第16話 ヒナタちゃんを愛で隊
ウワー!なぜか昨日のpv、ブクマ、評価が跳ね上がってる!本当にありがとうございます!!
俺の対面に座るルイは、見惚れてしまうほどに勇ましく柳眉を上げた。
「否定できない状況で、ヒナの目を覚ましてみせる」
……あっれー!?
とりあえず場を逃れたと思ったら、さっきより恨み辛みが上乗せされてる!?
「正体をバラさないで」と「君たちをどうこうするつもりはないよ」しか言ってないんだけど!?
まずいぞ。この場だけは凌げたけど、この場しか凌げてない……。
「い、いや、あのね?」
「五月蝿い黙れ」
「ちょっと待って、誤解がありそうな──」
「その胡散臭い口を閉じろ」
俺の弁明をルイが拒絶する流れが続こうかという、その時。
「あのぅ……」
テーブルの横から控えめに声がかけられ、俺たちは秒で黙る。
ヒナタちゃんは困ったように眉を下げた。
「仲良く、できませんか?」
「「ううん、すっごく仲良し(だ)よ??」」
その場に笑顔の花が咲いた。
造花である。
すれ違いまくっているが、俺たちの最優先事項はヒナタちゃんを笑顔にすることで相違ないので、これからも造花は咲き乱れる予定。
そのうち俺とルイで造花のフラワーショップとかできるようになるかもね……ははは……。
「そ、そうですか……?」
同時に向けられた作り笑いに、ヒナタちゃんはやや引き気味に応えて席に座った。
「────」
その際、彼女が置いたトレーの上に目が吸い寄せられる。
ラーメン、チャーハン、カツ丼、ハンバーガー……文字通り山盛りだった。
「たんすいかぶつ……」
「え? ──あっ!」
俺の目線を追ったヒナタちゃんは、自身の昼食ラインナップを見て「しまった!」という表情をした。うちの推し、表情が分かりやすい。
「え、えっと、これは違くて……! ふ、二人の分も買ってきたんですよ!」
わたわたと言い訳をする親友を見て、ルイがフードの奥でキラリと目を輝かせる。
「──いいえ、それは嘘よ」
「ルイちゃんっ!?」
背後から刺されたヒナタちゃんはびっくり。
「普段はもっと多い量を一人で食べているもの」
「ルイちゃんってば! ……え、えへへ、違うんですよ、お兄さん」
卑屈っぽく笑いながら、弁明しようとする食いしん坊天使。
ルイはその後ろで、挑発的な微笑みを浮かべていた。
それを見て気付く。
──こいつ、俺のフォローミスを誘っていやがる……!
これで俺が下手なことを言えば、ヒナタちゃんの俺への好感度が下がると踏んでいるのだろう。
なんてこすっからい正義のヒロインなんだ……。
──だが、このヒナタちゃんオタクを舐めるなよ?
「大丈夫、ヒナタちゃん」
俺はなんでもないように笑いかける。
「ふぇ……?」
「いっぱい食べる子って、すごく魅力的だよ? 美味しそうに食べてる様子を見てるだけで、こっちも嬉しくなっちゃうくらい」
「……ほんとですか?」
「うん」
少しは落ち着いた様子のヒナタちゃんに、「それに」と言って言葉を続ける。
「ヒナタちゃんのそれ、
「───!」
ヒナタちゃんだけじゃない。ルイまでもが目を丸くしていた。
「昔はそんなに食べる子じゃなかったし、さっきル……
──なんて、早口に語ってみたけど、元々知っているだけです……。
それを知る由もない彼女たちにはそれなりに驚きだったらしい。
「すごい、その通りです……」
「…………」
ヒナタちゃんは誤解がなかったことに安堵の表情を浮かべ、ルイは端正な顔を憎々しげに歪める。
場の気勢が削がれた所で、今だとばかりに立ち上がった。
「じゃ、俺もなんか買ってくるね」
店のラインナップを確認しながら、頭では別のことを考える。
ヒナタちゃんの
俺と同じで、促成展開型。
つまりヒナタちゃんなら、《加速》を使えば使うほど飢餓感が強くなり、早く満たさなければ一層それは増していく。
女の子的には堪ったものではない
しかし、オタクにとって食いしん坊属性は萌え要素でしかないんだ……!
「
畏敬の念に震えながら、昼食を買って席に戻る。
ルイは手早く購入を済ませたようで、彼女の前には既にハンバーガーの乗ったトレーが置かれていた。
各々が食事を口にしはじめた時、ホール中央の巨大スクリーンから声が響く。
『次のコーナーは、
『今週もやってきましたねー。楽しみです!』
ちら、と横目で見れば、画面に流れているのはニュース番組のようだった。
喋っているのは数人のイケメンアナウンサーたちだ。
男性はこうして
テレビを見ないとはいえ、さすがにそれくらいは知っている。
気になったのはそこではなく、彼らが発した「エンジェルオーダー」なる単語だ。
俺の予想が正しければ──。
『このコーナーでは、今週の活躍が目覚ましかった
──やっぱり!
今週のスポーツ名場面、的な感覚なのだろう。
「こんなコーナーやってるんだね」
「ああ、お兄さんはテレビ見ないから知りませんよね」
ルイは興味なさげにしていたが、ヒナタちゃんが教えてくれる。
「【
事件のドローン中継しかり、天使たちの情報は意外と出回っている。
彼女たちは正義のヒロインとして平和の象徴となると同時に、アスリートと同じように人々の憧れとしても扱われているのだ。
こうしたメディア戦略の甲斐あってか、小・中学生女子のなりたい職業ランキング一位はぶっちぎりで
ヒナタちゃんは口にしなかったが、次代の英雄の卵をかき集める狙いもあるのだろう。
『まずは次代を担う新人たちの中から、優秀な戦績を誇る守護者を見ていきましょう』
そうして画面に映し出されたのは───、
「ひゃわっ!?」
そうです! うちの推し!
「うおおっ」
「当然ね」
テンションが上がりまくる俺に、分かっていたとばかりにクールなルイ。
ヒナタちゃんは顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
『傍陽ヒナタ隊員は今週から第十支部に配属された期待のルーキーです』
『今週から配属なのに、もう実戦に参加しているんですか!?』
『そうなんですよ。
『歴代一位タイというと、数ヶ月前に入隊した
『はい。しかも二人は幼馴染でもあるらしく、さっそく今週からバディを組んでいるそうですよ』
『はぁー。歴代トップの逸材ペアということですね』
『最近、【
アナウンサー同士の軽快な会話が続くたび、ヒナタちゃんはみるみる羞恥に縮こまっていった。
かわいい。
ルイは、ヒナタちゃんとのペアがどうこうという部分で、これみよがしなドヤ顔を送ってきた。
うざい。
『今週の戦績も凄まじいもので、八つの事件を既に解決していますね』
『八つ!? 一日一件以上じゃないですか!』
『ええ、彼女の
俺とヒナタちゃんの戦い(と呼んでいいのかは謎だが)から既に六日が過ぎている。
ということは、あれからヒナタちゃんは一度も失態を見せていないのだろう。
俺が出鼻を挫いてしまったが、立ち直れている様子にひと安心する。
『さて、それではルーキー紹介はここまでにしまして……』
次に画面に映ったのは、銀色の髪の少女だった。
いや、少女ではなく、女性と呼ぶべきか。
背には弓を背負い、片手には無造作に
「
呟いたのは、ヒナタちゃんだった。
──傍陽ヒナタには、二人の憧れがいる。
一人はかつて犯罪事件に巻き込まれた自分を救ってくれた【
そしてもう一人の憧れこそ、
同じ第十支部に所属する銀色の
寡黙かつ神出鬼没な夜乙女リンネについては、原作でもほとんど描かれていない。
だから俺も詳しくは知らない。
けれど、ヒナタちゃんが彼女に抱く熱のことは、俺もよく知っていた。
おそらくはルイも知っているのだろう。
嫉妬からか、少しだけ不満そうにしていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「それじゃあ、午後も楽しみましょうか!」
ヒナタちゃんが元気よく席を立った。
午後の予定は特に決めていない。
服はあらかた見終えたので、気に入ったものを買って、アクセサリーなんかも見て回ってみるか。
あるいは併設の映画館に面白いものがやっているかもしれない。
──そんなふうに、和やかに会話が弾んでいるときに、それは起こった。
爆発音。
次いで、豪風。
「なっ、なんだっ!?」
先ほどまで
「ヒナ──っ!」
「……っ、うんっ」
天使二人が、いち早く身構える。
それを見て、遅れて俺も事態を悟った。
事故か、それとも襲撃か。
それは、ホール中央の白煙が晴れて明らかになる。
「はっはァー! やっぱ襲撃っつーのは派手じゃなきゃあ、やりがいがねェよな!!」
その巨体には見覚えがあった。
【
彼は正体を隠すつもりもないのか、黒のローブも羽織らずに大笑していた。
その周りには彼の部下らしき構成員たちが十人ほど立っている。
「数が多いですね……、──お兄さん、逃げてください」
「っ、ヒナタちゃんたちは!?」
「分かり切ったことを聞くんじゃないわ」
誰よりも
こちらを
ルイの台詞を、ヒナタちゃんが──
「ここにいる人たちを、守ります」