日誌当番
本編に入れたのですが、こちらに移動しました。
あちこちに移動して、申し訳ありません。
今後もよろしくお願い致します。
カハルが闇のお城に来る少し前のお話です。
今日は日誌当番。
天気、たぶん晴れ
「――そうだな、たぶん晴れだな。頑張って書けよ」
通りがかったダーク様が上から覗き込んで感想を漏らすと、俺の頭をわしゃわしゃと撫でて去って行く。
闇の国は昼間も薄暗いので、天気が分かりにくい。でも、今日は雲が少なかったし雨でもない。よって、たぶん晴れ。
今日の報告、鏡には変化なし。祈りの歌などの儀式も滞りなく終了。
困った……。もう書く事が無くなった。この隙間をどうしてくれよう。うんうん悩んでいると、ニコが鼻歌を歌い、スキップしながら後ろを通り過ぎていく。
ぴんと閃いた。そうだ、ニコの観察日誌にしよう。
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午前六時、起床。
ランニングと柔軟体操と軽く戦闘訓練をする。
午前七時半。
布団を畳み、清掃作業。
午前八時、朝食。
猛烈な勢いでレタスのサラダを食べていた。野菜不足なのか? その後、一回お替りをしてシャキシャキ食感を楽しみながら、いつものペースで食べ進めていた。
午前九時。
供物の準備をし、『祈りの歌』を歌い儀式を行う。
午前十一時。
地下宮殿内で、全員ランニングと体操。
午前十二時、昼食。
ハンバーガーとポテトとオレンジジュース。口の周りがトマトソースで真っ赤に染まる。その顔で笑われると、ちょっと怖い。
午後十三時、勉強の時間。
今日はマナー講座。通信の鏡を通じて先生に教えて貰う。俺とニコは、既に合格を貰っているので指導の補助を行う。
午後十五時、おやつの時間。
今日はちっちゃいホットケーキ。蜂蜜の入れ物を傾けたら、蓋が取れてホットケーキが蜂蜜の池に沈んだ。愕然とした顔になり、蓋と蜂蜜の入れ物を交互に見ている。慌ててメイドさんが助けてくれた。
みんなは、ニコの皿から蜂蜜を貰う。食べ始めると、ニコが「ふわふわじゃない……蜂蜜の味しかしない」と嘆いている。可哀想に思ったのか、メイドさんがホットケーキをもう一枚特別にくれた。目をキラキラさせながら「おいしい! ホットケーキ、バンザイ!」と言っていたので、今日も特に問題無しと判断。鏡も異常がなかったし、無事に一日を乗り切れたと思う。
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よし、埋まった。何だか食べ物のハプニングが多い気がするが、気にしない。早速、提出してこよう。
翌日、日誌を受け取り、次の当番の子に渡す。ちらっと中を見たら、『良く書けている。次の観察日誌を期待する』という、ダーク様からのお返事があった。良かった、問題無さそうだ。
ニコが供物を貰いに厨房に行っていたが、物凄い勢いで帰って来た。何か問題でもあったのだろうか?
「ヴァンちゃん! なんでお城の方達が昨日の蜂蜜事件を知っているの⁉ 他にも昨日の行動が事細かに伝わってるんだよぉー。うぅ、恥ずかしい」
そう言って、俺の前にオレンジを抱え込みながらへたり込む。
「すまん。俺が昨日の日誌に書いた。でも、ダーク様以外の人には見せてない」
ニコの目が吊り上がると、低い声で言われる。オレンジを横に置く動作は丁寧だが、物凄い怒りを感じる。
「ヴァンちゃん、そこ座って。ヴァンちゃん、あのね――」
その後、怒涛の勢いでお説教された。足が痺れた……。
そこに、ダーク様が現れる。
「ヴァン、そんな所でじっとして、どうした?」
「ニコにお説教されて足が痺れました」
「ニコが説教? 珍しいな」
「ダーク様、少し宜しいですか?」
「あぁ、ニコ、どうした?」
「ダーク様、昨日の日誌の内容をお城の方達に喋りましたよね? これ以上は広めちゃ駄目ですからね。僕、恥ずかしくてお外を歩けません!」
「なんで恥ずかしいんだ? 可愛いだけだろう。良いものは共有しないとな。俺としては続きを希望なんだが」
ニヤリと悪い笑みを浮かべてニコを見た後に俺を見る。おぉ、期待されている。だが、その言葉に再度目を吊り上げたニコに、ダーク様も怒涛のお説教をくらった。
「――分かった、分かった。じゃあ、今度はニコがヴァンの事を書けばいい。それならいいだろう?」
ひとしきりニコの怒りを受け止めると、ニヤニヤしながらダーク様が提案する。
「おぉ、その手が! それで、チャラですね。了解です。僕もヴァンちゃんの事を書いちゃうんだからね!」
「いいぞ。書かれて困るような事はしていないし」
「ダメージゼロ⁉」
ニコが衝撃を受けている。でも、もう一度考えても特に問題があるとは思えない。そもそも、俺の日常なんて書いても面白くないのではないだろうか?
ニコは恥ずかしがって怒っていただけなので、ちっとも怖くない。という事で、こっそり個人的にニコの観察日誌を続けようと思う。
「よし、一件落着だな。仕事に戻れ」
考えがお見通しなのか、俺にしか聞こえない声量で「俺にも時々見せろよ?」と囁き、ニヤリとしてダーク様が去って行く。了解であります。
オレンジを運んでいくニコを視界に納めながら、俺も作業再開だ。