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太古の歴史のお話3

「書き上げた時には、一般的に出回っている内容の書物が既に出ていたそうですじゃ。それにですのぉ、創造主様は誰にも屈する事のない最強の方だと世間一般では思われておるようですじゃ。ですから、命を注ぎ込む事でやっと勝って石になってしまったというラストは、酷い反感を受けるだろうと思われたのではないですかな」


 ふむ。俺は追い払って束の間の平和を手に入れるより、苦戦しながらでも魔物を全て倒す方がいいと思う。だが、世間一般は創造主様が余裕で勝つ話が好みという事か。人には色々な考えがあるものだな。


「なるほどね。続編とかはあるの?」

「いえ、これで完結ですじゃ。この先は自分たちで良き未来を作っていきなさいという様な後書きが原本にはありますのじゃ」


 シン様は疑問が解消して満足そうに頷いている。俺とニコは、そんな昔からカハルちゃん達と繋がりがあった事に踊り出したい気分だ。


「じっさま、ありがとう」

「急に来て貰って悪かったね。とても良い話が聞けたよ」

「お役に立てた様でなによりですじゃ。お暇がございましたら、村にお立ち寄り下され。ヴァン、ニコ、それじゃあのぉ」


 プツンと通信が切れた鏡を仕舞っていると、カハルちゃんが起きて寄って来た。


「皆で何してたの?」

「太古の歴史の本について話してた。そして、新事実が発覚」

「え、何々? 教えて!」


 食い付きの良さに思わずニンマリしつつ、シン様の膝をカハルちゃんに渡す。


「俺達のご先祖様が、戦いに参加していた」

「え、本当⁉ うーん、いつの戦いだろう? 数え切れないほど戦っているから……。うーん……」


 腕を組んで体を左右に揺らしながら考えるカハルちゃん。ニコもつられて左右に揺れている姿をシン様が微笑みながら見ている。


「……んー、いつかは分からないけど、白族と私は大昔から繋がりがあったって事だよね。それを知れただけで、とっても嬉しいよ」


 俺とニコも同じ気持ちで頷く。この世に偶然なんて一つもないのかもしれない。全ては生まれる前に自分で綿密に決め、人は知らず知らずのうちにその道を歩み大事な人に巡り会う。そして、困難を越え、共に喜びを味わい、時には励まし合いながら寄り添って道を歩いて行く。


 俺にとって、この先に何度生まれても会いたい相手は此処に居る皆。誰が何と言おうと必ず出会えるように、運命だって幾らでも書き換えてやる。


 きっと、俺はご先祖様の切なる願いの先に居るのだろう。少しでもこの人達の側に居たいと魂に刻み込んであるかのように――。自分で運命をちょっとずつ書き換えて軌道修正しながら、この人達に辿り着くようにした。その成果が実り、俺は今ここに居る。そう考えると何だか心が躍り、俺はカハルちゃんに盛大に頬擦りしたくなった。


「わっ、ヴァンちゃん、どうしたの? うわっ、あははは、くすぐったいよ。あははは」


「熱烈だねぇ。ニコちゃんもやる?」


「はい! 僕達の心は、ただいま嬉しさでスキップしている状態なんです。という事で、とりゃー! スリスリスリ!」


「あははは、くすぐったさが増えた! わー、お父さん、助けて~」


 クスクス笑いながら俺達を纏めて抱き締めるシン様にも、もちろん頬擦りは忘れちゃいけない。


「とうっ! スリスリスリ」

「えっ⁉ 今度は僕? うわ、くすぐったい!」

「私もやっちゃうもんね。ニコちゃん、始め~」

「おぉー!」


 三人で顔や首や胸に顔をグリグリ押し付けると、シン様が勢いに負けて俺達を抱き締めたまま仰向けに床に転がる。少しびっくりした顔をした後に、弾けたように笑って俺達を手荒く撫でてくる。


「やったな~。お返しだよ!」


 逃げられないように俺をガッチリ捕まえて、おでこをグリグリ押し付けてくる。


「うぉー、ヘルプー」

「ニコちゃん、くすぐり攻撃開始!」

「イエッサー!」


 俺を助ける為に、カハルちゃん達がシン様をこちょこちょとくすぐる。


「わっ、こら、止めなさい! あ~、くすっぐたい! ニコちゃん、足裏は止めて。蹴っちゃいそうだよ」


 ワーワー騒いでいると、ダーク様がひょっこりやって来る。


「邪魔するぞ。――なんだ、楽しそうじゃないか。俺も混ぜろ」


 俺達の味方をしてくれるかと思ったら、そうじゃなかった。まず、ニコを捕まえ、くすぐり攻撃で撃破。くすぐられるのが大の苦手のカハルちゃんは、手を伸ばされただけで涙目になっている。何とか助けなければと暴れるが、シン様の腕の拘束は一向に緩まない。


「カハル、覚悟!」

「きゃーーー!」


 悲鳴を上げたカハルちゃんが一目散に外に向かって駆けて行く。


「あ、カハル、危ないよ!」


 シン様が慌てて声を掛けるが、パニック状態のカハルちゃんは止まらない。まずい、落ちる!


「ガウガウー」


 そこへ、「お邪魔しますよー」と言いながら、ご機嫌なアケビちゃんが姿を現す。沢山の木の実を載せた大きな葉を抱えながら戸口を潜り、フンフン♪ と上がり框の際に軽い足取りで近付いて来る。そのモフモフなお腹へカハルちゃんがボフッと突っ込んだ。


「ガウッ⁉」


 痛くはないようだが、驚いた拍子に木の実を落とし、クルミやドングリがカハルちゃんの頭にボロボロ降り注ぐ。


「きゃーーー、――うわっぷ、え? わっ、ごめんなさ、――いたっ、痛い! わーっ」


 小さな手で頭を覆っているが、コン、コン、コココンと覆っていない場所に見事に当たっている。アケビちゃんが庇おうとするが、手には木の実を持っていて、これ以上落とさないようにバランスを取っているので無理なようだ。


 最後に葉っぱの上でグラグラ揺れていた、固くて重そうなリンゴがコロンと落ち、アケビちゃんが声にならない叫びを上げる。


「――よっと、間に合った」


 シン様が間一髪でリンゴを手の平に受け止め、ダーク様がアケビちゃんにザルを差し出して木の実を入れて貰っている。


「カハル、もう顔を上げても大丈夫だよ」


 そろそろと顔を上げたカハルちゃんが、不安そうな顔でキョロキョロと辺りを見回す。


「うぅ、お父さん、ごめんなさい。自分がやられて嫌な事をしたからバチが当たったんだ……」


 シン様が頭に付いた葉っぱを取ってあげながら優しく声を掛ける。


「僕は楽しかったよ。また、一緒に遊ぼうね」


 抱っこされたカハルちゃんがホッとした様に頷く。


「アケビちゃん、ごめんね。お腹痛くない?」


「ガウ、ガウガウ。ガウガウガーウ?(はい、大丈夫です。カハルちゃんこそ大丈夫ですか?)」


「うん、平気。私の所為で木の実が落ちちゃってごめんね」


 いいんですよ、という感じでアケビちゃんが大きな手をそっとカハルちゃんの頭に載せている。


「俺も済まなかったな。そんなに苦手だとは思っていなかった」

「気にしないで、ダーク。また、遊んでくれる?」

「ああ、任せておけ。ニコを心ゆくまでくすぐろう」

「えっ、そんな結論⁉ 僕だって駄目ですよ。泣いちゃいますよ!」

「嬉し泣きだろ。隠さなくてもいいんだぞ」

「きーっ! 話が通じない! ヴァンちゃん、言ってやって!」


 何を言えというのだ? うーむ……。


「え、そんなに悩む事なの? 止めてあげてって言ってくれればいいんだよ?」


「だが、ニコはくすぐられるのがそこまで嫌いだとは思えない。両方が楽しい。俺が言えるのは、もっとやれ?」


「ニコ、お墨付きを貰ったぞ。さぁ、楽しい時間の始まりだ」

「ひぃえー、ヴァンちゃんが裏切った~。わーん、酷い~」


 そう言いつつも追いかけっこをする姿は楽しそうにしか見えない。俺はカハルちゃんとまったりお茶でも飲もう。


「ヴァンちゃん、お菓子は何がいい?」

「うーん、まん丸カステラ」

「これ、好きだねぇ。はい、どうぞ」


 シン様がちょっと渋めの緑茶と共に置いてくれる。アケビちゃんにカハルちゃんと共にもたれ掛かりながらカステラを一齧り。更にミカンを持って来てくれたシン様が俺に尋ねて来る。


「いつまで持つかな? ヴァンちゃんの予想は?」

「すぐ捕まる」

「捕まるものかーーー!」


 ダーク様がニヤッとしながら素早く手を伸ばし、ニコが「ひょーっ!」と叫びながら横っ跳びして避ける。そのおかしな悲鳴にシン様が笑い、カハルちゃんはハラハラしながら見ている。そんな皆を視界に収めつつ、しみじみと思う。


 戦が終わった創造主様と仲間達に幸多からん事を――。


カハルと白族は太古から繋がりがありました。白族は本という形で記憶を持ち越していましたね。きっと、ヴァンちゃんが思ったように、ご先祖様は繋がりを絶ちたくなかったのでしょうね。例え願いが今生で叶わなくとも、願いの力は遠い未来にまで届くとしたら、それは素敵な事だと思えます。でも、すぐに叶って欲しいと思っちゃうものですよね~。きっと、作者はせっかちなのでしょう(笑)。

これで300話達成記念の連続投稿は終了です。一日お付き合い頂き、ありがとうございました。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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