52話 ボッチ 地獄を見る
圧倒的な火力の素晴らしさに酔いつつ、孤独による悲しみを抱えて突破した細道を通り抜ける。
そのときに【マジカルチェイン】のスキルを発動し、魔法の鎖を操って投擲した大鎌もきっちりと回収した。
ここまで順調に進めているが、更なる危険を冒して時間短縮を計るつもりだ。
巧妙に隠されていて目視では気づけないが、細道を抜けたすぐ足下に罠が設置されている。じつに嫌らしい配置で、難所を突破して気を緩めたところに落とし穴で一網打尽ってわけだ。
落とし穴の下には針山が待ち構えている。なんの備えもなく落ちようものなら致命傷のダメージを負うこと必至。
なんとか生き残ったとしても、その先にあるのは数々の罠が襲い掛かる一本の長い通路。
そんな危険な道を選ぶのは二つの理由がある。
一つは、罠の長い通路を無事抜けた先に宝箱が設置されていて、その中身がSPスクロールと豪華である。初回限定のみだから周回するメリットはないらしいが。
俺の職業の影法師はSPの消費が馬鹿みたいに多いから是非とも入手しておきたい。
もう一つ。こちらがメインの理由でもあるのだけど、罠の通路を抜けた先がボスエリアのすぐ近くへと繋がっているのだ。距離だけを考えれば正規ルートより近いというメリットがある。
以上のことから、端的に言えばショートカットによる時間短縮と宝箱入手の一石二鳥を狙っているってことだよ。
といっても他プレイヤーの視点から考えれば、宝箱はともかくショートカットについては疑問符を浮かべるだろう。
安全に罠の通路を抜けるには、ギミックを上手く利用して罠を解除していくという手間がかかる。その結果、ボスエリアまでの距離こそ近いが正規ルートよりも多くの時間を浪費してしまうからだ。
だが、逆に言えばギミックを利用しないで且つ罠を無視して通過できるとしたら?
――最短攻略への近道と成り代わる。
早速、攻略スタートだ!
まずは、落とし穴の罠にかかる必要がある。
ただ、この罠は生き物にしか作動しないシステムになっていて無機物には反応しないのだ。
そこで活躍するのが、俺にとって敬愛してやまない――師匠であらせられる。
「召喚」
俺の目前に魔法陣が浮かび上がり、その中央から青い塊が飛び出してきた。言わずもがな師匠である。
そんなラブリーの権化ともいえる師匠を鷲掴みにすると、落とし穴がある地面に向って放り投げた。
ガゴンッという重低音とともに、正方形の穴がぽっかりと空いて師匠が呑み込まれていく。俺もすぐさまその後を追う。
飛翔速度を落とすことなく、宙で逆立ちの姿勢に組み替えると、足裏に【エクスプロージョン】の爆風を当てて軌道を直角に変化させ、穴の中へと下降。
そこで、重力に従って下降していく師匠を見つけると小脇に抱えてキャッチする。
ここから先は師匠の命が危ないので、名残惜しいけど、ご帰還して頂くことにした。
「帰還」
再び現われた魔法陣に師匠は吸込まれると虚空に消えていった。
ありがとう、師匠。貴方のことは忘れませんッ! といっても、また後ですぐに再会する予定だけどね。
穴の深さは数十メートルといったところか、穴底にはギラリと光る針山が俺を歓迎した。
このまま下降すればボッチという名の串刺しアートが完成すること必至。さすがにそれは嫌なので状況を脱却するための行動に移った。
俺は宙で身体を丸めて両脚の膝を立てて踵を揃え、両腕は両膝を抱え込む――いわゆる体育座りになった。
そこに【エクスプロージョン】の爆風を上手いこと調整して、体育座りのままクルクルと螺旋を描いて真横に吹き飛ぶことで針山との接触を回避。
円運動が止まるころに宙で体勢を整えて真っ正面を睨み付ける。
視線の先には縦に長い真っ白な通路。横幅は大人二人分くらいの広さ。
さきほどまで紫色の土壁の中だっただけに、あきらかに人の手が入ったであろうその有り様は異彩を放っていた。
床には大理石に似た三十センチくらいの正方形パズルが、びっしりと敷き詰められている。壁の側面には丸い空洞の穴が疎らに空いている。それもかなりの数。
その穴からは罠の数々が飛び出す造りになっているのだ。
側面の壁から飛び出す罠を解除していくには、床に敷き詰められた石パネルに秘密がある。プレイヤーの近くにランダムで石パネルが発光し、その上に乗っていると罠が発動しないのだ。
ただ、石パネルは数十秒ごとにランダムで光る箇所が変わるから注意が必要だ。
プレイヤーの協力人数が多ければ多いほど発光パネルの発見が楽になるし、その内の誰か一人でも発光パネルの上に乗っていれば良い。チームを組んでいる人間からしたら至れり尽くせりだ。
……チーム、憎たらしい。おっとと、本音が少し漏れた。
というわけで、攻略作戦第二弾始まるよ!
その名も――「技術でゴリ押せ大作戦」だッ!!
デジャブ? 天丼? ネーミングセンスがない? 知るかッ!
簡単に説明すると、迫り来る罠を避けるもしくは自力で打ち落とすというシンプルで捻りのないゴリ押し。相変わらず作戦の「さ」の字もない。
では、攻略開始!
カウンター移動で飛翔しながら通路に進入。
さっそく左右の側面からゴトッという重低音が鳴り響いて罠が発動する。挟み込むように飛び出してきたのは長槍だ。
だけど、その長槍が俺を捉えることはない。すでに俺は数歩先に居るからだ。なぜならカウンター移動の飛翔速度が速すぎて、罠の感知が追いついていないのだ。
罠が発動するころにはもう移動し終わっているから、こちらに被害は一切ない。側面の罠は、このまま速度に任せてゴリ押す。
問題は正面から飛んでくる罠だ。こちらが目指す進行方向から飛んでくるわけだから迎え打つしかない。
キラリと何かが反射したのでその先を見据えると、弓矢の鏃だった。それが数十の塊となって色々な角度から俺に襲い掛かってきた。
それを爆風の反動を利用して避けていく。しかし、数が多い。なんとか隙間を見つけながら回避に専念しつつ進んでいるが、狭い空間であるために避けきれない場面もでてくる。
そのときは両手の【クイックチェンジ】のスキルで持ち替えた木の枝を振りかざし、【パリィ】を発動することで打ち落としていく。
打ち落とすという面ならば、大鎌よりも小回りが効いて手数の多い木の枝に軍配があがる。
後方がどうなったかと首を僅かに傾げて覗いてみると、それはもう酷いことになっていた。遅れて作動した罠の数々がごっちゃまぜになっていたのだ。
飛び交う刃物の数々。転がり迫ってくる棘付きの大玉鉄球。あらゆるものを呑み込もうとする濁流。何かが光輝いたかと思うと紫電が駆け巡って、その軌跡にあるものが消し炭に変えられていく光景。
――地獄がそこにあった。
なんだこりゃッ!? 少しでも速度が落ちようものなら物理的に地獄へとご招待されてしまうぞッ!!
そんなこんなあって、正面からの迫りくる罠をなんとか突破しつつ、出口まで辿り着いた。後ろは見るのが怖くて二度と振り向かなかった……。
うん、やっぱりボッチ君だけ別のゲームやっているよ。
作者「オラオラ、そこの読者さんよ! 隠しもっているんだろ? 評価ポイントをなッ!!」
作者「あ? 持っていないだって? 嘘つくんじゃねぇよ、ちょっとそこでジャンプしやがれッ!」
――チャリン
作者「やっぱり持っていたじゃねぇか! しかも10ポイントも隠し持っていやがって、覚悟は出来ているだろうな? 今すぐソイツを寄越さないと痛い目に遭うぞ!」
読者「【#・∀・】ムカムカ 」
作者「あ? なに調子乗ってんだァ、今すぐ簀巻きにして――」
読者「('^'c彡))Д´)パーン」
作者「(#)'3`;;)・;'.、グハッ」
読者「オラオラッ!」
作者「ひぃ、調子乗ってすみませんでしだァアアアアアアア! 命だけはご勘弁をッ! 何卒、何卒ッ!!」
という茶番はさておき、もし続きを読みたいと思う方がいたら、是非そこにある「評価ボタン」を押して下さると作者のテンションが上がりに上がりますのでポッチっとしていってね!