太古の歴史のお話1
本編『ドラゴンさんと顔合わせ』の前日です。
「ヴァンちゃん、なにを読んでいるの?」
「ん? 太古の歴史のお話」
「あ、僕も一緒に読ませて」
「うむ。一緒に読む」
本を広げて仲良く眺める。昔からよく読んでいたが、実際の登場人物たちを知ってしまったので、改めて読み直してみようと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
世界は創造主によって作られた。その世界の名は『イザルト』。海に囲まれた大陸で、その全てが光に包まれながら闇の中に浮かび、海の端では水が闇に向かって流れ落ちていると言われている。
この世界には様々な生き物が住んでいる。人間、動物、獣族、植物、精霊などだ。そして、そのどれとも違う異質な生き物、魔物と共に。
魔物はどの生き物とも相容れない。瘴気を纏い、その穢れた力は大地をも侵食し、空気も毒へと変貌させる。生きている全ての者にとっての敵である。
そして、この恐るべき生き物を治められる、圧倒的な力を持った王が存在している。魔物の軍勢を従えて人間を恐怖に陥れ、逃げ惑わせ隅に追いやった王が――。
これから、その強大な魔物の王と戦う英雄たちの物語をあなたに贈ろう。さーて、始まり、始まり――。
また村が一つ消えてしまった。あと幾度、人の絶望する顔を見ればこの戦いは終わるのだろうか? 挑んでも挑んでも、壁は高く弾き返される。だが、こんな思いを仲間達や人間に悟られる訳にはいかない。私は彼らの希望として立ち続けなければならないのだから。
そのように思い揺れる創造主の心は、長く寄り添い続けた人間の急激な減少によって奮い立つ。人間はとても脆く再生能力も無い為、傷を受ければ死に直結する。これ以上長引けば、彼らは全滅してしまうだろう。
創造主は決意した。彼らをこの先も見守る事は出来なくなるかもしれない。だが、その憂いを全て引き受けよう。私の命を懸けて、と――。
創造主と仲間達は休むことなく戦い続けた。その甲斐あって、ようやく望む状況を引き寄せる事に成功する。
「明日はついに魔物の王との決着だな。これで、人間達が隅に追いやられる生活を終わらせる事が出来る」
「勝てればの話だろう。甘く見ていると全滅になりかねないぞ」
魔国の王、フークスと闇の国の王、ニゲルが語り合うのはこの世界の行く末。その全てがここに集まる勇気ある者達にかかっている。
「これで全てを終わりにしよう。人々の悲しみ傷付く姿を私はもう見たくない」
「創造主様……。そうですね、何がなんでも終わらせてやりましょう。俺達の力で!」
創造主に力強く頷くのは、まだ幼さも残る顔立ちをした青年、火の国の王、ルフスである。
「それで、先陣を切るのは誰だ?」
「俺が行こう」
神の問いに真っ先に声を上げたのは、神の息子、アスである。鍛え抜かれた体と青く輝く瞳が印象的な青年だ。
「では、雑魚を蹴散らすのはお前と人間達の軍勢に任せよう。我々は王と幹部の元へ向かう」
神の言葉に皆が決意を込めて頷く。空から星と闇が去ったら決戦の時だ。
「怯むな! 突っ込めーーー!」
「おおぉぉーーー!」
徐々に太陽の光が大地を柔らかく照らし出す中、アスの声に応えるように人間達が鬨の声を上げて、大小さまざまな魔物へと突撃していく。
槍に剣や弓、あるいは魔法で応戦する人間達の軍勢一万。
対する魔物は、自らの牙や爪で戦うもの、人と同じように武器を操るもの、口から火を吐き出すものなど、多種多様な武器と圧倒的な三万という数で人間を次々に屠っていく。
その戦局を一気に変える程の大技をアスが練り上げていく。
「我らの道を妨げるものを全て呑み込め! 青き激流!」
体から噴き出るように溢れていた魔力が、腕を伝い剣に凝縮されていく。青白い輝きで覆われた刀身が渾身の力で降り下ろされると、激流が木の葉のように魔物を軽々と呑み込み沈めていく。尚、もがき逃れようとする魔物は、水から氷に変わった技により凍り付き、粉々に砕け散っていく。
キラキラと結晶が風に舞い、朝日に照らされて短い輝きを終えていく中に凛とした声が響く。
「今だ、行け!」
アスにより開けた道を仲間達が走り抜けていく。遮る魔物を次々と剣で沈めながら幹部達に近付いていく一行。だが、それも長くは続かない。
「ほほほ、弱き者達が幾ら集まろうと何も変わらぬわ。我が暇つぶしに遊んでやろう。――ガァッ――アァ―――!」
魔物の王に次ぐ力を持つ幹部が咆哮する。神経をズタズタに切り裂くような力を持つ声は、弱き魔物では耐える事が出来ず灰に変わっていく。
「味方まで見境なくかよ。だけど、俺達には効かないぜ!」
ルフスは不敵な笑みを浮かべると、舞うように双剣を操り連続で斬り付けていく。
「火の国の王が相手か? ふははは、馬鹿にされたものよ。せめて創造主を差し出せぇぇーーーっ!」
叫ぶと同時に真紅の眼が爛々と輝き、水牛のような体が巨大化していく。五メートルを超えるであろう体は、いささかもスピードを落とす事なく拳を振り下ろす。重たい一撃を双剣で受け止めたルフスの腕の筋肉が盛り上がり、足が地面にめり込む。
「うぐっ⁉ ふぐぐぐ――」
「ルフス! 魔物よ、これでも食らえ!」
フークスが手の平から飛ばした、煙を内包したような黒い球が魔物をすっぽり包み込むと、押し潰そうとする力が発生し魔物が片膝を付く。それに抗おうとする事でギシギシと魔物の体が軋み、あちこちから血が噴き出し始める。
「うぐぐぐっ、お、おのれ、裏切り者の魔国の王め! 我に歯向かう愚かさをその身に刻んでやろうぞ!」
血が噴き出すのも構わず、魔物が身を包む球体に手の平を当てて押し広げていく。その内に退避したルフスも双剣に魔力を込めていく。
球体を破壊した魔物とルフスが同時に技を放つ。
「弱き者達よ、我の元に這いつくばれ!」
「我が身より迸る怒りの炎よ、悪しき者を燃やし尽くせ!」
魔物が放った弓なりの黒き刃と、正義に燃える王が放った二匹の炎の竜が激しくぶつかる。その力は近くの魔物を次々に消滅させながら威力を増していく。苦し気な表情で剣を構えながら、己に一歩も引くことを許さないルフスが魔物を睨みつけたまま叫ぶ。
「創造主様、今の内に行ってください!」
「済まない。みんな行くぞ!」
ルフスが引き付けている間に魔物の王へと一気に距離を詰めて行く。仲間達は幹部を引き受けて道を作り、一人一人と数を減らしていく。
「神よ、決着を付けよう」
「ナンバー3がご指名か? 受けて立とう」
膨大な魔力を操る神が手の平を天に向けると、雷が次々に降り注ぐ。地面に無数に穴を穿ち、少し触れただけで周りの魔物が消し炭に変わっていく。その中で一つの傷も負わず、ナンバー3の力を誇る魔物が結界に包まれながら苦笑する。
「相変わらず派手だな。まるで魔力が無尽蔵に湧いているかのようだ」
「褒め言葉をありがとう。派手な方が周りも楽しめると思わないか? 次は光球でお前の結界に特大の穴を開けてやろう。――創造主、行け。お前達の所には誰も通さん」
「済まない。必ず生き残れよ」
「勿論だ。お前も元気な顔を見せると約束してくれ」
「……善処しよう」
確約する事が出来ない心苦しさが表情を硬くするが、すぐに駆け出す。感傷的になっている時間はない。この間にも人間達は、その命を散らしているのだから。
現在だとこんな感じですね。
神の息子、アス→セイ 闇の国の王、ニゲル→ダーク 火の国の王、ルフス→ホノオ
魔国の王、フークス→ヒョウキ 神→シン 創造主→カハル
太古の歴史のお話は、イザルトに住んでいる者で知らない人は居ないというくらい有名なお話です。
ニコちゃんとヴァンちゃんと共に読んでみてくださいね。
この後も投稿しますので、もう少しお付き合いください m(__)m