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シッポラインダンス

「ヴァンちゃん達、ダンスをするって言っていたよね。見せて欲しいなぁ」

「ん。一番得意なのはラインダンス」

「えっ、凄いね! どこで覚えたの?」

「あれは、確か――」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺達は休み時間に体を動かす事が多い。最初は柔軟体操などをよくしていたが徐々に飽きがくる。何か良いアイディアが無いものか?


「ヴァン、腕組んでどうしたの? 悩み事?」

「うむ。柔軟体操に飽きたから別のを考えていた」

「じゃあさ、ダンスにしない? 今、町で流行っているって厨房の人が言っていたよ」

「ダンス……。俺やった事ない」

「自由でいいんじゃない? クルクル回ったり、手足を動かせばいいんだろ?」

 

 全く想像がつかない。うーむ……。


「ヴァンちゃん、どうしたの? 難しい顔して」

「ニコ、ダンス分かるか?」

「ダンス? 貴族の人達がドレスで集まってやるやつ?」

「ニコ、違うやつだよ。町でやっている劇のダンスだよ」

 

 いっそ見に行くか? でも、ここから離れる事は出来ないしな……。


「それ以外にダンスの情報はないのか?」

「じゃあ、俺がもっと厨房で詳しく聞いてくるよ」

「頼む」

 

 飛び出していった仲間を見送り、ニコと話しながら待つ。


「ハァ、ハァ……。ただい、ま……ハァ」

「大丈夫か? そんなに急いで来なくても」

「いや、休憩、もうすぐ、終わり、だし……」

 

 もう、そんな時間か。気になるが仕事に集中せねば。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 次の日、休憩時間に詳しい事を教えて貰った。


「お姉さんたちが横一列で音楽に合わせて、一斉に足を同じように何度も上げるんだってさ。なんか凄く高く足が上がるらしいよ」

 

 高く足を上げる? 取り敢えず片足を上げて、パチンコに使う二股の木のような形になってバランスを取る。


「うわっ、ヴァン柔らかいな!」

「でも、こんな感じじゃ何度も音楽には合わせられないな」

「そうだよな……。それに俺はそこまで柔らかくないから足が上がらないぞ。他の奴等もそれなりに柔らかいけど、あんまり高くは上げられないかもな」

 

 全員でやるのは無理か。腕をただ上げてもつまらないしな。二人で悩んでいるとニコが背中に飛び付いて来た。


「何しているの? 今、足を上げていたよね。僕も混ぜて」

 

 先程までの事を説明すると、ニコが何かを閃いたらしくニンマリとする。


「じゃあ、シッポでやろうよ。みんなが自由自在に動かせるものと言ったらシッポでしょ」

「成程。いいかも」

 

 俺が頷くと、ニコが皆を集めて早速説明している。


「へー、面白そうじゃん。でも、ただ上下するだけじゃつまらないよな」

「左右にも動かして、一回転させるとかすればいいんじゃないか?」

「ああ、それなら見栄えがするかも」


 わいわい話しながら一通りの動きが決まる。早速やろうとした所で休み時間が終わってしまった。また、明日に持ち越しだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「準備運動からした方がいいんじゃないかな? 攣ると大変だよ」

 

 ニコの言葉に一斉に頷く。連続して大量に動かしたりなんて普段はしないからな。


「じゃあ、僕が掛け声を掛けるね。いくよー。はい、みーぎー、ひーだーりー、うーえー、しーたー、クルンと一回転」

 

 うむ。全員、問題無しだ。


「次いくよー。右斜め上、左斜め上、右斜め下、左斜め下、クルンと一回転」

 

 どっちが左か右かで少し頭が混乱するな。もう一回やっとくか。フリフリっと。


「じゃあ、昨日決めた通りにやってみよう。いくよー。はい、みーぎー、ひーだーりー、右斜め上、――――、うーえー、うーえー、はい、終了。お疲れ様でーす」

 

 全員ぐったりしている。物凄いスローテンポでやったが、間違う奴が続出だ。だが、ニコは上手かったな。先生役はニコで決定だ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 次の日も次の日も練習を重ねていく。全員、混乱せずに振付を出来るようになってきた。後はテンポを上げていかないとな。

 

 真っ先に完璧な動きが出来るようになったニコが全員を見て回る。


「ヴァンちゃん、振付が間違えずに出来たよ。合格でーす」

 

 やっとニコから合格が貰えた。隣の子は間違えて不合格になりガックリと肩を落とす。頑張れと肩を叩いた所で休憩が終了した。



「なぁ、お前達、最近ぐったりしていないか? 休憩が足りないのか?」

「そ、そんな事ないですよ。なっ?」

「う、うん。気のせいですよ」

「そうか? ふーん?」

 

 鏡の魔物の様子を見に来たダーク様が、物凄く疑いの眼差しで見てくる。仲間達は隠しておきたいようなので俺も黙っておく。だが、なぜ見られてはいけないのだろうか?

 

 ダーク様が部屋を出て行った後に質問してみる。


「なぁ、何故黙っておくんだ?」

「えっ、恥ずかしいじゃん!」

「そうそう。それに禁止されたら楽しみが無くなっちゃうよ」

 

 そうなのか? 獣族だからシッポを振るのは普通だし、ダーク様なら面白がって、もっとやれと言うと思うが。まぁ、他の子が秘密にしたい理由が分かったからいいか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!」

 

 ニコの気合の入った掛け声と手拍子と共に、仲間達がシッポをピコピコと動かしている。ふむ、大分揃ってきたな。テンポも上がり、完成は間近だ。

 

 そうだ。自分のシッポや揃っているかを見る為に記録用の水晶を借りて撮影しよう。


 一段落して休憩している時に執務室に水晶を借りに行く。


「ダーク様、ヴァンです。失礼してもよろしいでしょうか?」

「ああ、入れ」

 

 おっと、宰相様も居た。


「それでは、私は失礼致します。ヴァン、お菓子を貰ってくれませんか? 大量に貰ったので皆と分けて食べて欲しいのです」

「はい、ありがたく頂戴致します」

 

 クッキーを大量に貰いホクホクしながら帰ろうとして思い出す。大事な物を忘れる所だった。


「すみません。記録用の水晶を貸して下さい」

「いいぞ。何を撮るんだ?」

「皆が恥ずかしいと言うので内緒です」

「ふーん。お前達が最近ぐったりしている事と関係あるのか?」

 

 鋭いな。下手に口を開くとバレてしまいそうなので黙っておこう。両手で口を押さえているとダーク様が笑いながら近付いて来る。


「分かった、分かった。ほら、持っていけ。なぁ、ヴァン。俺がこっそりと見付からずに見る分には構わないのだろう?」

 

 宰相様が居なくなったのでいつもの口調に戻す。


「その手があった。俺自身は見られてもいい。皆には絶対に内緒」

「ああ、了解。俺とヴァンの秘密だな。休み時間にやっているんだな?」

「そう。そろそろ完成間近。乞うご期待」

「はははっ、そうか。楽しみだな。頑張れよ」

 

 頭をわしゃわしゃと撫でて貰い、クッキーと記録用の水晶を持って走って行く。そろそろ休み時間が終わってしまう。


「あっ、ヴァンちゃん! どこに行っていたの?」

「ニコ、すまん。記録用の水晶を借りに行っていた。そしたら、クッキーも貰った。皆で食べていいそうだ」

「わーい、やったー! 皆、クッキーだよ!」

 

 甘い物に全員が目を輝かす。俺も食べよう。もぐもぐ、うまうま……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ヴァンちゃん、どう? 撮れてる?」

「――うむ。ばっちり。皆で見る」

 

 全員で頭を寄せ合って見る。なかなか揃っていて良い動きだ。


「ここはもうちょっと、キレッキレッに動かしたいな」

「だな。ここはもうちょっと上にあげた方がいいかもな」

 

 客観的に見て欲が出て来たのか次々と修正案が出る。――さて、やるか。


「ばっちりじゃないか⁉」

「おう、キレッキレッだな!」

 

 全員が満足のいくダンスになったようだ。ニコはよっぽど嬉しいのか「シッポ、フリフリ♪ おしり、フリフリ♪」と歌いながら踊っている。暫く眺めてからハッとする。水晶をダーク様に返却してこなくては。


 上に行く為の階段近くは少し薄暗い。でも、今日は何だか少し違和感があるような? 首を傾げて見ていると、ペロンと一部分だけ剥がれた紙のように影が捲れ、ダーク様がひょっこりと姿を現す。突然の事に驚いて凝視する俺に気付いたダーク様が、人差し指を口に当てた後に手招いて来る。周りにバレていないか確認して近付くと抱き上げられ運ばれて行く。


 執務室に着いた所でやっとダーク様が口を開いた。


「ダンス上手かったな。良い物が見られて大満足だ」

「ありがとうございます。あの、さっきのは?」

「ここだけの秘密だぞ。俺は城の影や闇の中を移動できるし、潜むこともできる。便利だろう?」

 

 本当に城の中だけなのだろうかと疑問が湧く。でも、自分の特殊能力は人にベラベラ喋りたくないだろうと思い直して口を噤む。


「お前は本当に頭が良くて優しいな。ヴァンなら全部教えてやってもいいんだぞ?」

 

 頭を撫でてくれるダーク様を目だけで見上げて、そのまま撫でられておく。


「そうか。じゃあ、秘密にしておこう。水晶を返しに来てくれたのだろう?」

「はい。ありがとうございました」

「ああ。良い物が見られたから菓子をやろう。新しいダンスも期待しているぞ」

 

 チョコレートを箱ごと貰って地下へ戻る。ダーク様も楽しめるように新たなダンスを皆で考えるか。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「こんな感じで猛特訓の末、習得した。――いざ、参る」

 

 カハルちゃんがパチパチと拍手してくれる。期待で目が輝いているカハルちゃんに全員で礼をして開始だ。


「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!」

 

 いつもより更に気合の入ったニコの声に合わせて、無事にダンスが終了した。珍しくはしゃいだカハルちゃんが「凄い、凄い!」と俺達に抱き付いて来る。

 

 仲間内で楽しんでいただけだったが、何が役に立つかは分からないものだな。こんなに嬉しそうなカハルちゃんが見られるなら、今後も色々と挑戦してみるか。満面の笑みのカハルちゃんにぎゅーっとされながら、そんな事を思った日だった。


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