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試し撃ち2

 商品を受取り、店主さんに深々と礼をされながら見送られる。まだ鼻の中にチョコレートの良い匂いが残っている。お土産を食べるのが楽しみだ。


「次はお目当ての魔法粉を買いに行くぞ」


 噴水広場を抜け、少し細い路地に入って行く。


「この辺りは魔法関係の本や道具を扱っている店が集まっている。俺の知り合いの店に行くぞ」


 トウマと一緒に見回していると黒猫の黄色い目とぶつかる。赤い石がゆらゆらと揺れる首輪をしていて、この町の雰囲気とよく合っている。ダーク様を見上げると「ニャー」と小さく鳴き、案内するように歩き始める。


「迎えに来てくれたのか?」


 ダーク様が撫でると甘えるように頭を手に擦り付けている。知り合いなのかもしれない。


 猫に先導して貰いながら路地を進んで行き、ピタリと止まった所にある店のドアが開かれる。


「貴方はいつも急に来ますね。たまには連絡を寄越して下さい」

「さっき来ようと思ったばかりだから無理だな。邪魔するぞ」


 苦笑している男の人に促されて店に入ると様々な材料が入った瓶が所狭しと置かれている。


「相変わらず良い品揃えだな、タオ」

「ありがとうございます。今日は何がご入用で?」

「魔法粉を貰えるか? 火・水・風・土あたりでいいか。量はこの瓶くらいでいいぞ」

「はい、畏まりました。少々、お待ち下さい」


 今の内に店内を見てみよう。……この黒くてシワシワな物は何だ?


「トウマ、これが何か分かるか?」

「しなびたリンゴか?」


 俺達の言葉にタオさんが勢いよく振り返る。


「君達、それが何か知らないの⁉ しなびたリンゴだなんて酷すぎる! これはね、万年雪の山で育った木の実で、食べれば極寒の中でもずっと体がぽかぽかする素晴らしいものなんだよ!」


 これを食べる? 相当な勇気と丈夫な歯が要りそうだ。


「これは幾らするのですか?」

「売らないよ。僕の大事なコレクションだからね」


 質問したトウマが微妙な顔で俺を見る。ここは店じゃないのだろうか? もしかして、全部コレクション?


「こいつは闇の城に勤めていた魔法使いだったんだが、こういう物を扱う店を開きたいと辞めたんだ。ここにあるのはほぼコレクションで、見せびらかしたいんだとさ。実際に使う物とかは倉庫にあるぞ」


 恰好良い武器を手に入れて自慢するのと同じ感じだろうか? 他にも気になる物が沢山あるが、触ると怒られそうなので目に焼き付けておく。城に帰ったら図鑑で調べてみよう。


「ご用意できましたよ。これは何に使うのですか?」

「新しい魔法の武器を手に入れたから試し撃ちをするんだ」


 カウンターから身を乗り出したタオさんが、ガシッとダーク様の手を握る。


「是非、僕も参加させて下さい! あー、楽しみだ!」

「おい、離せ。離せと――言って、いる――だろっ!」


 逃がすまいと物凄い力が加えられているらしく、手を引き抜けない。びくともしないのに嫌気がさしたのか、ダーク様が深々と溜息を吐く。


「はぁ……分かった。その代わり魔法粉をタダにしろ。それと、他にも色々と寄越せ」

「はいっ。待っていて下さいよ? 色々な魔法粉を持ってきます。いやっほーい!」


 嬉しそうに叫ぶと店の奥に走って行く。疲れた目で見送ったダーク様が俺を抱き上げる。


「……癒される」


 大人しく頬擦りされていると店の奥から大きなリュックを背負ってタオさんが戻って来た。


「さぁ、行こう! 楽しい楽しい実験の始まりだー!」


 グイグイと背中を押されて店の外に出されてしまう。がちゃんと鍵をかけると満面の笑みで振り向く。店はいいのだろうか?


「そのうち潰れるぞ」

「大丈夫ですよ。熱心なお客様が多いですから。さぁ、行きましょう!」


 トウマをさっと抱き上げるとダーク様を置いて城に走って行く。


「ちょ、離せっ! おい、聞いて――⁉」


 可哀想なトウマをダーク様と見送る。やれやれと頭を振ったダーク様が移動の魔法で城に飛んだ。



「成程、この弾に詰めてから武器にセットし撃ち出すと。実に面白いですね! 早速、撃ってみましょう」


 すっかり主導権はあの人に移ってしまったようだ。ぼんやり見ていると腕をつつかれる。


「ヴァンちゃん、あの人は誰?」

「ダーク様の知り合いで魔法粉を売ってくれた店の人」

「そうなんだ。ダークが諦めの境地に達している気がするんだけど……」


 カハルちゃんと俺を抱っこしたダーク様は壁に寄りかかって座り、目の前の光景を無表情で見ている。彫像のようにピクリとも動かないダーク様が心配になって、カハルちゃんと一緒に目の前で手を振る。


「――ん? 何だ?」


 良かった、反応した。


「ああなったら、完全に満足するまで手放さないぞ。はぁ……。他の店にしておけば良かった……」


 カハルちゃんがダーク様の頬をよしよしと撫でてあげている。表情が柔らかくなったところでカハルちゃんの手に武器が現れる。


「それ強そう。どうやって使う?」

「これは機関銃だよ。トウマ君にあげた銃の仲間で連続して撃てるよ」


 一つずつ違う魔法にしようと言いながら、次々と弾に魔法を込めている。


「あっちで試そうね」


 ダーク様も楽しくなってきたのか、いつものニヤリとした笑みを浮かべる。


「何か的があるといいんだけど……。結界を作って撃てばいいかな」


 空中に一辺が一メートル位の黄緑色の四角い結界が浮かぶ。ワクワクしながら見ているとニコが走り寄って来た。


「それ何ですか⁉ 僕も混ぜて下さい!」


 嬉しそうに頷いたカハルちゃんを地面に降ろして、ダーク様がニコと俺を抱き上げる。


「大人しく見ていろよ。あれは強力だからな。カハル、いいぞ」

「了解。いくよー」


 カハルちゃんが引き金を引くと弾が次々と撃ち出され、結界の中で幾つもの魔法が弾ける。巨大な炎の球がバケツを引っくり返したような水で消され、水蒸気が結界内を満たす。その中を稲妻がバリバリと走り、強烈な竜巻が吹き荒れる。結界内の現象が全て終わると部屋の中も静まり返っていた。一拍置いて歓声が上がる。


「凄い、凄い! 今の見た⁉ 魔法がぶわーってなったよ」

「見た見た! 炎の球がぐわっと出てばしゃーんって消されて――」


 興奮している仲間達の会話は擬音だらけだ。その様子をニコニコと見ているカハルちゃんの元にタオさんが走り寄って来て手を握ろうとする。そこへダーク様が眉を顰めて足払いをかけた。盛大に転んでも、めげずに這い寄って来る姿に怯えたカハルちゃんがダーク様の後ろに隠れる。


「おい、近付くな。怯えているだろうが」


 苛立たし気に頭を鷲掴みにされて悲鳴を上げている。


「痛い痛い痛い! これ以上は近付きませんから!」


 乱暴に投げ出されて地面と仲良くしている。警戒しながらカハルちゃんをぎゅっと抱きしめてあげると、安心したのか体から力が抜けていく。


「ねぇ、その武器見せて? お礼に魔法粉をあげるから。ね?」

「いるか! 話し掛けるな、視界に入るな、今すぐ帰れ」


 とうとうダーク様の堪忍袋の緒が切れたか? ニコに聞いてみようと視線を向けると、こちらも膨れっ面をしている。


「カハルちゃんを怯えさせるなんて言語道断です! 今すぐ帰って下さい!」


 言うだけでなく服をグイグイと引っ張っている。


 混沌とした状態の中にマシュマロの袋を手にした将軍さんがやって来た。


「……ふむ」


 一つ頷くと、叫ぶタオさんの襟首を掴んで引き摺りながら部屋を出て行く。


「…………」


 全員が無言で見送る。ダーク様が一つ咳払いをしてから口を開く。


「いつもはあんな風じゃないぞ。魔法が関わると人が変わるというかだな……。はぁ、何で俺が弁明しなきゃならないんだ……。あー、トウマの武器もカハルがさっき見せてくれたような状態を作りだせる。よく注意して結界内に向けて撃つといい。それと、チョコレートを買ってきたから食べてくれ。以上だ」


 はしゃぐ仲間達を暫く見てから、ダーク様が執務室に戻って行く。背中に哀愁が漂っていて不憫だ。癒し要員であるカハルちゃんを後で連れて行ってあげよう。


お読み頂き、ありがとうございます。

次の更新は本編に戻る予定です。

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