試し撃ち1
トウマのスキップを初めて見た。よっぽど嬉しかったのだなと、目の前を通って行くのを見送る。少し進んだ所でピタッと止まり、凄い勢いで戻って来た。忘れ物か?
「ヴァン、今のは見なかった事にしてくれ。頼む!」
「何かまずい事でもあるのか? 嬉しかったのだろう?」
「あー、ヴァンで良かった……。他の奴だったら、いつまで揶揄われるか分かったもんじゃないぜ……」
座り込むトウマに合わせて、目の前にしゃがむ。
「それ、恰好良いな」
「だろう! オレンジの宝石を埋め込んでくれたんだ。握ると手に吸い付くみたいな感じがする。こんな凄い武器をポンとくれるなんて、まだ信じられねぇよ」
大事そうに貰った武器を撫でている。
「これ、なんていう武器だ?」
「拳銃って言ってたぞ。フォルタルで作った弾もいっぱい貰ったんだ。本当は魔力を弾丸として打ち出すらしいんだけど、俺はそこまで魔力がないからさ」
カハルちゃんなら弾切れなんてしなそうだけど、俺達ではたかが知れている。弾丸を見ると中に空洞がある。これでいいものなのか?
「なぁ、この空洞は何だ?」
「それはな、魔法粉を詰めるんだと。これから、ダーク様に頂いて試してみようかと思ってさ」
「俺も一緒にやらせて欲しい」
「おう。お前が一緒にやってくれるなら心強いぜ。じゃあ、頼みに行くか」
「うむ」
「ヴァンです。ダーク様、いらっしゃいますか?」
「いいぞ、入って来い」
執務室に入ると頬杖をついてダーク様がこちらを見ている。
「鏡の魔物に変化があったのか?」
「違います。カハルちゃんに貰った新しい武器を試したいのでご相談に来ました」
「楽しそうだな。仕事も一段落した所だから俺も混ぜろ」
トウマはまだガチガチに緊張しているので俺が代わりに話すか。ダーク様はそんなに構えなくても大丈夫な人なんだが、まだ日が浅いから仕方ないな。
「トウマが作って貰った『拳銃』という武器で、弾丸は通常だと魔力を使用するらしいです。でも、俺達は魔力が少ないのでフォルタルで作った弾を使えばいいとの事です。こちらをご覧下さい」
「穴が開いているな。もしかして、魔法粉を詰められるのか?」
「はい。練習したいのですが、分けて頂く事は出来ますか?」
「いいぞ。そのかわり俺にも使わせろ。トウマ、いいか?」
「は、はい。お使い下さい」
「よし、行くぞ。付いて来い」
颯爽と歩き出すダーク様の後ろを小走りで付いて行くと、トウマが感激した様に話し掛けて来る。
「凄いな。俺の名前も姿もちゃんと覚えてくれていたぞ。それに、あっさり許可も出してくれたな」
「うむ。恰好良い方」
「だな。なんで皆が仕えたがるか分かった気がする」
憧れの眼差しで付いて行くトウマを微笑ましく思いながら進んで行くと倉庫に辿り着く。
「お疲れ。魔法粉を持ち出したいんだが、いいか?」
「お疲れ様です。ルキア様の許可証はございますか?」
「ああ、そういえば必要だったな。悪い、邪魔したな」
「いえ。魔法粉はよろしいのですか?」
「他から調達する事にした。じゃあな」
敬礼して見送ってくれる兵士さんに頭を下げてダーク様の後を付いて行く。どこで調達する気なのだろう?
「――よし、町に買いに行くぞ」
俺達を抱き上げると門に向かって行く。町に行く事は初めてなので非常に楽しみだ。
「えっ、ダーク様⁉ お、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。通るぞ。ルキアに出掛けると伝えておいてくれ」
「は、はい。いってらっしゃいませ」
頷きで応えると足早に歩き出す。門番さんがびっくりしていたな。まぁ、無理もない。ここは王様がすたすた歩いて出て行く場所じゃないもんな。
外に出ると昼間とは思えない暗さだった。急に夜が訪れたようで不思議な気持ちになる。トウマも驚いたのかキョロキョロと辺りを見回している。
「そういえば、城の外に出たのは初めてか?」
「はい。城の中は多少、移動もしていたのですが」
「そうか。では、少し案内してやろう」
昼間から街灯が輝き、黒い洋服を着ている人が多い所為か少し不気味に感じる。
「黒い服を着た人たちが多いですね」
「そうだろう。この国の者達は昔から黒を好む。そういう俺も全身黒ずくめだがな」
確かに黒以外を着ている所を見た事がない。非常に似合っているが、たまには違う姿も見てみたい気がする。
「他の特徴としては装飾品や香水を扱っている店が多いな。それと菓子屋が多い」
確かに甘い匂いが漂ってきている。クンクン嗅いでいるとダーク様に笑われてしまった。
「少し土産に買っていくか。あの店のチョコレートは美味いと有名だ」
カランカランとドアベルを鳴らして入ると、店内に居た女性たちが一斉に振り向く。女性率が高いなと思って見ていると店主が慌てて飛び出してきた。
「よくお越し下さりました。どうぞ奥へ」
「すまんな。邪魔するぞ」
本当は普通に選ぶつもりだったのだろう。女性達のまとわりつく様な視線と抑えているつもりの声がなければ。
「誰、あのカッコイイ人!」
「ねぇ、声を掛けてみない?」
「きゃー、素敵! こっちを見てくれないかしら?」
「モフモフ可愛い!」
一部、俺達を見ている人も居るようだ。トウマに目を向けると冷めた視線で周りを見やっている。本当に冷静な奴だ。
「こちらへ商品をお持ちしますのでお選び下さい」
「ああ、悪いな。お前達、リクエストはあるか?」
「ナッツ入りが欲しいです」
「了解。トウマは?」
遠慮しているトウマをダーク様が撫でる。
「俺のルールをよく覚えろ。遠慮はするな。言いたい事はちゃんと言え。我慢し続けるな。頼れ。大体こんな物か? 破った場合はくすぐりの刑に処す。分かったか?」
冗談なのか本気なのかの判断がつかないトウマが俺を見る。
「素直が一番」
「そうだ。トウマ、もう一度聞く。何が欲しい?」
「……サクランボをチョコで包んだやつが好きです」
「店主、あるか?」
「はい、どちらもご用意出来ます。おいくつお持ち致しましょう?」
「そうだな……。白族はトウマを入れて十三人。後はルキアにもやるか。それぞれ十四個ずつ貰えるか?」
「ん? ダーク様の分が無い?」
「いや、俺は甘い物が得意じゃない。なのに、なぜだか毎年、菓子コンクールの審査委員長をやらされる」
心底うんざり顔で言っている。よっぽど堪えているんだな。ニコだったら大喜びで頬張っているだろう。
「ははは。それはダーク様が慕われているからです。それに、非常に繊細な舌をお持ちですから。隠し味まで全て当ててしまう様な方はダーク様以外にはおられません。真に味の分かる方にこそ審査をして頂きたいと私どもは思っております」
「こう言われて、いつも丸め込まれる。そして、お礼に貰える菓子を目当てに城の女性陣からの圧が凄すぎる。今年こそはルキアを生贄に差し出すぞ」
成程、ダーク様も苦労されているのだな。だが、俺の予想通り店主さんが断りを入れる。
「ルキア様も大変素晴らしい舌をお持ちですが、少食過ぎます。審査員は厳しいのではないかと……」
やっぱり。顎に手を当ててダーク様が必死に考えているが、最後には諦めて溜息を吐く。
「はぁ……。商品を持って来て貰えるか?」
「はい、すぐにご用意致します」