呼び方をした。
「──兄様」
「は?」
ヒナタちゃんの瞳が消灯した。