58話 番外編 とある運営の苦悩1
(´・ω・`)らんらん
久々に三人称視点で書いてみました。
とあるゲームサポート電話窓口にて、一人の若い女性社員が居た。
やや童顔気味の柔和な顔つき。肩まで伸びたウェーブ状のプラチナブロンド、垂れ目気味の蒼い瞳、幼げな見た目と相反する二つの起伏が主張するように衣服を押し上げている。
彼女が腰掛けているデスクには、紙束の資料が整然と置かれていて、それらを睨めっこしながらパソコンのキーボードを叩いて情報を書き込んでいた。
そんなときに――突如として電子音が鳴り響いた。
それは彼女にとって当たり前の日常であり、お客様からの質問に応対してサポートすることが仕事の一つである。
彼女は、眼前で鳴り響く電話機に手を伸ばしかけ、右手首に巻きつけているファンシーな腕時計に視線を向けて時刻を確認すると、そのままの体勢で固まってしまう。
彼女は唇を噛みしめ、あきらかに逡巡の色が濃く顔に表れていた。
「あら? 電話にでないのかしら?」
そんな彼女に声をかけてきたのは、長い黒髪を後ろで一つに縛っているスレンダーな二十代後半の女性。やや吊り目がちの瞳を訝しげに染めて問いかける。
「せ、先輩!? …………えっと、その……で、でたいのですけど、こ、心の準備が必要でして」
「……どういうことかしら、何かトラブルでもあったの?」
すると後輩にあたる若い女性が、頬を朱く染めて伏し目がちに躊躇いながら言葉を紡ぐ。
「さ、最近、全く同じ時刻に、とある男性の人が……セ、セクハラ発言してくるのです! 私、頭の中が真っ白になって……どうしていいのか、分からなくなってしまって……ッ!」
そう言って彼女は顔を両手で覆い隠す。彼女は成人こそしているが、いまだに初心なのであった。
そんな庇護欲を掻き立てられる部分が男性職員に人気があったりして、影では雄達の睨み合いが密かに行なわれていたりする。
「……貸して、私がでるわ!」
先輩女性が、後輩女性の手から電話機を奪い取る。その表情には怒気が見え隠れしていた。
正義感がある彼女は、セクハラをしてくるという男性に嫌悪感を強く抱き、同じ女性として許せなくて行動にでたのだ。
「今日のパンツ何色?」
粘っこい声色で、恥ずかしげも無く言い放つ男性。
これに対して、彼女の下した判断は――有罪であった。
「お調べしますのでわかり次第折り返し致します。失礼ですがお名前とご連絡先をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
背筋が凍るような冷たく無機質な声色で、淀みなく返答する。何か巫山戯た発言をしようものならば、痛い目に遭わせるという意志がひしひしと感じられた。
「…………」
いつもと違う反応に、驚きのあまり息を深く呑むような音が聞こえ、無言のまましばらくして男性から通話が切られた。
「ふん、腰抜けの癖に下らない悪戯してんじゃないわよ!」
結果は彼女の勝利として終結し、悪しざまに罵ると深く息を吐出して落ち着きを見せる。
「せ、先輩! すみません、そして――ありがとうございましたッ!!」
後輩女性は深く頭を下げて感謝の念を示す。
「ほら、頭を上げて。別にあなたが悪いわけじゃないのだから。けれども、ああ言う輩に良い反応を見せちゃだめよ? 相手にするだけ時間の無駄だし、すぐに調子に乗るんだから」
「……はい、気をつけます」
「すぐに慣れろとは言わないけれど、それがあなたのためにもなるって言うことを留意しておいて欲しいの。そして不安で臆病な心に負けそうなときには私に頼りなさい。可愛い後輩のためならいつでも駆けつけてあげるわ!」
そう言って、後輩女性のウェーブを描く柔らかい髪を優しく撫でながら下に滑らせ、頬をゆっくり摩る。
本人は特に自覚もなく、後輩女性を落ち着かせるつもりでやっているのだが、やけに蠱惑的な仕草だった。
「……先輩」
後輩女性は顔から火が出そうなほど上気させ、恍惚となって瞳を潤ませる。
「ここにキマシタワーを建てよう」
たまたま通りかかった男性社員がその光景を見て、ぼそりと呟く。
先輩女性が声の主を睨み付けると、一般通過男性社員はそそくさと逃げるように立ち去っていた。
◆
先輩女性――霧崎響華は優秀な人材である。
二十代後半という若さにして各現場の監督を任せられており、細かな気遣いや的確な指示を下せることから部下からの信頼も厚い。
そんな彼女は現在――彼氏募集中であったりする。
優秀すぎる女性というものは敬遠されがちなものだ。職場の男性からしたら自分では釣り合わないと線引きされ、職場内恋愛とは縁が程遠いものになってしまっていた。
では、職場外で恋愛すればいいのでないかと思うが、それも失敗に終わっている。
彼女は美人ではあるのだが、やや吊り目がちの威圧的な雰囲気と、言いたいことをきっちりと本人に指摘してしまう性質であり、誤解を招いてお見合いなども上手くいってなかった。
あと数年もすれば三十代という一つの壁にぶつかってしまうことから、少なからず彼女にも焦りがあった。両親からは早く孫が見たいという願いが電話で伝えられるのが彼女の最近の悩みだったりする。
彼氏ができないという悩みはあるけれど、仕事は楽しい、職場内の雰囲気も良く部下とも良好な関係を築けていて順風満帆な生活を送れていた。
◆
彼女は今日も朝早くから出勤していた。
部下に的確な指示を飛ばしながら、イベントの進行具合を見守っている。
イベント終了まで後二日。
変態紳士ギルドとかいう変なものに目を瞑れば、特に異常は見当たらなかった。
今回のイベントは何事もなく大成功で終わる――はずだった……今日このときまでは。
「霧崎さん、変態です――じゃなくて大変ですッ! 一人のプレイヤーによってイベントが攻略されてしまいましたッ!」
一人の中年男性社員が息を切らしながら走り寄ってくる。
「……な、何を言っているのかしら? う、嘘でしょ? そんな非現実的なことが起こりえるの……?」
彼女は動揺しながらも何とか理性を保つ。その額からは冷汗が流れていた。
「それだけじゃないんです! さらに、そのプレイヤーがランキング一位になってしまっているんですよッ!!」
「はい?」
彼女の胃がチクリと痛む。心理的苦痛による症状だ。
そしてこれはまだ、ほんのジャブにすぎないことを彼女は知るよしもなかった。
「これを見て下さい!」
半信半疑ながら部下から渡されたタブレットを覗き見る。
そこには――現二位を遥か彼方に置き去りにするほどの圧倒的なタイムが刻まれていた。
直後――彼女の胃に激痛が走る。
まるで胴体にボディーブローを決められたかのような激しい苦痛に、思わず両腕で上半身を抱え込んでしまう。
「――ガハッ! チ、チート? ハッキング攻撃を受けたの? 今すぐ情報管理部門に連絡をつけて! 早くッ!!」
彼女の鬼気迫る表情に慄きながら、中年男性社員は慌てて連絡を取りつける。
「――何ですって!? ハッキングの痕跡は一切ないっていうのッ!?」
彼女の視界が揺らぐ。ストレスによる頭痛と目眩が起きたのだ。
「せ、先輩! 助けて下さい! 今回の一位のプレイヤーに対しての真偽の電話がもの凄い数で鳴り響いていて対応できませんッ!!」
後輩女性が霧崎にSOSを求めるのだが、彼女の耳には届いていなかった。
「先輩……?」
「落ち着け、落ち着くの霧崎響華。諭吉を数えて落ち着くの。諭吉は自分以外に五桁を持たない孤独な紙幣、私に勇気を与えてくれる」
彼女は訳の分からないことを言いながら、徐ろに財布から紙幣と取り出すと虚ろな瞳で諭吉を数え始めた。
「せ、先輩が壊れたッ!? だ、誰か助けてッ――!!」
「霧崎リーダーがおかしくなったぞッ! おい、今すぐ救急車呼んでくれッ!!」
「私を受け入れてくれない男なんてどうでもいいわ……お金だけは私を裏切らないのよ! ハハハハハ――ッ!!」
――辺りは阿鼻叫喚に包まれていた。
なんで前半、百合展開になっているんですかね?別に作者は百合に興味とかないのですが、なぜこうなった!?
(´・ω・`)ねぇねぇ
読者さんの今日のパンツ何色?
キマシタワー建設したい方、運営さんマジ不憫と思う方、後輩ちゃんのパンツの色を知りたい方、続きを早く読みたいと言う方、ぜひぜひそこにある「評価ボタン」をポッチとしていってね!
作者のやる気が上がりますのでよろしくお願いしますの!