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ニコのダイエット大作戦

本編『クマの花屋、オープンです!』の頃のお話になります。

「ニコ、肥えた?」


 ニコが口を『あ』の形にしたまま固まった。ショックを受けていて可哀想だが仕方ない。前からお願いされていたのだ。『僕が太ったと思ったら遠慮しないで絶対に教えてね』と。


 ゆさゆさと揺らすと無言のまま俺を見つめてくる。


「……どの辺りが?」

「うん? 顎の下に肉が付いてきている」

「うぐっ。――分かった。ヴァンちゃん、ありがとう……」


 だいぶダメージを受けているようだ。俺もダイエットに付き合おう。


「ニコ、俺も手伝う。気落ちするな。きっと直ぐ戻る」

「うん……ありがとう。シン様の作ってくれるお料理は美味しいし、初めて食べる物ばかりっていうのもあって、食べ過ぎの自覚はあったんだよね」


 それは分かる。俺ももう一口だけと思って、ついつい手が伸びてしまう。あんな美味しい料理を作ってしまうシン様は罪な人なのである。


「取り敢えず走るか?」

「そうだね。そうしよう」


 早速、山に向かって走って行くニコを追い掛ける。途中で会ったニワトリさんと森の動物さん達が興味津々で付いて来ている。あれだけ必死の形相で走っていれば気にならない筈がない。そうだ、協力して貰おう。


「ニコ、ストップ」

「どうしたの、ヴァンちゃん?」

「みんなに協力して貰おう。隠れるのをプラスして鬼ごっこする」

「おぅ、いいね! 皆さん、僕のダイエットにお付き合い下さい」


 ニコが深々と頭を下げると快く頷いてくれる。


「じゃあ、ニコがずっと鬼。捕まった人はそこで終了。全員、散開!」


 鳥さんも居るのでいい運動になるだろう。俺も全力で逃げるか。


「ま~て~」


 ニコが早速、ウサギさんを追い掛けて行く。健闘を祈る。


 近くに居た狐さんと逃げる事にした。森の中だと動きが掴みづらいな。木の上に行くか。狐さんを背負い、スルスルと木に登る。おっ、ニコ発見。


 みんな森を熟知していて隠れるのが上手いうえに足が速い。ウサギさんはジグザグにぴょんぴょんと跳び、草むらに飛び込んでしまった。


「あ~っ! 逃げられた……。あっ、アケビちゃん発見! ま~て~」


 アケビちゃんは楽しそうに二足で走る。四足で走れば速そうなのにと見ていると、あっさり捕まってニコを撫でている。あぁ、わざと捕まってあげたのか。本当に優しい熊さんだ。


「んふふふ、どんどん捕まえちゃうぞー」


 一人捕まえた事でやる気がアップしたニコがキョロキョロと周りを見渡す。


「あっ、リスさん発見。ま~て~」


 ちょこまかと高速で動くリスさんにニコが翻弄されている。良い運動になっている様でなによりだ。


「狐さん、移動する? 鳥さんがあっちの木に居る」


 うんうんと頷くので、ニコがリスさんに気を取られているうちに、木から木に飛び移る。


「――よっと。鳥さん、お邪魔します」

「ピチュピチュ」


 快く迎えてくれたので揃って下を眺める。


「待って~。アケビちゃん、助けて~」


 応援を仰ぐがアケビちゃんに断られている。ルールと違うからだな。可哀想なので許可してあげよう。


「鳥さん、伝言して来て欲しい。アケビちゃんだけなら手伝って貰っていいと」


 元気に頷き飛んで行ってくれる。


「あっ、鳥さん! えっ、本当ですか⁉ どこにいるか分からないけど、ヴァンちゃん、ありがとう~」


 上手く伝わったようだ。さて、ばれない内にまた移動するか。



 ふーむ……。ニコの動きが良くなってきたな。次々と森の仲間達が捕まっていく。


「鳥さん、捕まえた! よーし、後はヴァンちゃんと狐さんだけだね」

「ガウッ」


 ニコが草むらをガサガサと探す。


「いないなー。ヴァンちゃん達、何処にいるんだろう? 決められたスペース内は殆ど周ったと思うんだけどな」


 見下ろしていると、上を仰ぎ見たアケビちゃんとばっちり目が合う。


「ガウ、ガウガウ、ガウー!」

「あっ、本当だ、居た! 待て~」

「狐さん、逃げる。少し揺れるけど我慢して欲しい」


 狐さんは力強く頷き俺の首に前足をしっかりと巻き付ける。制限時間まであと三分。必ず逃げ切ってみせる。


 ニコがスルスルと木を登って来るので、急いで別の木に飛び移る。距離を稼がなければと次から次へとジャンプしていく。


「ま~て~」


 声が近付いて来た上に飛び移れそうな木がない。仕方ないので上の枝から下の枝に飛び下りて一気に地上まで戻る。おっと、アケビちゃんも来た。


 腕を広げて捕まえようとするアケビちゃんを大きく横に跳んで避け、草むらに飛び込み全力で走る。よし、あの木に登ろう。


 アケビちゃんが地面をキョロキョロと探している内に素早く木に登り、ニコの後方に陣取る。


「アケビちゃん、居ますか?」

「ガウー、ガウ……」

「逃げられちゃいましたか。上から探してみますね」

「ガウ」


 ニコが周りを見回し始めたので、太い木の幹に隠れる。


「――あーっ、シッポ!」


 おっと、狐さんのシッポが隠しきれていなかった。それ、逃げろ。枝を走り隣の木の枝に飛び移る。ここで鬼ごっこの終了を知らせる役を引き受けてくれたニワトリさんが鳴く。


「コケコッコー!」

「だーっ、捕まえられなかった。無念……」


 ニコと共に木を下り、森の少し開けた場所に皆で集まる。


「狐さん、楽しかった?」


 背から降ろして聞くと、コクコク頷く。


「それは良かった」


「ヴァンちゃん、狐さんと一緒に居たんだね。あーっ、悔しい! また、やろうね」


「うむ。いい運動になったか?」


「うんっ。脂肪が燃えたーって感じがするよ。皆さん、ご協力ありがとうございました」


 ニコが深々とお辞儀するのに合わせ、俺も頭を下げる。何かお礼をしなくては。


「あっ、白ちゃん達発見。皆で遊んでいたの? おやつだよ」


「シン様。あの、みんなも一緒にいいですか? ニコのダイエットを手伝って貰ったのでお礼がしたいです」


「ダイエット?」

「ヴァンちゃん! しーっ!」


 慌てるニコをまじまじと見たシン様が納得した様に頷く。


「じゃあ、みんなでおやつにしよう。ニコちゃんはどうする? リンゴ食べる?」


「ど、どうしよう……。食べたいです」

「うん。ちゃんと食べて動けばいいよ。みんな、おいで」


 シン様の後を皆でぞろぞろ付いて行く。家に着くとシン様が切ったリンゴを一つずつ手渡してくれた。アケビちゃんには大きなリンゴをそのまま渡している。


 運動してお腹が空いたのでより美味しく感じる。ニコは夢中でシャクシャクとリンゴを噛んでニンマリしている。嬉しそうで何よりだ。


「あっ、動物さんがいっぱい!」


 シン様に抱っこされて外に来たカハルちゃんが、非常に嬉しそうに俺達を見る。もふもふ大集合だ。


「お父さん、触っていい?」

「うん。お願いしてごらん」

「うんっ。狐さん触らして下さい」


 快く頷き、ファサファサのしっぽを差し出す。


「うわぁ、気持ちいい。良い手触りだねぇ」


 その言葉を聞いて森の仲間達がカハルちゃんをぐるりと囲む。


「えっ? えっ⁉ どうしたの?」


 皆が一斉に触っていいと迫っていく。カハルちゃんがモテモテだ。俺も加わってこよう。


 びっくりしながらもカハルちゃんが順番に皆を撫でる。


「あれ、ヴァンちゃんも?」

「ん。お願いします」

「ふふっ。モフモフモフー」


 素晴らしい。ナデナデ選手権があったら第一位に輝く事は間違いない。


「ぼ、僕も、お願いします!」

「ニコちゃんも? おいで~」

「わーい、お願いします」


 バンザイして飛び込んで来たニコに場を譲る。今日は特に頑張ったから癒されるといい。俺はもう一切れリンゴを貰ってこよう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 後日、無事にニコのダイエットは成功した。そして、森では隠れるのをプラスした鬼ごっこが流行り、参加者も増えた。時々、シン様が鬼になると、ものの数分で全員捕まり、あだ名が付けられた。


 『森ハンター』。彼の者に見つかったら、誰一人として逃げ切れる者はいない。今なお、その恐怖は語り継がれているとかいないとか。めでたしめでたしである。


皆さんもニコちゃんの食べっぷりに太るんじゃ……と薄々思われていたと思いますが、見事に太りました(笑)。ヴァンちゃんに教えてくれと頼んでいる辺り、自分の事を良く分かっていますね。

ヴァンちゃん、最後まで逃げ切りました。これにより、悔しい思いをしたニコちゃんのダイエットが加速します。

シンは懸命にも、「確かにふくよかさが増したよね」という言葉を飲み込みました。でも、ヴァンちゃんは視線で全てを悟りました。ニコちゃんは慌てていたので気付いていません。


あと何話か投稿できる筈……。あまり期待せずにお待ち頂ければと思います(笑)。

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