3話 ボッチ 逃走する
――目を開くと、そこはまさに異世界だった。
そこには町があり、石やレンガを使って道が舗装され、家などが立ち並んでいる。
武具を打ち鳴らす金属音。食べ物が焼ける食欲を誘う臭い。色鮮やかな貴金属に多種多様の服。
人々がそこらを行き交う活気に溢れた町並みで、商売人は客を逃がすまいと威勢の良い声で呼びかけている。
どうやら、古代と近代(または近世)との間の時代――中世をモチーフにしているようだ。
それから注目すべきは、現実ではお目にかかれないファンタジーに相応しい目の前の光景。
獣の耳や尻尾がついた種族。
尖った長い耳に整った容姿をしている種族。
小柄で逞しい肉体と長い髭を生やした種族。
身体に鱗や羽根があり、青い肌をしている種族などなど。
そう、これだよこれ! 画面越しでは味わえなかった視覚が聴覚が味覚が触覚が嗅覚が、すべて現実に感じられる。
俺はついにきたのだ異世界に!
ああ……もうこうして一日中眺めているだけでも飽きないだろうな。
俺は感動していたのだが、ふと我に返る。
現在装備している初期装備の黒いローブのフードをひっ掴み、目元が隠れるように被った。
なぜかって? 俺の鋭い目つきは人を怖がらせてしまうため普段から帽子などを被り隠している。その癖が今のような行為に至ったのだ。
あと、俺は人見知りだから人と目線が合わないようにすると安心するからだ。
どうやらマップ画面の情報からすると、ここは『はじまりの町』という名前らしい。
マップ画面を開くと赤く点滅しているマークがあり、そこには『冒険者ギルド』とあった。
ここが目的地ってことかな? さて向かうとするか。
たどり着いたその場所には、たくさんの人が溢れていた。
酒を飲み仲間達と談笑していたり、掲示板に貼ってある紙を眺めて思案気に吟味したりなど色んな人がいる。
そして、俺は気がついてしまった。
冒険者ギルドということは、ゲームのように依頼を受けてモンスターを倒したりするのだろう。
ということは……この人が溢れかえる中を突き進み、受付けをしているあの列に並ばないといけないということ。
それから受付けさんと色々とお話をして説明を聞きながら冒険者登録とかでもするのだろうか。
――人見知りの俺になんて難易度が高いこと要求するのだ!
すぐさま踵を返すと、町の外へと足を向ける。
これは逃げるんじゃない戦略的撤退だ!
べ、別に怖いからとかじゃなくて、説明なんて受けている暇があったらモンスターと戦闘とかしてみたかっただけだし……。
よし、やっぱファンタジーといったら戦闘だよな。
まずは気分転換に戦闘を楽しんでから冒険者ギルドには、後でまた来よう、多分。
◆
町の外にでてマップを確認すると『はじまりの草原』と書いてあった。
辺りは見晴らしの良い場所で、植物や雑草が風に靡いている。その合間には小動物が草木や木の実を餌にして食べ、長閑な雰囲気があった。
さて、まずは戦闘する前にステータスを更新しないとな。
職業<影法師>
PN:ボッチ
LV:0
HP:100
MP:100
攻撃:5
魔攻:0
防御:0
魔防:0
速さ:0
e:初心者のローブ(防御+0)
(耐久:無限)<初期装備>
e:初心者のナイフ(攻撃+5)
(耐久100%)<初期装備>
FP10P
SP10P
と今のステータスはこんな感じ。
FPはステータスをHPとMP以外に自由に割り振れるポイントでSPはスキルを習得するとき必要なポイントだ。
FPを使ってステータスを強化するのだが……悩みどころだ。
正直、職業レベルアップボーナスがない影法師はかなり厳しい。
バランスよくポイントなんか振っていたら他職業の人達とステータスの差が開くばかりだ。だから俺の取るべき選択肢は決まっている。
俺は覚悟を決めるとFPをすべて消費して一箇所へポイントを振り切る。
職業<影法師>
PN:ボッチ
LV0
HP:100
MP:100
攻撃:15(+10)
魔攻:0
防御:0
魔防:0
速さ:0
e:初心者のローブ(防御+0)
(耐久:無限)<初期装備>
e:初心者のナイフ(攻撃+5)
(耐久100%)<初期装備>
FP0P
SP10P
――攻撃に極振りした。
俺はこれから先、攻撃以外に1ポイントさえ割り振るつもりはない。
こうでもしないと、職業ボーナスがない影法師は他の職業より全て劣っている器用貧乏になりかねないからだ。
じゃあ、ダメージを受けたらその紙耐久で大丈夫なのか?
その速さのステータスでは、移動もろくにできないのにどうやって敵の攻撃をさけるの? ……と思うだろう。
それには考えがある。
俺はスキル習得画面を開くと、あるスキルを探す。攻防どちらにも対応できるこのスキルを極めることができれば、きっと生き延びれるはずだ。
――俺はそのスキルを見つけると迷わず決定キーを押した。