前へ次へ
57/73

55話 ボッチ 骸王との対決

 四階層のボスを撃破し、五階層へと向かって宙を駆け抜ける。


 もはや言うまでもないが、複雑に入り組んだ地形と、趣向を凝らした嫌らしい罠の数々が俺を歓待した。

 最後の罠階層ということもあり、今までの道中と比べて更にその密度が上がっているような気がする。


 ピアノ線のようなものが道中の至るところに仕掛けられていて、楽しい空の散歩がデンジャラスなアトラクションへと様変わり。


 ゆっくりと歩きつつ、目をこらして道中を進めていけば、そうそう引っ掛かることはないだろう。

 けれど俺の場合は、常にジェットコースターに乗って進んでいるようなもので、難易度が跳ね上がってしまうのは言うまでもない。


 嫌らしいことに、わざと目に見えるように設置されたピアノ線擬きを囮にし、ツヤ消しが塗られ視覚に映りづらい本命の罠を踏ませて起動させたりと陰湿なものまである。


 なるべく避けられるものは避けていったが、狭い地形だとそれは叶わず、強引に切り裂いて攻略を進めていく。

 いやー、罠が至るところで起動するわ、するわで大変だったよ。


 物理的に襲ってくる罠――飛び出す槍や弓矢などは避けるもしくは弾き落とすことで逃れる。

 精神やステータスに異常を起こす罠――麻痺、毒、魅了、呪い、などは俺の装備によって無効化されていく。


 複雑に入り組む迷宮の中、最短ルートを常に選び続けて最速で進めたこともあり、あっという間にボスエリアに辿り着いた。


 大量の髑髏が埋め込まれている不気味な造りをした門が出迎え、俺を中へと誘う。

 今までのボスエリアと比べて広々とした空間で、下層へと螺旋状の階段が伸びている。


 俺は、階段を使わずに宙に身を投げて下降していく。下層を見下ろせば、地下には大量の『スケルトン』の死骸が蔓延っていた。

 どこもかしこも、骨、骨、骨。その様は、白骨が辺りを染め上げていて深雪のようである。


 唯一積もっていないのは、中央に存在している禍々しい存在感を放つ台座だ。その上には一つの棺桶が鎮座し、瘴気を撒き散らしていた。


 次の瞬間、変化が起きる。


 棺桶が突如として宙に浮かび上がって、蓋が開け放たれると閃光が辺りを覆う。

 中からは黒い靄を纏ったような人影が出現。その人影を軸として、四つの紅色の宝玉が周回していた。


 回転していた宝玉がピタリと止まり、光輝く。

 すると、下層に蔓延っていた『スケルトン』が、それぞれの紅色の宝玉に吸い込まれるように取り込まれていった。


 やがてそれらは蠢めきがなら積み重なっていく。あっという間に形状を変化させていき、瞬く間に一つの巨大な骸骨となっていた。


 とにかく大きいの一言に尽き、下から見上げようものなら首が痛くなること必至。攻略サイトで得た情報によれば高さ五十メートル級の化け物だそうだ。


 巨大な骸骨は、漆黒のマントを羽織り、頭上には黄金色の王冠を被っていた。さらに王冠の上には、黒い靄を纏った王の遺骸が乗っている。


 これが今回のボス――『骸の王』である。


 攻略方法は、『骸の王』の身体に埋め込まれている四つの宝玉を破壊することだ。

 そうすることで、巨大骸骨は身体を維持することができずに瓦解し、王冠の上にいる本体――『骸の王』を守っている障壁バリアが解除されてダメージを与えることができる。


 ただし、プレイヤーの攻撃では宝玉を破壊することはできない。

 ではどうするのかというと、ボスを中心として北、南、東、西に設置されているギミックを上手く利用する必要がある。


 設置されているのは、『バリスタ』という据え置き式の大型弩砲。


 簡単に説明すると、梃子てこを用いて弦を引き絞り、石や金属の弾、極太の矢(あるいは矢羽のついた槍)などを打ち出す兵器のことだ。

 歴史的にみれば古代から中世にかけて使われ、攻城戦における攻城兵器として活躍していた代物。


 このボスエリアの『バリスタ』に装填されているのは、『聖矢』という名称の三メートルはある極太の矢だ。光の力が込められているらしく、邪を払い清める効果がある。


 したがって攻略の鍵は、いかに『聖矢』を宝玉に向かって正確にぶち当てられるかの一言に尽きる。


『バリスタ』を起動するには、打つ場所に照準を合わせてスイッチを押すだけの簡単な作業となっている。

 とはいっても、素人が動く相手に宝玉を狙って打つというだけでも難易度が高いことだろう。


 だがそれは心配することはない。

 戦闘開始から十分後に、入り口近くに大砲が現われ『拘束光玉』というボスの動きを一時的に止めることが可能なアイテムを一発撃つことができるからだ。


  俺が動画で確認した時は、十分間とにかく時間を稼ぎながら『拘束光玉』でボスの動きを止め、すぐに『バリスタ』が設置されているところまで向かい、『聖矢』で宝玉を打ち抜くというのが基本的な流れらしい。


 が、俺からしたら……この戦法はあり得ないと、声を大にして言いたい。

 このタイムを競い合う今イベントにおいて、「十分間」も浪費するなんて俺には許容できるものではない。


 だから『拘束光玉』なんて待たず、すぐさま『バリスタ』を起動させ、例え相手が動いていようとも宝玉を射貫いてやるつもりだ。


 まあ、見ていてくれ――巨人殺し(ジャイアントキリング)が達成される瞬間ってやつを。


召喚コール


 俺は宙を落下しながら、師匠スライムを魔法陣から出現させる。

 さっそくで悪いが、師匠スライムを【手加減】のスキルを使って、大鎌で上から真っ二つに切り裂き、二匹に分裂させる。


 今度は二匹に分裂した師匠スライムに向かって、アイテムボックスから取り出した回復ポーションをぶつけた。

 次に師匠スライム達のHPが満タンになったのを確認し、同様にスキルを用いて二匹を横から大鎌で一閃。これにより、計四匹まで増殖させることに成功した。

 

 ……ここまですれば何をしたいのか分かるよな? 目標は、南、北、東、西に設置されている『バリスタ』の起動スイッチだ。


 師匠スライム砲、構え! ――撃てッー!


 構図としては、『骸の王』が中心として、俺の居る側が南となっている。


 まずは東側に向かって一つ。

 宙で身体を捻りながら大鎌の側面で師匠スライムを弾き飛ばす。


 つづいて西側に向かって一つ。

 先ほど弾き飛ばして振りきった際の反動を利用しながら回転し、師匠スライムを大鎌で弾き飛ばす。


 そして南側に向かって一つ。

 円運動の勢いを殺すことなく宙で体勢を整えつつ、縦軸に大鎌を振り払って師匠スライムを緩やかに弾き飛ばす。


 最後に北側に向かって一つ。

 中央にいる『骸の王』に向かって師匠スライムを大鎌で軽く飛ばし、カウンター移動ですぐさま追いつくと、充分に乗った加速を利用して更に弾き飛ばす。


 それによって、『骸の王』の頭上に緩やかな放物線を描いて、後方にある『バリスタ』へと飛んで行く。


 準備は整った。

 あとは、『骸の王』を中央付近に止めておく必要がある。それは俺が囮になって、『バリスタ』起動までの時間を稼ぐとしよう。


 俺は宙を駆けながら『骸の王』と相対し、奴の身体に埋まっている宝玉の位置を再度確認する。右拳に一つ、骨盤に一つ、心の臓に一つ、額に一つ。


 『骸の王』は、俺に向かって右腕を大きく振りかぶって、圧倒的質量で押しつぶそうと拳を放ってきた。

 もちろん、そんなものを正面から受け止めるなんて馬鹿な真似をするつもりはない。


 俺に向かって放たれたそれを自身に当たるギリギリの位置で躱し、すれ違う瞬間に右拳の側面へと大鎌を押しあて、相手の重心移動を利用しながら【パリィ】のスキルで東側に向かって弾く。


 軌道が僅かにずれた右拳の行く先には、『バリスタ』が起動したことで放たれた『聖矢』が迫っていて――お互いに衝突し合い、右拳に埋まっていた宝玉が砕け散る。


 まずは一つ破壊。

 弾き飛ばした師匠スライム達は、無事に『バリスタ』の起動スイッチを押すことに成功していたようだな。


 俺は【パリィ】で奴の右拳を弾いた反動を利用し、逆さま状態で錐揉み回転しながら下降していく。その先には西側から飛んできた『聖矢』が迫ってきていた。


 俺は、その『聖矢』を大鎌で下から突き上げるように【パリィ】で弾いて軌道を修正させる。それが向かう先は骨盤にある宝玉だ。


 ――パリィン


 二つ目の宝玉が砕け散る音色を耳に届かせる。

 これで残り二つ。


 ここまでくれば、やることは同じだ。俺はカウンター移動と【エクスプロージョン】の爆風を利用しながら宙を翔けて移動する。


 次は南側から飛んできた『聖矢』を【パリィ】で弾いて軌道を変化させ、額にある宝玉へ。

 最後に北側から飛んできた『聖矢』を【パリィ】で弾いて軌道を変化させ、心の臓がある宝玉へ。


「――チェックメイトだ」


 俺がそう呟いた次の瞬間――全ての宝玉が砕け散り、『骸の王』が崩れ落ちる。


 

 凄まじい轟音と閃光が入り交じって全てを包み込む。気づけば、俺はダンジョンの外へとワープしていた。


 ――やったよ、やってやりましたよッ! 一人ぼっちでイベント制覇だッ!!


 俺は勝利の余韻に浸りつつも、システムウィンドウを開いてランキングを確認する。

 そこには一位の欄に――『ボッチ』の文字が刻まれていた。


 俺が歓喜に打ち震えていると、『コメント入力をして下さい』という文字が現われる。


 ……ああ、そういえばランキング上位十位までの攻略風景を動画化するんだったっけ? 一位になることしか考えていなかったから忘れていた。


 うーん、コメントのことなんて考えていなかったから戸惑ってしまう。

 それから三分くらい、たっぷりと悩んで意を決するとタッチパネルを操作して入力する。


 ――――『友達募集中』と。


人力TASさん降臨!



チャーハン作るよ!!

 ∧,,∧

(;・ω・) 。・゜・⌒)

/   O━ヽニニフ))

しーJ


作者「読者さん、そんなもの欲しそうな顔してどうしたの?」


作者「これは作者のご飯なんだからあげないんだからねッ!」


読者「(´・ω・`)」


作者「……うッ、そんな顔しないでよ! あーッもう!」


作者「しょうがないにゃー、いいよ……あげる。その替わり材料費はちゃんと払ってよね!」


作者「え? お金ないのッ!? ……じゃあ、しょうがないから読者さんのポケットに入っている評価ポイントでいいよ」


.∧,,∧ 熱いから気をつけてね

(´・ω・) . (###)

(っ っ\ニニ/

し-J


というわけで、作者のチャーハン食べたい方、早く次の掲示板回を見たいぜヒャッハーな方、よければそこの「評価ボタン」をポッチとしていってね!

作者のやる気メーターが上昇しますので是非是非。

前へ次へ目次